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#89 モノ余りの時代の経営戦略


モノ余りの時代,何が求められているのか

現代社会は人間生活が豊かになり「モノ余りの時代」に突入しています。世界的なベストセラーになったH.ロスリングの「ファクトフルネス」では,飲む水にも苦労するような極貧国が減少し,アジアを中心にある程度モノに恵まれた中間層の国が増加していることが示されています。かつての消費社会は物質的な欠乏を解消することに重点が置かれていましたが,現代では物質的な充足に伴って,モノではない新たな価値を求める生活スタイルへと変化しています。欠乏から引き起こされる渇望感が薄れた消費者は,「顧客体験価値」のような新たな付加価値を求めています。

モノはあるけれども心が満たされないというジレンマの中で,モノの充足をし基本としてきた資本主義に疑問が提示され,持続可能で社会的なWell-Being=幸福が重視されるようになりました。したがって企業は,「足りないモノを提供する」という問題解決ではなく,消費者は「何を足りないと思っているのか」という問題発見をすることが重要になってきています。企業はイノベーションにより製品やサービスに独自価値を付加し,顧客とともに価値を共創することで他社との差別化を図る戦略が求められます。

また,消費者の購買行動は二極化が進んでおり,気に入った製品やサービスにはお金を惜しまないという消費者心理が顕在化しています。このような時代の中で企業は,「速く安く大量に」モノを作る規模の経済追求ではなく,価値共創を志向するポスト資本主義としての経済活動が求められています。

何をやるかではなく,何をやらないか

情報化社会である現代は,有益なものからフェイクニュースのような悪質な情報まで氾濫しており,その膨大な量は却って意思決定を混乱に陥れています。また扇情的な情報はポピュリズムを助長しており,二極化が進む世界において,正しい選択を行う上での複雑さを増加させています。このような状況下で情報を取捨選択し,「何を信じないか」という判断軸を持つことはとても重要です。またこのことは「何をやらないか」という自らの活動のフィールドを決めることでもあります。

企業においてもこの考え方は非常に重要で,何にフォーカスし何を行わないかを明確にすることで,経営資源を有効活用し目標達成へのルートを切り拓くことができます。意思決定プロセスにおいては,目標を特定し関連情報を収集し,シナリオを設定し,シナリオに即したマネジメントをすることが求められます。シナリオ・プランニングにおいても,経営に対するインパクトの大きくないシナリオを排除すること,つまり「何をやらないか」を決めることが重要です。やらないことリストを作成し,無駄なものを省き,大事なことに集中することで,より高いパフォーマンスと効率性を実現できます。

スケールメリットではなく独自価値を考える

「失われた30年」で経済成長が鈍化している現代日本では,スケールメリットを追求する規模の経済のアプローチは通用しません。消費者ニーズの多様化に伴い,もはや画一的な大量生産では顧客満足を得られなくなっています。この問題への対応としては,顧客接点である現場サイドが主導する価値創造や市場アプローチが考えられます。すなわち企業は,顧客との価値共創やイノベーションの場として,オペレーションの意義を再認識する必要があります。

また現代日本は,人手不足や原材料の高騰といった供給面の不確実性が顕著になっており,これまでのように需要のパイを奪い合うような競争戦略だけでは事業継続が難しくなっています。特に人材の確保に関しては,社員が共感できるミッションやビジョンを提示できるか,また社員が成長を感じられるキャリアを用意できるか,といった人的資本経営の視点も大切になります。このように企業においては,経営企画部門が中心になって行うマネジメントだけでなく,社員のモチベーションを維持し生産性を向上させるオペレーションの重要性が増しています。

このように,社員が顧客と共に独自価値を創造する,モノの充足ではなく価値を共有する「絆」に基づく,経営戦略が求められているのです。

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正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html