【日記】ガラスペンの福音

 新しいカラーインクが欲しい、という話を以前ちらっとしたが、それを決断するにはいくつかの障壁があり、未だ実現には至っていない。

 一つにはもちろん予算であり、また一つには置き場所である(机の上がPCと本とその他色々なもので溢れていて、インク壺を置く余地がない)。しかしそれらはいずれも貯金や掃除でどうにかできるものだ。

 私が最も悩んでいたのは、カラーインクを使いこなすための万年筆をどうするかということだった。
 現在すでに色彩雫3色専用のkakunoを所有してヘビーユーズしてはいるが、同じ調子で万年筆を色ごとに揃える訳にはいかない。それこそ予算と置き場所的な意味でも。(そう、欲しい色はたくさんあるのだ……)
 ボトルインクを使いたい時に便利だというコンバーターなるものの存在も知ってはいたが、使ったことがなかったし(メーカー非推奨の自己責任方法だが、私は使用済みのカートリッジを洗浄して乾かし、100均で買った化粧水用の注射器を使ってボトルインクをカートリッジに注入して再利用している)、使い方もいまいちよくわからなかったし、果たして手軽なのかという不安もあった。
 某メーカーのお客様相談室にコンバーターについて質問してみたりもした。とても参考になったが、(私の感覚では)「手軽に色を変えられる」という感じではないようだった。

 やはり手軽に色を変えて書くというのは贅沢なのか……世のインク沼、万年筆沼の人々は皆私と違ってすごくマメで、ペン先やコンバーターを毎回ちゃんと洗ってはとりどりのカラーインクを楽しんでいるのか……? と真剣に悩み始めた頃、あるページが検索でヒットした。やはりインク沼の住人の方の、新しいカラーインクを買ったので試し書きをしてみたというブログ記事だった。

 その人は、試し書きにガラスペンを使っていた。
 すぐにインクが切れるものだと思っていたが、思った以上に書き続けられるらしい。そして、こうも書かれていた。(※うろ覚えなので正確な再現ではない)

『ガラスペンならペン先を水洗いするだけで違う色のインクがすぐ使えるから便利!』

 …………こ、

 これだ――――!!!!!

 ガラスペンは私にとって決して身近なものではなかったが、万年筆沼に片足を突っ込んだ頃(色彩雫を買ってすぐくらいの頃)、ガラスペンってどんな感じなんだろう~と絵描きの友達に何気なく話したところ、
「総ガラスじゃなくてペン先だけガラスのでよければ、もう使わないのがあるからあげるよ。試し書きに使ってみたら?」
と有難すぎる言葉をいただいたので、竹軸と木軸のものを送ってもらったことがあった。細字の好きな私にとって衝撃的なほど太い線が書けるペンだったが、サリサリとガラスが紙面を擦る独特の感覚は、万年筆とは全く違って新鮮に感じられたのを覚えている。

 そして実は、万年筆にもカラーインクにも縁のない子供だった頃に、何かのご縁でガラスペンをいただいたことがあったのも、同時に思い出した。
 子供の私は筆記用具としてのガラスペンにはちっとも魅力を見出せなかったが、幸か不幸かそのガラスペンは総ガラス製で、軸には色のついた液体が満たされていて、動かす度にゆらゆら動く、つまりはとても綺麗な見た目だった。そのため筆記用具として使うことは最初の一回でやめてしまったものの、その後ずっと元通りパッケージに入れた状態で机の引き出しに仕舞い込み、思い出したようにうっとり眺める、そういう存在だった。
 そして――今はもう実家を離れて久しいのだが――先日久しぶりに実家の私の机の引き出しを探してみると、なんとというか予想通りというか、記憶のままの姿でガラスペンが眠っていたのだ!

 これはもう、使うしかない。

 貰った当初はまったく良さのわからなかった綺麗なだけのいただき物が、二桁年を経てこんなにも輝いて見える日が来るとは! まったく、人生何があるかわからないものである。

 そんな訳で、実家から持ち帰ったガラスペンを今洗浄中である。インクといえば黒しか知らなかったあの頃、拭き取っても残るインクの黒さが嫌になってそれきり仕舞ったままにしていたので、正直きれいになるか不安だったのだが、さすがはガラス、さすがは水性インクと言うべきだろうか。水に浸けるとじわ~~っとインクが溶け出し、拭くほどに汚れが落ちていく。

 完全にきれいになったガラスペンで、カラーインクを使うのが楽しみだ。

 それではまた明日。