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熱狂の渦の真ん中でなにを感じるのか ~映画『エルヴィス』をみた~

エルヴィス・プレスリーについては、ほとんど知識がありませんでした。
知っていたのはいくつかの有名な曲と特徴的な姿くらい。

だけど、監督がバズ・ラーマン。
昔、レオナルド・ディカプリオ主演の『ロミオ&ジュリエット』やニコール・キッドマン主演の『ムーラン・ルージュ』などを監督した方です。

きらびやかで派手な映像美や音楽の印象的な使い方が私好みで、密かにずっと覚えていた監督さんでした。
観ると興奮して力が入ってきてワクワクするシーンが、必ずあるのです。
そんな監督の撮るエルヴィス・プレスリーの伝記映画……きっとおもしろいに違いないぞ。

結果、今回も非常に興奮しました。
特にライブシーンが素晴らしい。
伝説のような「女性が熱狂して失神しそうになる」場面が効果的。
人が熱狂している姿が続くって、なんかあおられませんか。

でももちろんそれだけじゃない。
主演のオースティン・バトラーが、ものすごくエルヴィスです。
歌も最高。
ライブ中に自身も気持ちが高揚していく様もとても伝わってきて、他のプライベートな場面との落差が際立ってよいのです。

また、悪徳マネージャーと言われている人物を演じたトム・ハンクスがやっぱり上手い(なんか上から目線だけど)。
憎らしさ、恐ろしさ、滑稽さ、その中に混じる哀愁みたいなもの。
さすがなんです。

めくるめく世界にこちらも陶酔していると、エルヴィスが徐々に実生活に適応できなくなっていく様子が重くのしかかります。

あれだけ他者に熱狂的に迎えられて光の中にいる。
そうしたライブの興奮は確かに恐ろしく中毒性があるのでしょうし、ひとりの人間として生きるプライベートとの落差に疲弊するのかもしれない、と想像するところです。

台風の目のなかに入ると静かになったりするものだけど、熱狂の渦の真ん中もシンとして寂しいものなんでしょうか。

映画はトム・ハンクス演じるマネージャーの回想で進みます。
そこがミソなのかも。
エルヴィスの心中はわからないまま。
ただ私たちは、彼を仰ぎ見るだけなのです。

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