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まさかのドキュメンタリー「83歳のやさしいスパイ」

最近、災害や理不尽さに愕然とするような
あれこれのニュースが続き、
なんとか気持ちを変えたくて、
映画を観に行きました。

実はこの映画、観に行くまでは
(実話に基づいた)フィクションなのだろうと
思っていましたが、
バリバリのドキュメンタリーでした。

南米・チリの老人ホームを舞台にしたこの作品、
「83歳のやさしいスパイ」に
俳優は一人も出演しておらず、
全て実際の人物とのことで、びっくり。

マイテ・アルベルディ監督は
探偵事務所で働いていたことがあり、
「家族が入居している老人ホームで
どんな生活をしているか調べて欲しい」
という依頼が実際に繰り返し入るのを
目にしていたのだそうです。

この映画では、実際に、
ある老人ホームの入居者の娘から
「母が虐待にあっていないか調べて欲しい」
という依頼が探偵事務所に入り、
その事務所は潜入調査をするべく、
新聞に広告を出して、
スパイとして極秘ミッションを行う
数人の高齢の男性を面接します。

結果的に採用されたのは、
4ヶ月前に妻を亡くしたばかりの
83歳のセルヒオ。

最初はスマホを使うこともおぼつかなかった彼が
動画撮影、音声メッセージの
録音と送信まで覚えて、
一般の入居者としてホームに入所します。

このホームでは潜入調査のことは告げずに
「このホームの様子を映画にとっている」
という体でセルヒオの入所前から撮影を開始し、
入居者の皆さんが撮影になれるように準備。

でも、皆さんの自然の会話がとても楽しくて、
セルヒオが来た日には
女性たちは「素敵ね」とコソコソ囁いたり、
デザートを食べずに
セルヒオに「食べて」とプレゼントしたり、
まるで女学生のよう。

セルヒオも慣れない機器に手こずりつつも、
ターゲットの女性を探すところから始めます。 

(事前に写真を見せられていましたが、
慣れていない最初のうちは
「似ている人が4人もいてまだ特定できない。」 
確かに、似たような年恰好の老婦人って、
慣れないうちは見分けるのは難しいかも。) 

セルヒオは、調査のためでもありますが、
他の入居者の方にも積極的に話しかけます。 

やはり老人ホームですから、
記憶のはっきりしている人もいれば、
物忘れが激しい人、
家族が面会に来てくれる人、
全く面会に来てくれない人、
いつも外に出たがっている人、
ベットに寝たきりの人など、
様々な人がいます。

そんな方たちと接するセルヒオは
最初はあまり目立たない印象だったのですが、
かなり気持ちが細やかで、
「あなたは綺麗な方ですね」など、
女性たちへの言葉がけも
なかなか気が利いています。

おそらく文学にも
ある程度の知識があるようで、
入居者の女性の作る詩を
「あなたの詩は韻がいい」
などと賞賛します。 

そして、
ターゲットである女性のことだけでなく、
他の方達にもそっと寄り添って話を聞き、
「学校のカバンをなくした!」
という女性には(事実ではないのですが)
「それは残念ですね」と同情したり、
ずっと家族が会いに来ていない女性のことを
気の毒に思い、
自ら探偵に依頼して
そのかたの家族の写真を入手してもらい、
その女性にプレゼントするのです。

セルヒオと話したことも忘れてしまう女性も、
家族の写真を見ると
それぞれの名前をしっかり思い出し、
セルヒオが
「みんな美人ですね」
と褒めると、
「ええ、そうなの」
と嬉しそう。

セルヒオは元々優しい人柄でもあるのでしょうが
このスパイの仕事をする前には
妻を亡くした後、一人で生活していたので、
「老いて一人で過ごすことの寂しさ」
をよくわかっていたからこそ、
ホームで寂しそうにしている入居者の方達を
ほっておけない気持ちになったのでしょう。

彼の娘は彼とは同居してはいないものの、
セルヒオとの仲は良いようで
スペイの仕事を始める前に、
娘も探偵から詳しい内容を聞くのですが、
「高齢の父がそんなことを・・・」
と心配するのです。 

その時、セルヒオは

「妻を亡くしてから毎日の買い物に出かけて、
どこに何があるかもすっかり覚えてしまった。 

花や空を眺めたりもしてみたが
それにも飽きてしまっていた。 

この仕事にはやりがいを感じるんだ」

と話し、娘も父の仕事に同意するのです。

この映画のことはもう少し紹介したいのですが、
長くなりましたので、続きは次回に。

ちなみに、わたしがこの映画を見たのは
家から歩いていける「UPLINK吉祥寺」。

上映スケジュールは映画館のHPでご確認ください。 

今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。

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