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16年前に、3人が憂いていたこと。「この日、集合。」

小沢昭一氏、永六輔氏、井上ひさし氏。

すでに3人とも亡くなっていますが、
2006年5月3日の憲法記念日、
この方達が憲法について
「独話」と「鼎談」を行う
イベントが行われました。

その時の記録をまとめたのが、
「この日、集合。[独話]と[鼎談]」。

(このブックレットの表紙の絵は
ポスターやチラシにも使われたもので、
和田誠さんの作品です。)

小沢昭一さん、俳優(1929—2012年)。
永六輔さん、放送作家、作詞家、作家(1933-2016年)。
井上ひさしさん、小説家、劇作家、放送作家(1934-2010年)。

3人の中では小沢さんが少し年長ですが、
永さんと井上さんとはほぼ同じ年代。

年代や住んでいた地域によっても
直接空襲にあった・あわない、
食べ物があった・なかった、
など、3人の戦争体験は異なります。

3人それぞれのお話の中では
東京裁判や沖縄戦などにも触れられ、
それぞれに平和を祈る気持ちも
伝わってきます。

永さんは三波春夫さんについても
語っています。

三波春夫さんといえば、
演歌歌手として華やかな印象がありますが、
戦争を憎み、憲法に詳しく、
永さんに対しても、憲法について条文をあげ、
詳しく説明してくれたそうです。

三波さんが積極的に憲法について
語るようになったのは、
がんの告知を受けてから。

そんな三波さんが
「守らなきゃいけない憲法の中で一番大事」
と永さんに紹介したのは、
「天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、
公務員はこの憲法を守らなければいけない。」
という憲法第99条。

以前の投稿でも書きましたが、
憲法を守らなくてはいけないのは国民ではなく、
首相、大臣、国会議員など、
権力を持つ立場の人たち。
権力者が国民の自由や権利を
奪うことができないよう、
公務員の勝手な行動を制限するために
定められたのが、この憲法だからです。 

他の二人よりも少し年長の小沢さんは、
戦中に歌われていた歌をいくつも
紹介しています。

戦前から終戦まで広く歌われた
「愛国行進曲」は
出征兵士を駅まで送る時にも
必ず歌われていたとのこと。

だからこそ小沢さんは
「どうもこの『愛国』という言葉が出てくると、
それからすぐに戦争になるという気が私はするんです。
そういう体験を実際にしていたから。」
というのです。

「海ゆかば水漬く屍」の「海ゆかば」。
「咲いた花なら散るのは覚悟」という
「同期の桜」。
「大和おのこと生まれなば散兵線の花と散れ」
という「歩兵の本領」。

「勝ってくるぞと勇ましく」の「露営の歌」の歌詞に至っては
「弾丸もタンクも銃剣も
しばし露営の草枕
夢に出てきた父上に
死んで帰れと励まされ」。

「寝てる間に親父は夢にできてまでも
死ねって言うんだ」
と小沢さん。

小沢さんは
「あの頃の軍歌、軍歌歌謡は、
なんでもかんでもみんな死ねという歌」
と語っています。

「昔の軍歌、軍国歌謡、
みんな知ってます。
だって軍国少年あがりだもん。
私はバリバリの軍国少年でしたよ。
そういうふうに国を挙げて
マインドコントロールされて育ってきたから。
(中略)
もう教育は全部マインドコントロールです
ですから心の底から軍国少年。」

旧ソ連で従軍した女性たちの声をまとめた
アレクシエーヴィチの
「戦争は女の顔をしていない」
でも国の教育によって
自ら進んで戦地に赴くことを当然とする
少女たちの姿に、
国の教育の力の強さを感じて慄然としましたが、
小沢さんの話からも教育の力、
そして歌の力やその時の社会の空気の
影響力の大きさを感じました。

3人それぞれに戦争体験も語ったあと、
小沢さんが
「今の大臣なんか、全員おれより若いんだから、
あのつらさ、ひどさを知ってないんだよ、
あいつら。
知ってないから、いろんなことを言うんだよ」
と話す言葉には、説得力がありました。

井上さんは戦争に関するお芝居も
書いていらっしゃいますが、
(実際に体験した)戦争体験を伝えられるか、
という問題はとても難しい、
そのために芸というものがある、
と話します。

「見えないものを芝居にしたり、
小説にしたり、音楽にしたり。
小沢さんのように語りにしたりしながら
伝えていく。
そのために僕らはつまり表現という方法を
授かっているわけですから。」

そして、お三方は戦争の放棄について述べた
憲法第9についても、
「守るべき」との姿勢をとっています。

16年前にこのように語っていたお三方が、
日本国憲法を大きく変えようとする
自民党の改憲草案を見たら、
なんと言ったことか。

現行憲法前文の
「政府の行為によって
再び戦争の惨禍が起こることのないように
することを決意し」
という部分は、自民党草案では
「先の大戦による荒廃や
幾多の大災害を乗り越えて発展し」
となり、
「政府による戦争をしない決意」
が前文からなくなります。

現行憲法第9条の
「陸海空軍その他の戦力は、
これを保持しない」
という部分は、自民党草案では
「内閣総理大臣を最高指揮官とする
国防軍を保持する」
となり、9条の3として国民に国防義務を課し、
「徴兵制」を合憲とすることが可能になります。

現行憲法96条の
「この憲法の改正は、各議員の総議員の
三分の二以上の賛成で、国会が、
これを発議し」
という部分は、自民党草案では
「この憲法の改正は、
衆議員または参議院の議員の発議により、
両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し」
隣、衆参両院における憲法改正の提案要件を
「3分の2以上」から「過半数」に緩和。

現行憲法97条の「基本的人権」にいたっては、
「現在及び将来の国民に対し、
侵すことのできない永久の権利」
と記載した条文が、
自民党草案では全文が削除されています。

この条文全てを削除してしまえば
「公益及び公の秩序」が優先され、
基本的人権が国家によって制限されることに
なってしまいます。

また、自民党草案にはこれまでなかった内容の
新設98,99条があります。

その内容は
「内閣総理大臣は、
法律で定める緊急事態において、
閣議にかけて、
緊急事態の宣言を発することができる。
緊急事態の宣言が発せられたときは、
内閣は法律と同一の効力を有する政令を
制定することができる。
何人も、当該宣言にかかる事態において
国その他の公の機関の指示に
従わなければならない。」

緊急事態の名の下に
政府の独裁を許すことになりかねない
とても危険な内容です。

(これまではこのような緊急事態条項がなくても
公共の福祉について定めた現行憲法12条や
災害対策基本法など現行憲法や法律のみで
対応できていました)

そして、南さんや永さんが
その大切さを強調していた現行憲法第99条の
「天皇もたは摂政及び国務大臣、国会議員、
裁判官、その他の公務員は、この憲法を尊重し
擁護する義務を負ふ。」
は、自民党草案では
「すべて国民は、
この憲法を尊重しなければならない。
国会議員、国務大臣、裁判官、
その他の公務員は、
この憲法を擁護する義務を負う。」
とされます。

つまり、これまでは国家権力側が権限を乱用することがないよう
「国家権力を縛る鎖」となっていた憲法が、
(もし憲法が改悪されたとしても)
国民が従わねばならない、「国民を縛る鎖」
となってしまうのです。

(自民党の改憲草案には
気になる部分は他にもまだまだあるのですが、
ここでは上記のみ記載しました。)

戦争を体験していた3人の方も
その大切さを語っていた憲法。

簡単に憲法を変える前に、
法律で対応できるものは法律で対応するべきで、
必要であれば憲法よりも法律改正を検討する方が先のはず。

それより先に憲法改正を急ぐのは
おかしいのでは?
としか思えないのです。

長くなりましたが、
今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました・

*参照先:



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