マガジンのカバー画像

映画の話

9
運営しているクリエイター

記事一覧

『星を追う子ども』ー新海誠の転換期ー

『星を追う子ども』ー新海誠の転換期ー

 私は新海誠監督作品の『星を追う子ども』はあまり好きではなかった。

 しかし新海誠作品のサントラがサブスク配信されてエンディングテーマの熊木杏里の「Hello Goodbye&Hello」を聴き、歌詞を読んだら『星を追う子ども』が新海誠監督の転換期になったのだと考えた。『星を追う子ども』以前は「会えない物語」だったが、それは絶対に会えない訳ではない。もしかしたら会えるかもしれないという可能性を孕

もっとみる

『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』ー終わるということー

『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』(以下、叛逆の物語)はゲームの支配者から脱出とそれに伴うループからの脱出を描いた作品だ。
 叛逆の物語では暁美ほむら(以下、ほむら)が魔女化を食い止めるため閉じ込められた世界で自分自身が望んだ中学生活を送りながら魔法少女としてナイトメアと戦うとい理想の世界でループ(終わりなき日常)を過ごしている。しかし、それは内側の自分の都合が良い世界であり、本当の自分

もっとみる

『桐島部活やめるってよ』ー多様化する社会を描くことに成功した映画ー

『桐島部活やめるってよ』は地方都市の高校を舞台に神木隆之介の映画研究グループ(非モテ)、帰宅部(リア充)、ギャル(リア充)、恋に恋をする部活少女、という多様な視点で部活も勉強もできてクラス一番の美人を彼女に持つ桐島が部活を辞めるという現象に対しての各グループの視点を描いた青春群像だ。
物語構造はチュンソフトのゲーム作品である『街ー運命の交差点ー』、『428〜封鎖された渋谷で〜』やギャルゲー、エロゲ

もっとみる

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』ートラウマを乗り越えて喪に服す物語ー

 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(以下あの花)はトラウマと喪に服す物語だ。
 過去に事故で死んだめんまが幽霊として 引きこもりであるじんたんの目の前に現れる。そこで彼女は「めんまのお願い」を叶えてくれと願う。そこから過去で「超平和バスターズ」というグループを組んでいた親友だった元々はガリ勉だがギャルに転身したあなる、世界を放浪していたぽっぽ、進学校に通うゆきあつ、つること共に「めんまの

もっとみる

『ヒミズ』ー絶望の果てに少年は何を夢見るのかー

 園子温監督作品である『ヒミズ』は、近年の作品である『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』とは異なる作品である。
 『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』はエディプスコンプレックスに支配され、神=父の象徴であり、父に支配された人生から開放、または破滅していく物語であり、エディプスコンプレックスに支配された中での新興宗教に吸収されていく家族、崩れた家族を描いており戦後のパターナリズム批判と70年代という日本

もっとみる

『映画 けいおん』手の届く幸せ

『映画 けいおん』手の届く幸せ

 劇場版の『けいおん』はファンサービス溢れる作品だ。今まで登場したキャラの登場やネットで人気のあるモブキャラの登場など視聴者の望むサービスを盛り込んでいる。
 そんなファンサービスに溢れた作品である『映画 けいおん』の根底にあるテーマは「手の届く幸せ」だ。
 「手の届く幸せ」とは何だろうか。それは作品の中で描かれる仲間との連帯とコミュニケーションで生まれる日常の中

もっとみる

『監督失格』—僕は林由美香を知らない。喪失が終わる、あるいは始まる物語—

 林由美香はAV女優である。だから彼女について詳しく知っている人と全く知らない人と2分化されると思う。僕は後者に当たる。僕がAVに触れる前に彼女は逝ってしまった。
 AV女優は名前が出るが監督は表に出ることはめったに無い、『監督失格』の監督である平野勝之はAV監督である主に80年代後半から90年代にかけて活動を主にしたAV監督だ。彼についても僕は知らない。
 この映画で唯一、知っているのはプロデュ

もっとみる

『アウトレイジ』全員が悪、あるいは正義の終わらないゲーム

北野武監督作品『アウトレイジ』は仲内のヤクザの報復合戦を描いた作品だ。
ボッタクリクラブに兄弟分のヤクザをハメたことから仲内での終わらない抗争というゲームが始まる。そこではお互いが悪であり、裏を返せば自分たちが正義の世界でヤクザたちは陰惨な報復合戦を繰り広げる。
 今までの北野武監督作品とは違い主人公(たいてはビートたけしが演じる)が組織を逸脱して個人が破滅する物語とは違い、組織として破滅と世代交

もっとみる

『フリクリ オルタナ』ー失われた日常を求めてー

『フリクリ オルタナ』は『フリクリ プログレ』と二部作で制作された映画だ。『フリクリ オルタナ』は17歳の女子高生4人組を中心とした群像劇である。『プレグレ プログレ』は男女のボーイミーツガールが世界を救うという80年代的な想像力、つまり「私ってカワイイ系」の女子が男子に救済される(逆に言うとオタク男子が女性を救済したいというレイプファンタジー)という退屈なものだった。前作の『フリクリ』とは繋が

もっとみる