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【リレー】あなたの好きな映画は?

「好きな映画は?」と聞かれたら、『月の輝く夜に』と答えるようにしている。他にも、子供の頃に録画ビデオがすり切れるまで見た『グーニーズ』や、ガイ・リッチーのスタイリッシュな初期作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』、ジュード・ロウのかっこよさにもん絶した『スターリングラード』などいろいろあるのだが、考えると迷路にハマるので、10年ほど前に『月の輝く夜に』にしようと決めた。

初めてこの映画を観たのは社会人1年生の時だ。会社帰りに立ち寄ったレンタルビデオ店でこれを手に取った。女子寮に帰宅後、そのビデオは、当時かわいがってもらってた大阪出身の先輩と観ることになった。

「映画、一緒に観ませんか? ラブストーリーっぽいヤツなんですけど」(私)
「ラブストーリー! えーやん、観る観る!」(先輩)
そんなノリで。

新人の振る舞いが板についてきた頃の私は、ささっとグラスを2脚用意し、赤ワインを注いで、ビデオの再生ボタンを押した。

ストーリーは、ざっくりとこんな感じだ。

舞台はニューヨークのリトル・イタリー。夫と死別したアメリカ人ロレッタ(シェール)が、幼なじみのジョニー(ダニー・アイエロ)からプロポーズされる。”ときめかないけど、まあいっか”なノリで申し出を承諾。しかしジョニーが母親の危篤で故郷シチリアへ帰省中に、彼の弟(ニコラス・ケイジ)と恋に落ち――――

私が印象に残ってるのは、ストーリーにちりばめられた笑いだ。登場人物は皆、中高年のイタリア系移民。酸いも甘いも噛み分けた人々が滑稽な日常に対して放つセリフは、ずっしりと重く、おかしみを誘う。

真夜中に起こされたロレッタの母が、目を覚ますなり
「誰か死んだの?」
というシーンは特に印象的。

他にも、婚約者の飛行機を見送るロレッタの横で、老婆が「飛行機に呪いをかけたの」というシーン、冷静沈着なロレッタが婚約者の弟と勢いで寝てしまうシーン、そして翌日、うれしそうに朝帰りするシーン。全編にわたって「なんでやねん」と突っ込みたくなる場面が満載なのだ。

九州人の私がエセ関西弁で突っ込んでもサムいだけなのだが、その夜は横に大阪出身の先輩がいた。一つ一つのシーンに「なんでやねん」「ありえへん」と絶妙な突っ込みが入る。体に回ってきたワインの効果と相まって、私はその一つ一つのシーンでお腹をよじらせた。

最後まで笑い倒して映画鑑賞は終了。
「ユキちゃん、この映画、ラブストーリーやないで。コメディーやで」と先輩から突っ込みが入る。その後も2人で夜更けまで赤ワインを飲み続けたのだった。

過去に面白い映画にはたくさん出会ったが、これほど楽しく鑑賞した映画はない。極上のストーリーに、極上の俳優陣、極上の突っ込み、赤ワインこそたぶん安物だったが、その空間にあったすべてが、いい思い出として私の心に残ってる。

そんなわけで、一番お酒がおいしかった映画・・・、いえ、一番好きな映画は『月の輝く夜に』です。

それでは皆様、よいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いします。



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