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文化人類学と社会学をざっくり知る。プロダクトデザインにどう関連するか?

プロダクトづくりには「リサーチ」という工程があります。
大ざっぱに代表的なものを分けると、UXリサーチとマーケティングリサーチでしょうか。

UXリサーチが、個人にフォーカスし、実際にどういった体験が発生しているかの探索や仮説検証を行うのに対し、マーケティングリサーチはユーザーの集団がいる環境はどういう状態なのかを推定します。
両者を適宜、行き来しながらプロダクトづくりが進んでいきます。

近年、UXリサーチにおいて、文化人類学的な手法や考え方が取り入れられるといった話題は注目されています。
このような勉強会や記事が公開されていたのは記憶に新しいです。

いっぽうで、私個人としては、社会学出身の作家の書籍に興味を持つことも多かったです。
「社会」という個人よりも大きい枠組みを見つめていて、性質的にはむしろマーケティングリサーチと近しい印象を持ちますが、人の在り方を理解するという意味では、文化人類学と社会学には重なり合うところもあるように感じていました。

自分の業務に取り入れるにしろ、あらためて、いったいこの二つの学問の主旨はなんなのか?違いは?を知っておきたかった。

いくつか入門書を読んで調べてみたことを自分の記録としても、以下をざっくりまとめています。

  • 文化人類学と、社会学とはなんなのか?

  • 何が重なり、何が異なるのか?

  • 改めて、プロダクトデザインにどう関連しそうか?

(入門書を読んで自分なりに整理した内容なので、解釈が異なることがあるかもしれません。なにか指摘やアドバイスなどあれば、ぜひご意見をいただけると嬉しいです🙏)

ざっくりまとめ

比較するとこういうことになりそうです。
それぞれの内容は後述していきます。

文化人類学と社会学のまとめ

それぞれの目的・主旨

文化人類学とは?

地球上の民族の社会や文化を研究する学問です。

現在は、「異文化を知ることを通じて、結果、自分たちの存在や文化を理解」することをこころみる学問とも言えます。

もともとは、19世紀末に西洋諸国がアジアやアフリカなどを植民地にするようになったのが発端で、西洋がそれらの国を研究するためにたちあがりました。
そういった背景があったため、調査員自身に「西洋のほうが道徳的で文化的である」という価値観やバイアスがあり、他の国の文化を「遅れた国」前提で理解してしまう、というなどの問題が指摘されました。

そういった問題意識も経て、学問自体の在り方も変化してきました。
「異文化を"異"ととらえず、自分の文化や価値観のバックグラウンドをできるだけ薄くし、相手の文化の中に入って理解する」ことを重視するようになったのです。

結果、フィールドワークが重要な要素であり、実地調査が中心の調査手法となっていますし、その手法については知見が蓄積されています。

社会学とは?

社会学は自分たちの属する集団や社会に対して問いを立て、それを明らかにしていくことを重視する学問です。

問いの対照となる「社会」の規模感はさまざまです。
例えば家族や地域、国家というマクロなものから、個人の行為や「こうしなきゃ、という感覚」などのミクロな規模感のものも「社会」の対象になることがあります。

このくらい幅があるとなると、問い自体は、文化人類学と重複するケースもあると捉えられそうです。

比較すると、「相手を知る」ことで、結果的に自分たちの輪郭を明らかにしていく文化人類学と、「自分たちの社会」に対してストレートに理解や考察を深める社会学は、その発想のスタート地点が異なるんだなとわかります。

それぞれの調査手法

文化人類学の調査手法は?

文化人類学の大きな特色は、フィールドワーク(実地調査)によって具体的かつ実証的な研究を行うことです。

フィールドワークでは、観察と面接が一般的に使用されます。
参与的観察は、相手の生活や仕事に参加しながら行う観察方法です。面接はインタビュー形式で行われます。

文化人類学の現地調査では、往々にして、当初の計画から予想外の方向に進むことがあります。
計画通りに調査をして結論づけることより、むしろ、現地での経験により、先入観や先行研究の枠組みが崩れ、新たな見方が生まれることを歓迎しているのです。

人類学の調査では、「自分のいる世界から自分を切り離し、できる限り現地住民と接触すること」が重要です。互いに変容することが重要であり、客観的なデータ収集よりも価値があります。

一人から聞いた情報が他の人の話とつながり、点と点が線になり、全体像が少しずつ見えてきます。
調査者は手探りで事実を拾い集め、組み立てていくプロセスを経ます。

社会学の調査手法は?

社会学の調査手法は、質的なものと量的なものに分けられます。
量的な調査は数字で表現できるデータを扱い、質的な調査は文章や映像などで表現されるデータを扱います。

量的な調査方法の例は、統計調査やアンケート調査です。また、質的な調査手法の例は、フィールドワークやドキュメント分析などです。
(社会学でも、選択肢のひとつとしてフィールドワークは含んでいるのです)

数量データは、社会の変化や都市部と農村部の違いなど、長期的な変化や比較を捉えるために活用しやすいものです。世論調査やマーケティングリサーチにも利用されます。

社会をとらえるためには、定量の数値をもって把握するという工程は避けられず、多くの場合、必須調査として重視されています。
ただその向こう側には、量的な調査だけでは理解の限界がある領域もあります。

数量的に答えが出せない課題には質的なアプローチが採用されることがあります。例えば、「女性にとって妊娠とはどういった経験なのか?」といった、概念に対する解釈は量的調査では得づらい情報です。

よって、社会学では、必要に応じて相互補完的に、手法を使い分けることが特徴です。
量的調査と質的調査は相互補完的な役割を果たし、総合的な理解を深めるために両者を適宜行き来するのです。

連携することもある

読んだ書籍の中では、社会学者と人類学者と連携した質的調査を行い、答えを得ることができたという記述もありました。
問いも、調査手法も、両者の学問で重なり合う部分があり、協力体制をしくこともあるのでしょう。

本質的には「人や集団を知る」のを目指すわけですから、納得感があります。

プロダクトにおける「リサーチ」に立ち戻って考えてみる

プロダクトづくりにおけるリサーチの目的は、マーケットやユーザーを理解し、本当に求められている価値をプロダクトで提供し、ビジネスを成立させていくことです。

理想としては、適宜、Why, What, Howの精度を高めながら前に進んでいきます。リサーチ以外でその答えが出ることもあります。

プロダクトづくりでの行き来

定量と定性、マクロとミクロを行き来すること

プロダクトを開発する際には、最初に市場やターゲットユーザクラスタを絞り、利用シーンの仮説を立てます。その後、UXリサーチを行い、その結果を元に、必要に応じてマーケティングの視点から改めて理想的なマッチする体験を検討します。

こうした探索と仮説検証をマクロとミクロの視点から行き来することで、より高い精度でプロダクトを開発していくことができると感じます。

この、情報の規模感やステップを行き来する考え方は、社会学の調査手法とリンクする面も感じました。

また、文化人類学の、自分の価値観や文化をフラットにして相手を捉え、深く掘り下げていく姿勢。
数値だけでは提供できない情報が、プロダクトづくりにおいても価値と捉えられているのかもしれない。得てして、ビジネス上の判断は、定量的な基準でされがちですから。

それぞれの学問で蓄積されてきた手法のノウハウもあるでしょうし、発揮されやすい局面がありそうです。

おわりに

今回調べてみて、それぞれの学問の出発地点や、おもしろさがわかりました(あくまで入り口ですが)。
なぜ、UXリサーチ文脈で文化人類学が注目されているか?の理解も進んだのでよかったです。

学びのどのポイントをより深めていきたいかについては、自分のスタイルや興味を持てるあり方、そして現在のプロセスにより必要なものをチョイスしていきたいなと思っています。

個人的には、社会学での実調査がかなりおもしろく読めたので、具体事例をもっと読み込んでみます!

参考書籍

社会学入門 筒井淳也, 前田泰樹
はみだしの人類学 ともに生きる方法 NHK出版 学びのきほん 松村 圭一郎
文化人類学入門 祖父江孝男
大学生のための社会学入門

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