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鉄道旅のすゝめ

『旅行したい!』
さて、みなさんは如何様に計画を立てるだろう。
行先を決める、ホテルを決める、食べたいものを決める。
では、そこまでの移動手段は?
新幹線、飛行機、自動車、高速バス、、。多くの場合は値段と時間、利便性のバランスでその選択が決まってくるのではないだろうか。

パタパタする行き先表示板
これにどれほど心踊らされたことか

・・・ここでひとつ、新たなご提案をさせていただきたい。

『在来線利用、有名観光地以外へ行く』

「何時間も電車に乗りっぱなし?無理。」
「移動だけで疲れるやん、無理。」
「有名じゃないとこっておもいないやん、無理。」
「貧乏旅行ぽい。そんな学生みたいなこと、、無理。」

またそうやって、やってみてもないことに無理無理ムリむりケチつけて、毎年同じところ、人で溢れる観光地、有名レストランの行列に時間を使って、待ち時間はスマホでユーチューブインスタ。しまいには去年一昨年と同じ商品の味違いのお土産を買って帰る。そうやってマンネリ化した旅行を何年も延々と続ける人のなんと多いことか。。

世界的に見ても日本は鉄道大国として有名

、、、少し私の中のダークサイドが出すぎてしまった。
もちろん、人気の観光地、レストラン、ホテルには、人気になるに足る理由があるのだからそれはそれでいい。かく言う私もそのような旅行も好きだ。(現に先日のシンガポール旅では有名どころにしか行っていない。)

ただ、せっかくたった一度の人生を進んでいるのだ。たまには、ちょっと時間をかけて、ちょっと面倒で、ちょっと不安なことをやってみるのも悪くないじゃないか。所詮たった数日の旅行である。国内ならどこに行ったって言葉は通じる。いつもの旅行よりかける金額も少額で済むわけだ。やってみて失うものなんてない。

この記事では、私なりの鉄道旅の魅力と楽しみ方を存分にお伝えしてみようと思う。
新たな挑戦はきっとあなたの世界を広げるきっかけになる。



鉄道旅の醍醐味

ではなぜこの時代に、わざわざ遅くて面倒な在来線を使って旅をするのか。私が皆様にこれほどオススメするにはワケがある。

①『地域』の解像度が高まる

とにかくこれに尽きる。
そもそもこの記事自体が、皆様を鉄道旅へと誘い、この感覚を肌で感じ取っていただきたいという気持ちから生まれている。

これに関してはこの手の話でよくいわれる『旅情』に通ずる部分もあるのだが、在来線の旅ならではの味わいのうちのひとつに "ゆったりと移り変わりゆく車窓" が挙げられる。
「なんやそんなことかいな」って思ったそこのあなた。もうちょっと辛抱して読み進めて欲しい。

山陽線から見る瀬戸内海が好き

たしかに、いつもの駅から最初の1,2時間ほどはおおむね普段の生活圏内なので特段、、という感じなのだが、列車を2,3本乗り継いだあたりから、次第に車窓には見知らぬ景色が広がり、乗車してくる人たち(特に学生など)の話す言葉も徐々に変化する。そんな環境に身を置くと、自然と「自分は今、他所の地域へお邪魔させていただいている」という感覚がわいてくる。

これが例えば新幹線ではどうだろう。車窓は飛ぶように流れていき、突然現れるトンネルに驚いたりでだんだん車窓を眺めるのが疲れてくる。
飛行機、船はどうか。いわずもがな空の上、海の上なので、見える景色は大半が大空か大海原だ(あの非日常感はあれで好き)。
最後にバス、自動車ならばどうか。昼夜問わず多くの自動車が行き来する高速道路は、騒音問題がネックとなるため、山間部や中心部から離れた郊外を通ることが多く、地域の雰囲気を感じ取ることは難しい。

なによりも、周囲の人が入れ替わるという点は老若男女誰しもが利用する在来線ならではである。この車内の雰囲気の入れ替わりを感じたことのないさっき呼び止めたそこのあなたは、まだ『本当の鉄道旅』未経験者だ。

車内の雰囲気には地域性が出る

②安くて自由度が高い

在来線旅行のメリット2つ目、安い。
「え、高速バスのほうが安くね?」そんな声が聞こえてきそうなので、自由度が高いことも併せて付け加えた。

安さを極めるなら青春18きっぷ
一回あたり2,410円でJRならどこまででもいける

JRの乗車券はその規定によって、乗車距離が101キロ以上であれば原則、自由に途中下車がすることができる。また、101キロ以上の乗車券は有効期間が2日間、201キロ以上は3日間・・・といった具合になっているため、経路上の街を点々と散策して、また次の地へ、途中下車でその日は一泊、というように一つの乗車券で複数日の旅を楽しむことができる。どうせ時間を費やして旅をするのだから、目的地だけではなく道中をも楽しんでみるというのも鉄道旅ならではの醍醐味だ。
(きっぷについてのお話はまた別の記事にすろことを考え中)

民宿やゲストハウスに泊まってみるのもまた一興

③安ウマ飯が食べられる

これについては同じような記事でもあまり他の方々が書いておられないことのように思うが、「旅はやはり食が美味くてこそ」というのが私の信条である。食には妥協しないがそのなかで安さも突き詰める、それが楽しい。

特に地方の駅で顕著なように感じるのだが、駅というのは古くからその街の中心部であることが多く、恒常的に人々が立ち寄る点となるため、昔からのお店が潰れることなく残っていることが多い。したがって、驚愕の値段で各土地の名物や文化的背景のある味わい(おふくろの味的なもの)を堪能できることが多々ある。

塩尻駅名物、肥満さんに厳しい駅蕎麦屋

この手のお店は往々にして、『地元民のお店』感があってやや入りずらい雰囲気なことも多い。しかし、そこは少し勇気を出して踏み入れてみて欲しい。経験上、大抵の場合は扉を開けるや地元の言葉で元気に優しく出迎えてくれる。時には地元民だからこそ知る情報なんかも教えてもらえたりして、何気ない会話で心も温まり、そんなことが後々忘れられない思い出の1ページになったりするものだ。

インスタ映えはなくても味はホンマモン

鉄道旅情の根源はその歴史にあり

ではなぜ鉄道旅ではこれほど旅情を感じることができるのか。
私なりに考えた結果、その理由は鉄道というものが発展した歴史にあるのではないかという結論に至った。ここからは少しマニアックな話になるがお付き合い頂きたい。

東京駅 丸の内南口
鉄道路線は東京駅に向かう方面を「上り」と呼ぶ

①輸送手段としての役割から生じる旅情

現在の鉄道、特にJR(旧国鉄)は、明治から昭和初期くらいにかけて建設されたものが多く、特に〇〇本線と名の付く路線は主要幹線と呼ばれ、江戸時代の街道に代わるものとして国策として整備されたものが大半である(東海道本線=東海道、鹿児島本線=薩摩街道、紀勢本線=熊野街道という具合)。もちろんそれ以外にも鉱石運搬のために整備された路線や、戦後に高速化を目的に作られた路線などもあるのだが、大半の路線については前者の認識で間違いはないだろう。

新幹線は「新たな幹線」
当初は幹線の輸送力強化が目的で、速達化は副産物

したがって、古くから街として発展してきた点と点を線として結んでいるのが現在のJRだ。それぞれの点には大小の差はあれど人々の営みがあり、それぞれの文化的背景や歴史的背景がある。前項の話とも共通するが、その土地を訪れ、その土地のものを食べ、その土地の人たちと触れ合う。そうすることで肌感覚でその土地のことを知り、愛する心が生まれる。これこそが旅の本来のあり方ではないかと私は考えている。学ぼうとせざるとも学びがある。現代でこのような本来の『旅』を最も気軽にすることができるのは鉄道旅であろう。

②技術的弱点から生じる旅情

上述の通り、鉄道は街と街、点と点を結んでいるため、その間には当然駅を設けるほどの街にはならなかった場所も存在する。なかには全く人の気もない動物たちが伸び伸びと暮らしているようなところもみられる。そういった箇所では、車窓には美しい自然風景が流れ、それらは四季によって全く違った表情を見せてくれるため、時期を変えて何度でも訪れたくなり、そうして何度か通ううちにその路線、その土地への愛着が湧いてくるものだ。

山陰と山陽を結ぶ陰陽連絡線のひとつ伯備線
岡山側は高梁川、鳥取側は日野川に沿って走る

これには鉄道という輸送手段の持つ弱点が関係している。鉄道はレールと車輪との摩擦の少なさを生かした輸送手段ゆえに大量輸送が得意な一方、坂道が大の苦手である。多少の勾配であればなんとかなるのだが、その許容できる勾配は自動車と比べると非常に劣る。特に、鉄道路線網が大規模に整備された時代は、列車にも現在のものとは比較にならないほどパワーがなく、またトンネル掘削の技術も高くない。そうなると、ルート選択の時点でどうにかして勾配を最小限に抑えたところを選ばざるを得なかった。山間部であれば谷間を、山々のせり出した海沿いであれば限りなく海に沿った箇所を選ぶことが必然となる。これが景観の面では功を奏し、現在でも車窓には、山間部では右へ左へと川が流れ、海岸線では地平線が大きく広がる。したがって鉄道という輸送手段の弱点が、結果的に他にはない旅情を形成する大きな要因の一つとなっているわけだ。

紀伊半島は大半が山地
紀勢線は海に沿って走るため、車窓には太平洋が広がる

鉄旅してみませんか

私がこれほど鉄道旅を好み、みなさまにオススメする理由、少しはご理解いただけただろうか。

今現在大阪に住む当方は、岡山にご縁があって頻繁に行き来しているのだが、いまでも特段の理由がなければ在来線で往復する。もう何度も見た景色ではあるが、明石海峡付近の海景色にはいつみても心を奪われるし、上郡から三石までの県境の田園風景では四季の移り変わりを感じ、瀬戸より西側で駅を経るごとに田舎から都市へとグラデーションのように変化していく様を眺めるうちに、気分が自然と岡山モードに切り替わる。

今や珍しい4人掛けボックスシート
向かい合った方と話に花が咲いたこともある

とはいえ、初めから行ける限り遠くへ!なんてすると『しんどい』だけで終わってしまいかねないので、まずは身近なところから日帰り旅としてスタートして鉄道に揺られることに体を慣らしていただき、徐々にその距離を伸ばしていくと良いだろう。あるいは、行きは在来線を使い、帰りは新幹線や飛行機でとっとと帰るなんてのもオススメだ。

電光掲示板の行き先を見ると旅に出たくなる

そして、もう一点オススメしたいのが、鉄道に乗っている間は無理のない範囲でスマホから離れるということだ。ここまでお読みいただけた方にはご理解いただけるように、鉄道旅の主目的は『街を感じ取る』ことにある。決して完全にスマホから離れる必要はない。目か耳、視覚か聴覚のどちらかだけは旅に意識を向けておいてほしい。それだけで、きっとその旅は有意義なものとなるだろう。

たまにはゆっくり行きましょうや

鉄道旅は、訪れた場所、通り過ぎた土地への解像度を上げる。それは地域への理解度を深め、引いては都道府県への理解を深め、最終的には地方、国というものの解像度が高まる。

"百聞は一見に如かず"

いくつになってからでも遅くない。
あなたも鉄道でまだ見ぬ世界へ出かけてみませんか。

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