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"愚かしいペルソナ"ではなく、"愛すべきペルソナ"を作り込む

ミミクリデザインの公式noteに、2017〜2018年度にかけて実施した京急電鉄と東京大学の共同研究プロジェクトを題材にした振り返りの対談記事が掲載されています。

安斎が研究代表者を務め、また現在ではミミクリデザインの社員である東南と和泉がこのプロジェクトに伴走してくれていたため、あらためてミミクリの視点から、本プロジェクトを振り返っています。

"三浦半島に若者が来ない"という課題からスタートし、複数回のワークショップを通して具体的な20-30代のターゲットペルソナを設定し、ターゲットに合わせた三浦半島の観光コンセプトを定義して、それを体現したイベントを実施しました。イベント「三浦Cocoon」は参加チケットが完売し、70名を超える参加者が三浦半島を訪れました。7割以上が20-30代で、9割以上の参加者が「三浦にまた来たい」と答える結果となり、大成功を収めました。ワークショップとイベントの様子はテレビ東京『ガイアの夜明け』に特集され、とても手応えのあるプロジェクトでした。

今回のプロジェクトにはさまざまな工夫が散りばめられているのですが、あとから振り返っても、成功の鍵を握っていたのは共感できるペルソナの作り込みのプロセスでした。特にプロジェクトメンバーにとって思い入れの深かったペルソナ「橘 久美子」は、実在しないにも関わらず、本プロジェクトを実施した1年とちょっとの間、メンバーの誰もが「久美子のために良いプロジェクトにしたい」「三浦の魅力を久美子に伝えてあげたい」と心から思っており、まさにとても愛されたペルソナでした。ガイアの夜明けに久美子のイラストが映ったときは、自分が映ったときよりも興奮したほどです笑。

一般的に、デザイン思考のワークショップなどでも、ペルソナを設定する場面はよくあると思います。けれども、これは私の主観ですが、なぜかペルソナを設定する場面になると、対象に共感するどころか、やや皮肉の混じった客観視点が入って、ペルソナと作り手の距離が遠ざかることがある気がしています。「こういうヤツ、いるよね(笑)」みたいな。

書籍『ザ・ファースト・ペンギンス』においても、生活者を観察するときの注意点として、"愚かしい人バイアス"というのが挙げられていますが、これに近いかもしれません。

「どれもこれも、"人間は愚かしい"風の解釈になってるわ。自分の考え方を他人の行動に当てはめて高みの見物をしているだけになってない?」(『ザ・ファースト・ペンギンス』p.28より)

今回のプロジェクトは、良くも悪くもマーケティングリサーチデータには一切頼らず、「まだ定義されていない三浦半島の潜在的な魅力を、どんな人に届けたいか?」という問いのもとで、主観だけでペルソナを作り込みました。対談記事においても京急電鉄の齋藤さんが「共感はできても、自分と重ねたくなくなるペルソナを作ることの懸念」について語ってくださっていますが、ペルソナに愛情が湧くレベルまでワークショップのなかでペルソナを作り込んだことが、今回のプロジェクトの肝でした。ぜひそんな視点からも、対談記事をご覧ください。

プロジェクトのダイジェスト的な概要はミミクリデザインのプロジェクト事例ページにも掲載しています。


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