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研究を活かして働く:Theoryとtheoryを結びつける組織学習の3つのモード

ミミクリデザインは「研究と実践を往復する」ことを謳っていますが、必ずしもすべてのプロジェクトでデータを取得して、学術論文を書いているわけではありません。

複雑なプロジェクトに挑戦しながらも、高いパフォーマンスを発揮し、かつその再現性を高め、競争優位性を保つための「組織学習の仕組み」として、研究的なエッセンスを導入しているといったほうが、実態にあっているかもしれません。

まだまだ理想的な環境には程遠いですが、本記事では、ミミクリデザインが挑戦している学習環境デザインの取り組みを紹介し、効果的な組織学習のあり方について考えてみたいと思います。

実践知と理論を結合する経験学習

組織行動を専門とする理論家デイビッド・コルブは、仕事の経験を通して人が学んでいくサイクルを、以下のように定式化しました。かの有名な、経験学習サイクルのモデルですね。(有名なので、説明は割愛)

コルブ

しかしこのモデルは、短期的な学習を捉えるスコープとしては良いのですが、中長期的な組織学習を捉えるにはいくつかの課題があります。第一に、このモデルは「自分自身が経験したこと」がベースになるため、いわゆる「持論」に閉じがちで、組織的に基盤とする理論としては、堅牢な実践知が形成しにくい点です。そして第二に、本質的な自分の実践観や思想を問い直すような、深いリフレクションには及ばないという点が挙げられます。

これに対して、F.コルトハーヘンは、より深いリフレクションを示したALACTモデルを提唱しました。

コルトハーヘン

コルトハーヘンによれば、「本質的な諸相への気づき」のレベルまで到達するには、学術的な知識(大文字の理論:Theory)日常経験から形成した持論(小文字の理論:theory)の結合が必要だと指摘しています。

つまり経験から自分だけの持論を形成するだけでなく、そこにアカデミックな理論を結びつけることで、実践知を深く強く立体化させていくのです。コルブのモデルに照らし合わせたら、このようなイメージでしょうか。

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理論(Theory)と持論(theory)を結合する3つのモード

単にリフレクションをして、学術理論をインプットするだけでは、その2つが結びつくところまではなかなかいきません。

ミミクリデザインでは、いわゆる虫・鳥・魚の目と呼ばれる3つのモードで、学術的な理論(Theory)と業務から形成される持論(theory)を結びつけることが、ミミクリデザインの競争優位性を担保する組織学習の在り方として重要だと考えています。

1.虫の目モード(ミクロ)

学術理論や研究的な分析の視座を持って、実践をミクロに読み解くことで、実践の解像度を高めるモードです。

思考が経験ベースの持論形成のレベルに閉じてしまうと、どうしても「あそこで良いアイデアが出たのは、あのときのファシリテーションがうまくいったからだ」「ちょっと雰囲気が楽しい感じになりすぎたので、次回はファシリがもうちょっと空気を締めよう」などと、ラフなレベルの振り返りになりがちです。

そうではなくて、「中盤の付箋ワークのブレインストーミングから参加者の批判的思考が切れてしまったので、意味のイノベーションのスパーリングのような活動を組み込んだほうが良かったのでは?」などと理論的枠組みを持って実践を考察したり、「4グループ中、1グループだけアイデアの発話量が少なかった。批判的に思考することの本質が誤解され、評価懸念(批判を恐れてアイデアを気軽に提案できなくなること)につながってしまったのではないか?スパーリングの説明をするときに、次回はこういう補足を加えておいたほうがよさそうだ」などと、現場で起きた出来事を精緻に内省することで、複雑な案件の再現性を高めることに努めます。

2. 鳥の目モード(マクロ)

鳥のような高い視点で、俯瞰する視点を持つことです。虫の目モードのような方法論レベルの内省をするだけでなく、理論を通して実践の意味や位置付けをメタ的に考察したり、異なる実践同士を理論を媒介に結びつけたり、複数の理論を結びつけて新しい実践知を形成したりする考え方です。

たとえば「社会構成主義」の理論を手に入れることで、組織開発や事業開発においてなぜ「対話」が重視されているのか、自分たちがワークショップをやる必然性がはっきりと見えてきます。逆にいえば、チームが納得する意味が生まれなかったプロジェクトにおいて、なぜ対話的なコミュニケーションを生み出すことができなかったのかを内省するための視座にもなります。

たとえば、他にも組織開発におけるクルト・レヴィンの「プロセス」という理論的概念を手に入れ、かつそれを「事業開発」の実践を考察する視座として転用することで、イノベーションの根本的課題はここにあるのではないか?と考察を深めることができます。

さらには、上記を含んだ「創造」に関わる理論群をレビューして、複数の理論を結びつけることで、ミミクリデザインでは「Creative Cultivation Model(未公開)」なるメタ理論を構築中です。これによって、表層的なメソッドではなく、実践を支える「思想・哲学」に近いレベルの理論を形成することを目指しています。

3. 魚の目モード(トレンド)

最後の魚の目とは、魚が「潮の流れを読む」ように、市場や時代のトレンド、流れを読み、自分たちの実践はどこに向かっているのか、どこに向かうべきなのか、ビジョンを見通すためにモードです。

ミミクリデザインでは、積極的に複数の学会コミュニティに所属し、組織開発やイノベーションに関する最新理論をキャッチアップするようにしています。現場の具体的ニーズに止まらず、研究者たちがいま何に着目して研究を進めていて、何が研究課題になっているのかを把握することで、大きな流れのなかで、自分たちの実践を意味づけ、組織の成長のベクトルを調整することが可能になるからです。

同時に意識していることは、いわゆる"タイムマシン経営"のようにトレンドを先取りするだけでなく、世の中の流れを批判的に読み解きながら、自分たちの思想を軸にビジョンを練るようにしていることです。たとえば「組織開発(Organization Development)」の理論をレビューしていて「遊び心が足りないのでは?」「ODそのものに対する嫌悪感のようなものが現場には存在しているのでは?」などと違和感を感じたら、積極的にWDAで研究会を開催したり、議論を展開したりしながら、必ずしも従来のやり方に従わない、自分たちらしいアプローチやビジョンを問い直すきっかけとするようにしています。

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以上のように、虫・鳥・魚の目の3つのモードを使い分けることで、学術的な知識(Theory)日常経験から形成した持論(theory)を結びつけ、組織学習の基盤としていく。それがミミクリデザインが目指す学習環境の在りかたです。

ミミクリデザインでは、学術的な知識(Theory)の理解を深め、実践と架橋するための取り組みを「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」としてサービス展開することで、学習の持続性を担保しています。コンテンツはすべて「自分たちに必要な知識」という基準でプロデュースしているため、サービスを充実させればさせるほど、ストック収入が拡大するため、経営が安定するだけでなく、自社の組織学習の基盤となる、という戦略です。

並行して、隔月でチームをまたいだBtoB案件のディープリフレクションのセッションを開催することで、各チームの業務で形成された持論(theory)を言語化して、チームの垣根を超えて共有・蓄積するようにしています。

まだまだ試行錯誤の最中ですが、引き続き、組織学習の専門家である遠又圭佑と、研究を主軸とした広報活動の在り方を探求する東南裕美を中心に議論しながら、組織の学習環境デザインをよりよいものにし、またナレッジをnoteなどで共有できればと思っています。


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