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問いをデザインするのは誰なのか

書籍「問いのデザイン」の執筆に向けて、これまで「プロジェクト設計段階の課題のリフレーミング」から「ワークショップデザインにおける課題の制約と構成」まで、異なるレイヤーの「問い」の工夫の仕方について「デザイン」という言葉を使って説明してきました。

引き続き、問いのデザイン論を深めていきたいと思いますが、述語としてのデザインの方法論を深掘りする前に、本記事では、デザインの「主語」について確認しておきたいと思います。言い換えれば「問いをデザインするのは誰なのか」という問題です。この問いに対しては、いくつかの回答が考えられます。

1.問いは「ファシリテーター」によってデザインされる

第一に、ワークショップを企画する「ファシリテーター」がデザインするべきだという考え方です。事前に企画しておくにしろ、当日の即時的な判断で投げかけるにせよ、ファシリテーターが発する問いをトリガーにして、参加者の思考や対話が促進されると考える立場です。

2.問いは「参加者」によってデザインされる

第二に、ファシリテーターはあくまで対話の交通整理役であって、問いは「参加者」がデザインするべきだという考え方もあるでしょう。ワークショップの民主性を尊重し、ファシリテーターが一方的に課題を押し付けるのではなく、参加者自身の興味関心や問題意識からわきあがる問いを重視する立場です。

3.問いは「場の相互作用」から創発する

第三に、特定の誰かが問いをデザインすると考えるのではなく、ファシリテーターと参加者の対話の相互作用のなかで、創発的に生成されるものであり、言い換えれば「場」や「コミュニケーション」が問いを生み出すという立場も考えられます。

これらの三つの立場は、必ずしも相容れない独立した立場ということではありません。ワークショップデザインにおいて何を大切にしているのか、価値基準の置き方の違いであり、それぞれに対話の場作りの大切なエッセンスが含まれています。特に第二や第三の立場は、茶の湯の「主客一体」「一座建立」的な考え方も類推され、ワークショップにおいて忘れてはいけない大事な視点だと考えています。

あえて、ファシリテーターの視点からデザイン論を考える

しかしながら、それぞれの認識の価値を認めながらも、本マガジンにおいては、「ファシリテーターがデザインする問い」に照準を合わせ、方法論を検討することにしたいと考えています。

問いのデザイン論において、ファシリテーターがデザインする問いに着目する理由は、三つあります。

一つには、ワークショッププロジェクトの設計段階において、課題のリフレーミングの重要性を強調したいからです。多くの場合、依頼主は「解決して欲しい問題」として、何らかの問いをファシリテーターに提示します。そういう意味で、課題解決の依頼主も、問いのデザインをしているはずです。しかしながら、課題の渦中にいる当事者のまなざしは、必ずしも「課題の解決に繋がるまなざし」であるとは限りません。むしろ多くの場合、近視眼的になっていたり、固定観念に囚われていたり、余計にネガティブに課題を捉えていたりして、課題を解決をするためには何らかの「視点の変化」が必要である場合が大半です。そういう意味で、「問いのデザイン」の威力が最初に発揮される場面は、プロジェクトを依頼されたファシリテーターによる「課題のリフレーミング」となる可能性が高いのです。もちろん、課題の当事者自身が、=プロジェクトのファシリテーターである場合も同様で、自分が置かれた状況をメタ認知して、課題を再定義しなければいけないという意味で、「ファシリテーターがデザインする問い」は重要なのです。

第二には、ワークショップ当日において、ファシリテーターが投げかける問いこそが、思考と対話の「出発点」となるからです。いくら参加者の自発的な問いや、コミュニケーションから生まれる問いが重要だからといって、何の仕掛もないところでは、豊かな相互作用は期待できません。支援も仕掛けもない状況で、参加者が自ら創造的な対話を展開できるのであれば、わざわざワークショップなどの場を設ける必要はないはずだからです。"いつものやりかた"ではうまくいかないからワークショップの場を設定するのであって、場のプロセスを深めるためには仕掛けが必要です。逆に、ファシリテーターの問いかけが的外れなものであれば、いくら意欲と能力が高い参加者を集めたところで、創造的な対話は期待できません。対話を駆動するトリガーとして、ファシリテーターが立てる問いのデザイン論は、検討の価値が十分にあると考えます。

デザイナーとしてのファシリテーター

最後に、もう一つの理由として、昨今の「ファシリテーション」に対する過剰な期待に関する問題意識があげられます。現場に耳を傾けると、多くの実践者から「ファシリテーションがうまくいかない」「ファシリテーションの技術を上達させたい」といった要望を頻繁に耳にします。しかしその背後にある問題を掘り下げてみると、適切なテーマ設定や、型としてのプログラムデザインが存在しない場合がほとんどです。ファシリテーション(facilitation)という言葉が持つ意味合いのせいか、当日の交通整理や即時的なふるまいばかりが着目され、デザイナー(designer)としての側面が軽視されているように思えるのです。熟練したファシリテーターであればあるほど、当日に至るまでに背後にある問題を丁寧に分析し、場が目指すべき方向性や、型としてのプログラムを戦略的に準備しています。これらが当日の場において「問い」として参加者に投げかけられることで、参加者の思考と感情が刺激されるトリガーとなり、創造的な場のプロセスを下支えしているのです。

以上を踏まえて、参加者の自発性や、場の民主性と相互作用性の価値を十分に認めながらも、ワークショップの企画者である「ファシリテーター」が設定する問いのデザインに焦点を当てて、今後も方法論を検討していきます。

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