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20代から「好きなもの」が更新されない人生なんて、つまんない。

本格的に、フェスの季節がやってきた。
Instagramのストーリーでも、青空の下で音楽を楽しむ友人たちの姿をよく目にしている。

私も今月、withコロナ時代初のフェスに参戦してきた。千葉市蘇我スポーツ公園で開催された『JAPAN JAM』と、新木場・若洲公園で開催された『METROCK』。

感染対策のため、マスクはずっと外せないし、音楽に合わせて声を出すこともできないけれど。

広い青空の下で爆音の音楽に包まれ、大好きなアーティストの声に合わせて飛び跳ねたり、手を叩いたり、全身を使ってステージへの返事をする数万人のみんなの姿が、とても眩しくて、「音楽」という人生の喜びを噛み締めていた。


大好きなバンドはいくつかあるけれど、私は音楽にそこまで精通しているわけではない。フェスに参加すると、大体1〜2組は「名前しか聞いたことがない」もしくは「名前も聞いたことがない」アーティストがいる。

基本的に、本命外アーティストたちの演奏中には休憩を選ぶ人たちが多いだろう。3万人前後が一箇所に集まるから、屋台でご飯を買ったり、トイレをするだけでも長蛇の列に並ばされる。何をするにも時間がかかるから、知らないアーティストたちの持ち時間を、休憩としてうまく使う必要がある。

あるいは、ステージ付近の群衆から距離を置き、一番後ろのほうでゆったりと音楽を聴く。本命の演奏で暴れるための体力も温存できるし、そのほうが賢い。


……でも3年ぶりにフェスに参戦して、やっぱり思った。

フェスは、知らないアーティストの演奏時こそ「ガチ勢」の中心地に乗り込んで、思いっきり彼らの音楽に溺れてみたほうがいい。

普段聴くジャンルとは全然違うし、一曲もわからないし、ヴォーカルの名前すら知らないし、もちろん何が流れてきても「うおおおおおこの曲〜!!!」と盛り上がりようもないし、手拍子やジャンプのタイミングもよくわからない。それでもいい。


「私には合わない音楽だから」
「よくわからないから」「興味がないから」と距離を置かずに、思いっきり影響を受ける覚悟で、真っ裸の心を差し出してみること。

見よう見まねで音楽に溺れて、熱狂的なファンたちと一緒にグッチャグチャになってみること。


ステージの近くに行くほど、彼らの音楽を愛している人たちの“濃度”が明らかに高くなる。会場の中で、できるだけ濃度の高い位置からステージにいる彼らと、ファンの関係を見たときに、「自分の知らないアーティスト」が創り上げてきた世界の深みに、触れられるような気がするのだ。

同じ曲を聴くのなら、遠くで見ているよりも震源地に乗り込んで、彼らの色で身体中を染めてみたほうが、何倍も楽しい。

そのほうが、自分の「好き」は更新されていく。


古賀史健さんの著書『取材・執筆・推敲』(ダイヤモンド社)のなかで、「人生を変えた一冊」を問われたとき、ほとんどの人は若い頃に読んだ本を挙げるという話があった。

古賀さん自身も、一冊を選ぶとしたら20代前半で読んだ『カラマーゾフの兄弟』を選ぶそうだ。その理由を、こんなふうに語っている。

20代前半のぼくが『カラマーゾフの兄弟』という座右の書に出会えたのは、同作が「世界で一番すばらしい小説」だったからではない。
問題はどんな本を読んだかではなく、その時の自分がどんな人間であったのか、なのだ。

20代前半のぼくは、「人生を変える準備」ができていた。いくらでも人生を──その価値観を──揺さぶり、更新してやろうと待ちかまえていた。
それだからこそ、あの本が座右の書になった。人生を変える一冊に、なってくれた。いや、ほんとうに人生を、変えてくれた。
『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』P80


……この話は、本だけでなく、音楽や映画にも共通することだろう。

人生を変えた一つのものは、10代や20代で出会ったと語る人が圧倒的に多い。古賀さんの言うようにその理由は、人生を丸ごと影響される勇気が、あったからなのだと思う。

長く生きれば生きるほど、自分の好きなものは、自分で「把握できている」と、考えるようになる。それは不正解ではないけれど、きっと正解でもない。

自分の知らない、ゾクゾクするほど好きになる何かは、まだまだたくさんあるはずだ。

多くの大人は、たぶん、「人生に大きな影響を及ぼすかもしれないもの」を本能的に避けようとする。
私もそうだ。

何かにどハマりすることを、心のどこかで怯えている。今の自分が崩れていくことを、怯えている。

だから「自分の好きなものはここらへん」と、テリトリーを言語化したりして、自分とは関係の薄い世界との境界線を明確する。


でも、それじゃあつまんないよね。

20代以降から好きなものが更新されていかない人生なんて、やっぱりつまんないじゃん。この先も「人生を変えた何か」を、増やしていきたいじゃん。


好きなものも、嫌いなものも、興味のないものも
雑多に集まるフェスのような場所に行くことって、やっぱり大切で。

わざわざ嫌いな世界にお金をかけて乗り込むのは難しいけどさ、袖を擦り合わせた「知らない何か」には、心丸ごと染められてもいい勇気を持って

まだまだ自分を、ぐちゃぐちゃにしていきたいなぁと思う。



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