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コンビニで出逢う恋もある(完結編)

連絡先を交換したのが1月30日のお話。
それからも変わらず毎朝コンビニに寄ってくれて、6時から9時までのピークは店長と2オペの為、タイミングによっては彼のレジを出来ない時がある。
私のレジに彼が並ぼうとすると、『こちらのレジどうぞー!』と店長。
そう店長は必殺仕事人なのだ。
1秒でもお客様をお待たせしたくない。
お客様がレジに並ぶと全力でレジまで走る。
私の働いていたコンビニはかなりの広さで、都内のコンビニの3倍以上の広さだった。

オープニングスタッフで入った私達は研修時に、店内の端と端に立って、声出しの練習をするメニューもある程だった。(こんなの部活以来)
コンビニだけど声出しはかなり厳しく教育された。

当時のシフトがこちら。
22時〜9時‥店長
6時〜9時‥店長と私
9時〜13時‥主婦の方2名
13時〜22時‥オーナーと副店長
17時〜22時‥フリーターのおじさん(あだ名=モリモリ)
22時〜2時‥店長とバイト君

土日は主婦の2人が出れない為、オーナーと私がイレギュラーで長時間勤務になる事もあった。
モリモリとはそんな時に一緒に働く事があった。私にとってかなりレアな存在だった。

スーパーを2店舗とコンビニ1店舗を掛け持ちしているモリモリ。
コンビニではデザートを担当しており、少しお姉言葉を発するモリモリ。
自分の好きなデザートは多めに発注しがちで、結果廃棄になり、オーナーに怒られるモリモリ。
学校帰りの中学生におじさんってバイト?と詰め寄られるモリモリ。

色々なモリモリが思い出される。
そんなモリモリは、掛け持ちして凄いねと言ってくれたり、オススメのデザートを教えてくれて優しかった。

店長も一般の人とは真逆の生活スタイルで、見た目はご飯ですよのキャラクターに居そうな感じで、よく仕事の愚痴を言っていたけど、コンビニの店長という膨大な業務をこなしながら、お客様をとても大切にしていた。

店長が顔馴染みのお客様と楽しく話しているのを見るのが心地よかった。

某百貨店に勤めている私は、女性中心の人生の中で、唯一コンビニでは色んな年齢層の人達と出逢って経験をさせて貰った。

日曜日の早朝にコンビニの外壁のガラスをホースで水撒きして水滴をガラススクイジーというT字のヘラで取るという業務があったのだが、いつものようにお掃除していると、バイクに乗ったおばさまが私の方へやって来て、『貸してごらん』と言った。
ガラスクスイジーを巧みに使いこなすおばさまは、この競技の大会で優勝した事があると言ってコツを教えてくれた。
大会があるんだ。。と思った。

ボクサーパンツ姿のホストとスーツのホストがやって来て、私が普通にレジをしたので、『ツッコまんかーい』とツッコまれた朝もあった。

そして、コンビニ店員目線から言うと、お客様の事を意外と見ているし、覚えている。
来店頻度が多いし、来る時間も毎回さほど変わらず、買うカテゴリーも同じなので自然と覚える。
私のコンビニは覚えるようにという方針でもあった。

私の彼もその1人だった。

2月7日に初めてご飯に行く事になって色んな話をした。

2歳年下の彼は7月にコンビニがオープンした時から来ていたみたいで、ずっと気になっていたと言ってくれた。
そして毎週火曜日は本当は休みだけど、私に会う為につなぎを来てコンビニに来てくれていた。

初めてご飯に行った帰りに『付き合ってみる?』と聞かれた。

今思えば、好きですと言われなかったし、最後まで言われた事はなかったけど、言葉ではなくて、気持ちがあればいつまでも繋がれる事を教えてくれた。
実際にこの彼とはその後、私が上京する迄の12年間、家族のように繋がっていて、困った時にはすぐに駆けつけてくれた。

中卒で学歴にコンプレックスを持っていた彼はやりたい事や夢がない事にも悩んでいた。
14歳から学校に行かなくなり、悪い事は一通り経験して、私と出逢った21歳の時には既に落ち着いていた。

私は仕事大好き人間なので、その影響からか、彼はその後就職して、20代後半には車のディーラーの主任になった。月収もかなり高くなり、一緒に居る時は仕事の面白エピソードや真面目な話も沢山した。

2月7日から付き合い初めて、バレンタインやお花見、彼の誕生日など楽しい時間を一緒に過ごて3ヶ月経った頃、急に振られてしまう。

もっと良い人が居ると思う。その相手は自分ではない。という理由の一点張りで、自宅前で車から降ろされた。私は道の真ん中で泣き続けた。

次の日からコンビニに来なくなった。
1週間経った時に、元気にしてるかと電話が掛かってきた。その電話をきっかけにまたコンビニに来るようになった。

1ヶ月経って、1人暮らしを始めると告げられた。
後に、彼のアパートを見つけて彼のつなぎや私服と一緒に女性物の下着が干してあって、一緒に暮らしている人が居ると知った。

振られた時よりも辛かった。

中学生から彼の自宅で同棲していた彼女がいた事は聞いていた。彼も元カノも複雑な家庭環境で、若い頃から身を寄せて生きてきた。その彼女とよりが戻って2人暮らしを始めていた。

私は何の変哲もない一般的な家庭で育った。入る隙はないと感じた。

でもそんな私が彼にとっては新鮮で、彼女には自分が必要だから一緒に居ないと行けないけど、一緒に居たいのは私だと言った。

自分との未来は期待しないでとも言った。

それでも一緒に居て欲しいと思った私は、それから7年間彼だけを好きでい続けた。側から見たら浮気相手、2番目、そんな関係だけど、本気でぶつかって、沢山泣いた7年間だった。

携帯番号もアドレスも変えて彼から卒業するまで、コンビニに来てくれたあの青年が心から大好きで、あの雪の日にくれた手紙もずっとお守りみたいに財布に入れていた。

普通の人とは違うけど、これが私の人生初めての大恋愛で、目を閉じると、レジの目の前ではにかんだ笑顔が今でも浮かんでくる。

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