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音楽の感想の書き方 ~(語彙力……)となってしまう人のための・超初級から上級まで

感想って書くの難しいですよね。

「感想を送りたいけど良い感想が書けない!」

と思う人はいれども、自分の思いを文章化するって、意外と人間訓練されていないものです。

ところで、ぼくは音屋です。まあDTMerと言うのか、作編曲家と言うのか、音楽屋、なんでしょうか。
単刀直入に言います。絵が描ける人、Twitterで絵を上げるたびにフォロワーからふぁぼいいねをもらってるの、羨ましいですね……。音屋なんてそもそもTwitterでせいぜい最長2分20秒までしか動画上げられへんし……、

――なんて話を始めちゃうと音屋のブラックホールが発生して宇宙がもう一個出来上がっちゃうので、まあ色々あるけど(超~~有耶無耶)、音屋だろうが何だろうが創作者・表現者というのは、それを見た・聴いた・受け取った人から、「何らかのリアクション」があったり「メッセージ」があったりすると、ベテルギウスが超新星爆発起こすぐらい嬉しかったりするものなんです💥💥💥
音屋も自分が作った曲に感想が来ると、嬉しい!!――でも、音楽に対して感想を書く・感想を送るって難しいじゃないですか。その気持ちめっちゃ分かるんですよ。いやでもね、考え方次第だったり訓練次第だったりで意外と結構その「感想を書く」「感想を送る」というハードルの高さはどうにでもなったりするんですよ。それを今からていね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いにご説明しますので、長文になりますが、

感想を書きたい!!――けど!!――(………語彙力………)

となってしまう人はこの記事を読んでぜひ参考にしてみてください。

0.そもそも感想って送っていいの?

「作者に直接送る」というのであれば、ぶっちゃけると「作者による」ので難しいっちゃ難しいですねその問いは。でも、その感想を受け取った人が不快な気持ちになるようなものでなければ、ほっっっっっっっとんどの場合、感想等を送られて嫌だという人はいないと思います。

いや、もしかしたら相手に不快感を与えない感想であったとしても、中には感想を送られるだけでムッとする気難しそうなクリエイターもいるかもしれませんが、そういうパターンは外を歩いていたら突然目の前に隕石が落ちてきたレベルに珍しいことだと思ってもらって良いでしょう。私の独断ですが。

そもそも直接クリエイターさん本人に感想をぶん投げなくとも独り言のようにツイートするだけでも全然大歓迎ですからねたいていの場合。感想が欲しくてたまらないクリエイターは思いついたらTwitter等で血眼になって自分の名前や曲名などでエゴサーチしてそういうありがたいツイートを検索するので
(ただ鍵垢のツイートは発見されないので、作者に読んでほしい!届いてほしい!発見してもらいたい!のであればそこは要注意・要対策です)

「自分の思いを感想として作者に届ける」
のか、
「ただ単に独り言のようなツイートで感想を書く・ツイートに残す」
のかでちょっとこの両者のアプローチは異なりますが、この記事ではその両方に対応できるように記述してみたいと思います。

1.感想を送りたい!超初級編

まず、超初級編です。

1-1.超初級編「聴きました」

好きな作家さん、推しのバンドが新曲を発表した!!早速聴く!!良い!!すごく良い!!この気持ちを表現したい!!創造主にこの思いを!!感謝を届けたい!!……けど……(………語彙力………)

という方の対処法です。

超初級編なのですごく簡単です。

「聴きました!」

これだけでいいです。

感想というよりかは本当に「対処法」ですね。
「こんだけやったら感想ちゃうやろ」と思われるかもしれませんが、これから話を進めていく上で、これも感想の一つと言いますか、「感想のたまご」ではないかと思います。
実を言うとここにもう一言「カッコいいですね!」とか「素敵ですね!」とかがあると立派な感想になるんですが、それはもう次の初級編に飛んでしまうので、超初級編のここでは一旦保留にしておきます。

では、なぜ「聴きました!」と言うことが良いのか?ということについて、ここはひとつ音屋の視点の話を紹介しましょう。

ぶっちゃけるとインターネット上の音屋って、リスナーに聴いてもらえているという実感をどうしても感じにくい状況に置かれがちな人達なんです。ライブやコンサートなど、目の前にお客さんがいるような状態でパフォーマンスしているときは別ですが、活動場所が主にインターネット内で完結している作家さんだったり、CD等のメディアでしか楽曲を発表してない作家さんというのは、お客さんが「ライブやコンサートの客席にいる」わけではなく、「画面やCDプレイヤーの向こう側にいる」ので、どうしてもお客さんの存在を感じにくい状態にいます。

動画共有サイトに楽曲をアップロードしてファンの人達がそれを再生すると、もちろん再生数はつきますが、再生数という数字だけでは、

・ファンの人がその曲が楽しみで楽しみで再生してくれたのか
・たまたま検索や関連動画に引っかかって見に来た人なのか
・最後まで聴いてくれたのかそれとも途中で画面を閉じられてしまったのか

というのが分かりません。再生数が増えるだけでは本当にリスナーに最後まで自分の曲が届いたのかどうかははっきり分からないのです。
(実際には動画投稿者にはアナリティクスを通してどのようにどの程度再生されたかある程度データとして見ることは出来ますが、それは実質データの集まりでしかないので、リスナー一人一人の個別の存在を身近に感じるための証拠としてはあんまり機能しません)

なので、ファンの人が一人でも「聴きました!」と表明してくれると、それだけで他のファンとは一線を画すことが出来ます。
またこれは、

「アップロードお疲れさまです!これから聴きます!」

じゃなくて

「聴きました!」

という過去形の形が大事だというのも重要ポイントです。

例えば、私は同人誌即売会などのイベントで自分のCDを手渡しすることがありますが、相手にCDを手渡しする瞬間というのはいわゆる「リスナー一人一人の存在」を身近に、しかも明確に感じることができます。
しかし、そこから先の多くのことはもう分からない。CDが自分の手元の在庫から相手のもとへ旅立つと、その先のことはもう分からないことのほうが多いんです。イベントが終わったあと、運が良ければイベントの戦利品として写真を上げてくれたり感想をツイートしてくれたりする、神のようなありがたい人が降臨してくれることもありますが、かといってCDを手に取ってくれた人全員が戦利品報告をしてくれるわけではない(※)ので、やはり多くの人に自分の作品を頒布したという実感よりも、曲が実際に相手に聴かれたという実感の方が、相対的に少なく感じがちであると言えます。

(※……戦利品報告という行為そのものが憚れるオタク文化圏もあります)

つまりどういうことかというと、

「(CD or 曲を)買いました!」
よりも
「(CD or 曲を)聴きました!」
のほうがより一歩踏み込んだリスナーアピールになるんです。もちろんCDを買ってくれるとか、曲を再生してくれるというだけでクリエイターにとってはとっても嬉しいものなのですが、「買いました!」より更にもう一歩先のことが分かると、より一層リスナーの存在を身近に感じるので嬉しいんですね。

【 プチまとめ 】
新曲を聴いたなら「聴きました!」を言おう。

1-2.超初級編「この曲が好き」

たとえば複数楽曲が入っているCDや、アルバム単位で複数の楽曲をまとめて購入した場合、あなたは複数の楽曲をひとまとめに手に入れているはずです。

そういったときのお手軽な感想の伝え方、それは、

「この中でこの曲がいちばん好きです!」

と言うことです。

複数の楽曲の中で、どの曲がいちばん好きかは人によって微妙に評価が別れます。自分が最も気に入った一曲を選び、それを伝えてあげましょう。

「この曲はみんな好きそうだな……だから別に自分が言わんでもいいか……」

ということを気にする必要はありません。「私はこの中でこの曲が最も好きです」と表明することは、何より感想として気軽に伝えやすいですし、クリエイター・リスナー双方にとってなかなか意義のあることでもあります。というのは、自分の曲を聴いてくれているリスナーがどういう人なのかを知りたい作者にとって、「この人はこの曲が好きなんだな」ということを知れるのは嬉しいことであるからです。
また「多くのファンの人はこの曲が好き」という情報を作者が知っていると、作者の今後の活動や制作方針にも良い影響を与えやすいので、作者の活動のモチベーションアップにもつながります。

【 プチまとめ 】
複数曲を一度に聴いたなら、
「この中でこの曲がいちばん好きです!」と言おう。

1-3.超初級編「いつも聴いてます」

「聴きました!」「この中でこの曲がいちばん好きです!」と来まして、その次に来るのはこちら。

「いつも聴いてます!」

これは継続的なファンであることのアピールになるのでめちゃくちゃ嬉し度がドアップします。

この「いつも聴いてます!」は、実はボリュームのある感想文を書くのに便利でうってつけの始まりの一語です。ここからは次の初級編の話になるので続きは次に持ち越しましょう。

「買いました!」はもちろん嬉しい。でもそこから先に更に嬉しいのは「聴きました!」とか「聴いてます!」です。そしてその次に「聴いてどうだったか?どうなったか?」というのが言えるようになるともう立派な感想になります。

【 プチまとめ 】
いつも聴いてる曲を褒めたいなら、
「いつも聴いてます!」を言おう。

2.感想とは自己紹介である

ここから少しずつ本格的な話になっていきますが、初級編に入る前に伝えておきたいことがあります。

僕の友人がいつだったかの時に言ってた言葉に印象的なものがあって、それが、

「感想とは、自己紹介である」

というやつです。

確かに、感想というのは、「作品を受け取って鑑賞したあなたが何者であるか」を紹介する自己紹介文なんです。つまり、「この作品を見て聴いて、私はこう思いました、こう感じました、こういう気持ちになりました」というのを表明する行為といえますね。読書感想文の課題にしても、国語の先生はあなたが読んだ本のあらすじを紹介してほしいのではなく、その本を読んであなたが何を感じたか、どういうところが印象に残ったか、あなた自身のことについてを知りたいのです。

たまーーーに以下みたいなケースがないでもないんですが、

「あなたの作品見てると不快です!消してください!!そして垢消ししてください!!」

まあいきなり「あなたのこと嫌いです!」で始まる自己紹介ってヤバいと思うんですけど(いやいきなりそう言われても誰やねんワレって言われた側はなりますが)、こういうのは本記事では想定していない厄介なケースですので、ここではクリエイターとファンの間を好意的につなぐ感想に絞って言及したいと思います。ともかく、「感想とは自己紹介である」ということを今後覚えておいてください。

3.書きやすい感想の基本構造

さて、話を戻しまして、感想とか感想文というものは特に「こういう形式・スタイル・順序で書くべきもの」といった決まりはないんですが、上述の「感想とは自己紹介である」という前提をもとに考えると、感想文を書きやすい構造というものが出てきます。それは、

1.どの曲・どこが好きか
2.どういう気分・どういう感情になるか
3.そのようになる音楽的原因はなにか

この3つの構成です。まずこの3つの基本構造を留めておいてください。

先の節『1-2.超初級編「この曲が好き」』で挙げた

「この中でこの曲がいちばん好きです!」

というのは「1.どの曲・どこが好きか」の部分を満たせています。ここは比較的誰でも書きやすい項目ではないでしょうか。

問題は「2.どういう気分・どういう感情になるか」「3.そのようになる音楽的原因はなにか」です。この2.と3.は少々意識していないと難しいと思う方が多いと思います。しかしこれから2.と3.についても手引きしていきますので、感想を書く脳のシステム、そして音楽に対する理解度を今より深くしたい人はどうぞ続きをご覧ください。

4.感想を送りたい!初級編

『1-3.超初級編「いつも聴いてます」』で、「いつも聴いてます!」という例文を挙げましたが、これは感想文を書く糸口としてとっても便利なものなので、これをもとに「書きやすい感想の基本構造の1・2・3」を組み立ててみましょう。「感想を送りたい曲はあるけど『いつも聴いてます!』と言えるほど頻繁には聴いてないわ……」って人はもう少し待ってください。

まず基本構造の「1.どの曲・どこが好きか」を明らかにするために、「いつも聴いているその曲」を明示します。

「アルバム『なつかしきうた(アルバム名)』の
 『火事と喧嘩は江戸の華(曲名)』が好きです!
 この曲いつも聴いてます!

という感じに。

ここから自己紹介の話題を深めていきます。「いつも聴いている」のであれば、どのぐらいの頻度で、どのタイミングで、どういう時にどういう場所で聴いているのか? というのが浮かび上がってきませんでしょうか?

・毎日?
・毎朝?
・学校帰りや仕事帰りに?
・食事中に?
・毎晩寝る前に?
・ドライブ中に?

これらは「あなたの曲をこのぐらいの頻度で聴くぐらいには好きです」という自己紹介になります。そうすると、

・「この曲好きです!いつも寝る前に聴いてます!」
・「この曲好きです!ドライブ中に流してます!」

と言うことが出来ますね。どういう時に聴いてくれるかが分かると、作者はリスナーの存在を身近に感じます。この部分は省略も可能ですが、感想を書き慣れていない人は「こういう時にこの曲を聴きたくなる」というシチュエーションが分かっていると続きが書きやすくなります。

次に、「2.どういう気分・どういう感情になるか」に相当する部分に入ります。感想とは「あなたが何者であるかの自己紹介」なので、「その曲を聴いているときの自分の感覚や感情」を思い出しながら、その曲を聴くとその時どんな気持ちになるのか? あるいは なぜその時に聴きたくなるのか? を考えて答えます。いきなり「この曲を聴いてどう思うか」を問われて答えるのは難しいですが、その好きな曲を自分が聴くタイミングやその時の環境を思い出せば、ここは書きやすくなるはずです。

・楽しくなる?
・嬉しくなる?
・前向きになれる?
・元気になる?
・踊りたくなる?
・歌いたくなる?
・自分の世界に浸れる?
・食欲が増す?
・落ち着く?
・眠たくなる?
・悲しくなる?

などなど。そうすると、

・「この曲好きです!いつも寝る前に聴いてます!気持ちがリラックスできて心地いいです!」
・「この曲好きです!この曲を聴きながらドライブすると楽しくなります!」

などと言うことが出来ますね。感想文っぽくなってきたぞ!!!

これらのことは全部「あなた自身」に関わることなので、あなた自身がどういう風にその曲を聴いているのかを説明するだけで、もうあなた自身のオリジナリティのある感想(兼自己紹介)になっちゃいます。すごいでしょう。結構かんたん。

となると今度は、「なぜその曲を聴いてそのような気持ちになるのか? その原因」についてを考えることができます。ここが「3.そのようになる音楽的原因はなにか」に相当する部分です。たとえば、

・「この曲好きです!いつも寝る前に聴いてます!ハープの音とボーカルがとっても優しくて気持ちよくてリラックスできて心地いいです!」
・「この曲好きです!この曲を聴きながらドライブすると楽しくなります!テンポとノリが良くて快調な気分で運転できます!」

というように。

つまりは、

「この曲好きです!
   (1.どの曲・どこが好きか)
 いつも寝る前に聴いてます!
   (聴く頻度やタイミングについての補足)
 ハープの音とボーカルがとっても優しくて
   (3.音楽的原因)
 気持ちよくてリラックスできて心地いいです!
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)
「この曲好きです!
   (1.どの曲・どこが好きか)
 この曲を聴きながらドライブすると
   (聴く頻度やタイミングについての補足)
 楽しくなります!
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)
 テンポとノリが良くて
   (3.音楽的原因)
 快調な気分で運転できます!
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

このような構成になっているわけですね。

感想文を書くときの思考の順番は1→2→3の順番で思考すると文章化しやすいですが、実際に文章に起こすときには、1・2・3の順番に拘らず自然な形で文章をつなげてください。

「3.そのようになる音楽的原因はなにか」の要素については、少々音楽の専門的な知識にも足を突っ込むような話になってくるかもしれません。ここを書くのが難しいという人は3.を省略しても充分感想(自己紹介)として成立するので、まずは手始めに「1.どの曲・どこが好きか」「2.どういう気分・どういう感情になるか」を並べることにチャレンジしてみてください。今は分かる範囲で考えてもらえれば大丈夫です。
正直なところ、ある程度深いレベルまで行くと、3.の要素については実際に音楽的な知識が必要なことがあります。そこまで行くともう「音楽やジャンルのことについて勉強してみてください」と言わざるを得ないのですが、たとえ音楽的知識がなくても「音楽の聴き方を鍛える」ことは出来るので、3.についても今後さらに少しずつヒントを出しながら手引きしていきたいと思います。

このように、「聴きました!」とか「いつも聴いてます!」といった類の感想も、そこに「その曲を聴いたときの自分がどのような人間であるか」という情報を付け加えることによって、手軽に立派な感想を書くことが出来ます。しかし、意外とこういった形で感想を伝えている人はあまり多く見られません。
今まで「感想を書きたいけど書けない」と思い込んでいる人は、ここまで読んでみていかがでしょうか? 上記のような1・2・3の手順とアプローチで考えれば、何かしらの思いを感想として文章化できるようなインスピレーションが湧いてくるのではないでしょうか? ぜひ何か心の中の思いがあるのであれば、この機会に感想をアウトプットしてみましょう。

【 プチまとめ 】
いつも聴いてる曲を褒めたいなら、
「いつも聴いてる好きな曲を明示し」(1.どの曲・どこが好きか)
「どのぐらいの頻度で聴いているか」(補足説明)
「どういう時に聴いているか」(補足説明)
「聴くとどういう気持ちになるか」(2.どういう気分・感情になるか)
そして最後に可能であれば、
「そのような感情になる音楽的原因は何か」(3.音楽的原因)
を並べて自己紹介をしよう。もう立派な感想になる。

5.そもそも感想が書けないワケ

「『いつも聴いてます!』とかじゃなくて、俺は自分の言葉を使って自分の愛する曲を評価したいんだ!でもそのやり方が分からんのだ!」

という方、お待たせしました。

一瞬話が逸れますが、感想が書けない理由が何かをズバリ説明します。

多くの人が、

「自分には語彙力がない……音楽的な知識がない……だから良い感想が書けない……」

と思い込んでいるかもしれません。確かに語彙力とか音楽的な知識は感想文の出来を多少左右するかもしれませんが、しかしそれは感想が書けない直接的な理由ではありません。

多くの人が感想を書けないのは語彙力がないからではありません。
忘れてしまうからです。

「感じたこと」というのは、あなたが思っている以上に一瞬ですぐ逃げてしまいます。人は作品を鑑賞したり何かを感じ取ったりした時に、「小さな感動」の数々が次から次へと生まれては消えてを繰り返していくものです。だからその一瞬一瞬の気持ちの変化や流れを自分が意識的にキャッチして、自分の手で意識して掴み取らないといけません。

特に音楽は時間芸術なので、「5秒前にあった小さな感動」が、「その5秒後の別の感動」に次から次へと上書きされてしまうことが多々あります。そうして「小さな感動」が積もりに積もって最終的に「大きな感動」へと繋がっていくのですが、その「大きな感動」が「小さな感動の積み重ね」であることに気がついてないから、最終的に曲が聴き終わる頃に目の前に積み上がった「大きな感動」を目前にして(………語彙力………)となってしまうケースが大変多いです。

「小さな感動」はすぐ忘れてしまうので、「大きな感動」に圧倒される前に「小さな感動」をすぐに言語化して書き留めることが、濃密な感想を書き残すコツだと言えますし、そもそも「小さな感動」を少しずつキャッチすることが、その作品への更に深い理解につながっていくでしょう。

じゃあその「小さな感動」って何よ?って話なのですが、音楽における「小さな感動」がどのようなものか、それはアーティストにもよりますし、曲にもよりますし、音楽のジャンルにもよりますし、本当に多種多様なのですが、このへんも音楽の専門的な知識がない人にも分かりやすいように、つかみ取りやすい部分から紐解いていきます。

6.展開と小さな感動

音楽は時間芸術なので、ほとんどの音楽の場合、「展開」という概念が存在します。「展開」という言葉そのものには色々意味がありますし、クラシック音楽の専門用語でもソナタ形式で「展開部」なんて言葉もあったりしますが、ここでの「展開」は「時間的な経過を伴いながら音楽が変化していくこと」だと捉えてください。音楽における「展開」という要素そのものは、「小さな感動」の宝庫です。

たとえば歌モノで「イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ」と進行していくことは「展開」ですし、また大きな括りで見ると「イントロ→1コーラス→2コーラス→アウトロ」と進行していくことも展開です。展開の規模がデカい曲と言うと、交響曲のように音楽の変化が著しく、且つ楽曲全体の尺も長い曲だと言えるでしょう。

次から感想の書き方・中級編に入ります。中級編では初級編よりも少し細かくディープに音楽を聴き、そしてよりオリジナリティのある自分の感想(自己紹介)が書けることを目指します。そのために、これから音楽の「展開」というのは重要なヒントになりますので、注意してみながら考えてみてください。

7.感想を送りたい!中級編

中級編です。

7-1.中級編「いちばん良いところ」をキャッチする

音楽に「展開」があるということは、程度の差はあれど、「その楽曲全体の中で、いちばん聴かせたいところ」がほぼ必ず存在します。曲によって「ここを聴いてほしい!」という場面の姿は様々ですが、「ここがいちばん盛り上がる!」「ここでいちばん気持ちよくなってほしい」「ここにカタルシスがある」といった箇所が例として挙げられます。
楽曲中に散りばめられた「小さな感動」をキャッチするのに最も簡単な方法、それは、作者が意図した「ここをいちばん聴いてほしい!」という箇所をキャッチすることと言えます。

先に挙げた例のように、日本の歌モノでよく見られる「Aメロ→Bメロ→サビ」という展開の場合は、ほとんど「サビ」が「いちばん聴かせたいところ」になるでしょう。
ですからこの場合、「作者がいちばん聴かせたいはずのサビ」の部分を聴いて、あなたが「気持ちよくなる」ことができれば、それはあなたの音楽体験は成功なのです。それを感想として伝えれば良いのです。

「えっサビがいちばん良いなんて当たり前なのでは?そんな当たり前なことを伝えて感想になるのか?」

なるんです。

なぜなら作ってる人は、

「ここがいちばん気持ちのいいところだからここをいちばん聴いてほしい!」

と思ってるけど、その裏には、

(……けど本当にリスナーが気持ちよくなってくれるかどうかは分からない……作ってる俺がただ一人で気持ちよくなってるだけかもしれない……)

という不安が表裏一体の関係でつきまとっているからです。
だから「ここでいちばん気持ちよくなってほしい」という理想が実際のリスナーにも伝わることが分かると、嬉しいし、作者の自信になります。これすごく大事。クリエイターとリスナーが同じ感覚を共有できるのを分かち合うってのは感動的な出来事なんです。

なので、

「この曲のサビの部分マジ最高っす」

はい100点。この表明をするだけで100点満点中100点です。

「この曲のサビの部分
   (1.どの曲・どこが好きか)
 マジ最高っす
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

書きやすい感想の基本構造の1・2・3のうち、1は「どの曲・どこが好きか」でした。「この曲が好き」という言い方については既に超初級編で説明しましたが、「どの曲・どこが好きか」なので、「この曲」でなく、「この曲の中のこの部分」という指摘の仕方でも感想を書くことができます。ですから、「この曲が好き」という言及の仕方以外に、「サビの部分が最高です」という言い方も、「1.どの曲・どこが好きか」の要素を満たすことが出来ます。

【 プチまとめ 】
自分の中の「小さな感動」に敏感になろう。
「サビ」など、いちばん良いと分かりきっている、
当たり前のセクションを称賛してあげよう。
「どの曲が好き」だけでなく「この曲のこの部分が好き」でも良い

7-2.中級編「自分が好きなところ」をキャッチする

先ほどは「いちばん良いところ」をキャッチすることについて書きました。「いちばん良いところ」の代表例が「サビ」なのですが、他にもこういった例があるかもしれません。

・「俺はこの曲サビも好きだけどAメロがもっと好きなんだよね」
・「サビも良いけどAメロとサビの間に挟まれたBメロの落ち込み具合がクセになる」
・「2コーラス目で雰囲気がガラッと変わるのシビれる」
・「2番のあとのギターソロがカッコいい」
・「そもそもこの曲サビがあんのか分からん」

素晴らしい。あなたはその個性的な感受性で他の人とは違うちょっと個性的な感想が書けます。

先の節では「いちばん良いのが当たり前のはずのサビ」を「当たり前に称賛する」ように書きましたが、今度はその「当たり前」に対して評価するのでなく、自分の気持ちに素直になってみます。

「サビがいちばんいいところだからサビを褒めてあげないといけない」かというと、そんなことは決してありません。「Aメロ」や「Bメロ」が好きだったら、それを言えば良いのです。

「なんかよく分かんないけどこの曲良い!」

でも全然良いですが、これよりも更に、

・「この曲のサビが良い!」
・「この曲のAメロ好き!」

というように特定の部分に言及して言えると、書きやすい感想の基本構造の1・2・3のうち「1.どの曲・どこが好きか」の要素をより詳細に満たすことが出来るので、やはりこちらの方が感想としての解像度が上がります。別に「Aメロだけに言及すると他の部分がダメみたいなニュアンスを含むのではないか」みたいな心配をする必要はありません。

「感想とは自己紹介である」と先に述べたように、

「みんなサビが良いって言ってるけど俺はAメロが良いと思うんだよな」

といった自己紹介になりますし、何よりクリエイターにとっては

「うちの曲を聴いてくれるファンの中の一人にはこういう感性の持ち主がいるんだな」

ということが分かるので、作者はこういった感想によってファンの存在をより身近に感じることが出来ます。またこういった感想がファンから出てくることで、ただ単に「あれが良いこれが良い」と言い合うだけでは済まない、よりディープなファン同士の交流が一層深まるかもしれません。「サビ」以外のセクションに特別な魅力を感じる場合は、ぜひそれを感想として言及しましょう。

また、「Aメロ→Bメロ→サビ」という展開を持たない楽曲もあります。

・「サビっぽいような気がするけどサビなのかどうか分からない」
・「この曲にサビはないような気がするけどこのセクションが良い」

そういうときは「再生時間」を示して言及してあげましょう。

・「1:12から1:37の部分がとても好き」
・「56秒から聴こえてくるコォーン!って音がクセになる」

とかで良いです。立派な自己紹介(感想)ですね。

特に2つ目の感想例、「コォーン!って音」という表現がいかにも、「コォーン!って鳴ってる音の楽器名分かりません」っていう音楽無知素人感を醸し出してるように見えますが、この例文は、

「56秒から聴こえてくる
   (1.どこが好きか)
 コォーン!って音が
   (3.音楽的原因)
 クセになる
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

という構造をしていて、短いながらも1・2・3の3つの要素を完全に満たしていますから、大変立派な感想文です!!!

また特定の一瞬間だけに関して言及するのもめちゃめちゃGoodです。

「この曲の3分22秒の瞬間が気持ちいい」

みたいな。これも一応構造分析すると、

「この曲の3分22秒の瞬間が
   (1.どこが好きか)(3.音楽的原因)
 気持ちいい
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

となります。
「3.音楽的原因」についての言及がちょっと弱いようにも感じますが、「3分22秒の瞬間」と時間を正確に言及していれば、作者は「ああここの音が一度に集まる瞬間が気持ち良いのね」とか「Bメロのボーカルが伸びやかに歌ってるのが気持ち良いのね」みたいな感じで勝手に理解してくれるので大丈夫です。「『音楽的原因』について言及するのが苦手だなあ」という人は、「再生時間の明示は、音楽的原因への言及になり得る」ということをぜひ覚えてください。

「好き」という表現を使うのはちょっと大袈裟な気もする、という人は「素敵」という表現を使うのも良いですよ。

「1:21~1:41の部分が素敵です」
「1:21~1:41の部分が
   (1.どこが好きか)(3.音楽的原因)
 素敵です
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

要するに、「自分が好きな特定の一部分」が明確に存在するのであれば、その特定の一部分がどこなのか分かるように言及して、「ここが好きだ」と言ってみましょう。
それはAメロとかBメロでも良いですし、前奏や間奏・後奏でも良いですし、1コーラス目・2コーラス目という長い区間でも良いですし、たった1秒の瞬間でも良いんです。
また、「この曲のこの部分が良い」という意見は、「この曲そのものが好き」という意見よりも、その曲を知らない人のその曲に対する興味関心を引かせる効果があります。音楽というのは実際に聴いてみないと良し悪しや好き嫌いを判断できないので、その曲を知らない人からすると、音楽を聴く前に、「どういった部分を楽しみにして身構えれば良いのか」少しでも情報があった方が興味を持ちやすいです。単なる漠然とした「好き」という思いよりも、ほんのちょっとでも具体的な情報や意見・感想が多ければ多いほど、新たなリスナー・ファンを増やせるチャンスにもなり得ます。

「曲としては一曲丸々好きだけれど、特にこの部分に差し掛かるのを聴く度に毎回楽しみにしている」という思いは、れっきとした「小さな感動」の一つなのです。その感覚を逃すことなく捉えてあげてください。ここまで挙げてきたような感想例文に心当たりのある方は、その思いを短い一文でいいので文章に起こしてみませんか?

【 プチまとめ 】
自分が好きな区間を「Aメロ」とか秒数などで明確に示して伝えよう。
自分の中の「小さな感動」に敏感になろう(二度目)。
「どの曲が好き」でなく「この曲のこの部分が好き」でも良い(二度目)。

7-3.中級編「いちばん良いところまでの過程」をキャッチする

多くの場合「サビ」は「いちばん良いところ」ですが、「いちばん良いところ」以外はどうでもいいのか?というと決してそうではありません。「展開」があるからこそ「いちばん良いところ」は輝くのです。

「サビ」が「いちばん気持ち良い」のだとしたら、その「サビ」に至るまでの「過程」も、「サビが最も気持ちよくなるように計算されて作られている」はずです。ですから、「サビ」そのものが「小さな感動」であれば、その「小さな感動」へ導くための道のりも「小さな感動」の集まりなのです。そこにも「サビで気持ちよくなってほしい作者の意図や思い」が隠れているでしょう。

なので、単に「サビが気持ちいい」ことだけでなく、

「AメロからBメロへとじわじわ盛り上がっていってサビに至るのが気持ちいいです!」

という風に「展開の美しさ」という小さな感動を享受してそれを表現できると、よりそれっぽい感想として成立するんですね。

「AメロからBメロへとじわじわ盛り上がっていってサビに至るのが
   (1.どこが好きか)(3.音楽的原因)
 気持ちいいです!
   (2.どういう気分・どういう感情になるか)

さらに、サビに至るまでの過程におけるAメロ、Bメロで、自分がどう思ったか、過程の中で自分の心がどう変化したかをキャッチして文章化できると更にGoodです。この場合はサビから逆算して考えるのが分かりやすいと思います。

たとえば、「サビは高揚感があって爽快」であれば、
「Bメロは落ち着きがあって途中からサビに向けて盛り上がっていく」、
「落ち着いたBメロとは対照的にAメロは元気のある感じ」、
――この例はよくある感じのオーソドックスな楽曲展開の例で、このような展開の曲の場合は作っている人もそういう風に聴こえるように意図して作っているでしょうが、やはりその意図がリスナーに伝わったかどうか、それが感想を通して分かる・分からないのとでは作者の自信に大きな影響が出ます。やはり「Bメロは静かなところから盛り上げていきたい!」という意図で作ったBメロが、実際にリスナーにそのように受け取られていたということが分かると、めちゃめちゃ嬉しいもんです。

意外と、変に小難しいことを考えたり変に気取ったことを言おうと考えなくとも、「当たり前に感じることをそのまま受け取りました」と文章で表明することでシンプルに喜ばれるものです。

そして、これらの「展開の美しさ」や「展開によって引き起こされる聴き手の感情の変化」の音楽的原因が何か、というところまで言及できるようになると、ちょっと高度な感想に近付いていきますね。

「Bメロ(1.どこ)になると
 落ち着いて聴こえる(2.どういう気分・感情になるか)

Q.「なぜBメロになると落ち着いて聴こえるのか?」
→「音量が落ちるから」(3.音楽的原因)
→「楽器の数が減るから」(3.音楽的原因)
→「メロディの音が低くなるから」(3.音楽的原因)
→「リズムが静かになるから」(3.音楽的原因)
→「ハーモニーが暗くなるから」(3.音楽的原因)

「Bメロからサビに向けて(1.どこ)
 だんだんと盛り上がっていく(2.どういう気分・感情になるか)

Q.「なぜだんだんと盛り上がっていくように聴こえるのか?」
→「音量が次第に上がっていくから」(3.音楽的原因)
→「楽器の数が次第に増えていくから」(3.音楽的原因)
→「音がだんだんと高くなっていくから」(3.音楽的原因)
→「リズムが次第に細かくなっていくから」(3.音楽的原因)
→「ハーモニーが次第に明るくなっていくから」
(3.音楽的原因)

などなど。

ほかにも、こういう30秒とか1分とかのある程度まとまった時間の中で繰り広げられる「展開」の中にも、フックとしてほんの一瞬に瞬間的な「引っ掛け」となる音楽的要素があったりなかったりします。これも「小さな感動」の一例です。例えば一瞬無音になるとか、変な楽器の音が一瞬鳴るとか、
一瞬だけボーカルの声質が変わるとか。何かそういったリスナーの注意を引くような音楽的演出は、「展開」のコントラスト(対比・落差)を生むのに機能していることがあります。こういったことに気付き、またそれについて感想で言及してあげると、感想の説得力やボリュームが増し、同時に音楽に対する理解が更に深まっていくでしょう。

楽曲の展開をそのまま文章化して解説するのではなく、曲を聴いている間の自分の気持ちの変化を捉えて、その気持ちの変化が起こった音楽的原因を探し出し、それらを同時に文章化することでどんどん感想らしい文章になります。

【 プチまとめ 】
「展開」の中に潜む「小さな感動」の連続を捉えてみよう。
自分がいちばん好きなところに至るまでにどういう道のりがあるか、
どういう感情の変化が引き起こされるかを分析してみよう。
可能であれば、感情の変化が起きる音楽的原因を探し当てよう。

8.感想を送りたい!上級編

今更なことを言いますが、別に感想に初級も上級もクソもないです。
音楽バリバリ分かってそうな人の感想とか、意外と、

「このギターのカッティングイカすねえ~!」

ぐらいのことしか言わなかったりするもんです(強い人であればあるほどその説得力は強いものですが)。

しかしながら、ここまでの超初級→初級→中級という記事の流れで来て、さてさて上級の感想とはどんなものかというと、

「書きやすい感想の基本構造の1・2・3」のうち、
「1.どの曲・どこが好きか」で言及するポイントがマニアックで
「2.どういう気分・どういう感情になるか」の語彙の選び方が的確で
「3.そのようになる音楽的原因はなにか」についての指摘が正確である

こんな感じでしょうか。
ズバリ、「音楽の感想書きたいけど音楽の知識ないし語彙力もないから書けない~!」と思いがちな人が夢見ている理想的な感想(?)を抽象化・一般化したものの権化みたいな感じに濃縮されます。
確かにここまで来ると、上級っぽい感想を書くにあたって「音楽の知識ない」「語彙力ない」というのは弱点になりますが、しかし先の中級編で記した通り、自分の中の「小さな感動」を自分で一個一個拾い上げることを地道にやっていれば、多少表現がスマートでなくとも、説得力があってボリュームのある感想には仕上がります。

端的に言うと、「小さな感動」をたくさん拾い上げるには、音楽を聴く耳のアンテナの感度を高めるのがオススメです。要するに、楽曲内に含まれる色んな細かい要素(小さな感動)にたくさん気付くことなのですが、つまりこれは、「感想をどのように書くか」という問題より「自分が好きな音楽をどう自分流に聴くか」という問題になってきます。

そのために、音楽を聴く耳のアンテナの感度を高めるのに良いヒントを以下に用意してみました。上級編の感想を残してみたい人は、これらの要素を意識して曲を聴いてみて、また小さな感動をたくさん拾い上げ、それを自分の言葉で文章化する練習をしてみてください。

8-1.上級編「どこが好きか」

まず、「1.どの曲・どこが好きか」について、今まで以上にマニアックな観点で楽曲に注目してみます。

第一に、「展開そのもの・楽曲構成」に魅力はないでしょうか?たとえば、

・イントロがすごく長くてだんだんとテンションが上がる
・いきなりサビから始まるので再生した瞬間に引き込まれる
・繰り返しが全くなく他の曲では聴かないような独自の展開がある

などなど。「私が他の音楽を知らないだけでこれは別に珍しいものではないのかもしれない……」と思う必要はありません。感想とは自己紹介なので、「あなたにとって珍しいか否か」もしくは「あなたにとってそれが初めての体験か否か」が大事です。たとえばイントロが長い曲って探せば何曲かありますが、あなた自身が「歌が始まるまでに3分間ある長い長いイントロに初めて魅力を感じた」という体験をしたのであるならば、それを書き留めた感想は希少価値が高いです。

次に、「テンポ(BPM)設定や変化」に魅力はないでしょうか?たとえば、

・ハイテンポでめちゃクソノレる
・非常にゆっくりで重々しく荘厳だ
・落ち着いたテンポでゆったりできる
・場面ごとのテンポ変化が豊富で色んな街を観光しているみたい
・テンポの揺れが気持ちいい
・緩から急へのテンポの追い上げが見事でカッコいい

などなど。テンポ(BPM)も音楽の雰囲気や世界観の形成に非常に重要な役目を持っています。

次に、「楽器の音色・歌声」に魅力はないでしょうか?たとえば、

・3:15から流れる音が何の楽器か分かんないんですけどいい音ですね
・ボーカルの声が歌詞の世界観に合っていて素敵です
・ギターの音めっちゃカッコいいです
・Bメロのメロディの音が独創的で面白いです
・突然尺八が入ってきて一気に和風の世界を感じました
・優しい音色 or 歌声です
・強くてカッコいい音色 or 歌声です
・AメロとBメロで音色 or 声色が対照的な変化になっていてすごい

などなど。楽器の音の良し悪しは実のところその楽器について詳しく知っていないと判断できないところがありますが、これも先と同様で「あなたにとって素敵に聴こえるか否か」というあなた自身の体験が大事です。

次に、「楽器が出てくるタイミング」に魅力はないでしょうか?

・2番が終わった後の間奏でオーボエが初めて出てくるのが素敵です
・イントロで聴いたオルゴールがアウトロで再び現れる演出が良いと思いました

などなど。魅力的な音を出す楽器は、ずっと聴いていたいほど魅力的で常に一曲丸々フィーチャーされていることもあれば、魅力的であるが故に多用すると効果が薄れるから使う場所を限定することもあります。後者のような楽器の使い方がなされていないか、タイミングに注目してみましょう。これはいわゆる、「楽器法」と「展開」の合わせ技です。

次に、「ハモリ」に魅力はないでしょうか?

・サビでボーカルがハモりだすのがカッコいい!
・2番からハモリが増えて音が重圧になって盛り上がる!

などなど。「ハモリ」は音を充実させたり分厚くしたりするのに有効な手段ですが、ハモリの魅力が多すぎるとお腹いっぱいになりすぎることがあるので、しばしば「ハモる箇所」を限定している場合があります。これも「展開」との合わせ技です。その「ハモっている場所」と「ハモってない場所」の区別がつくようになると、その楽曲の理解が更に深まり、それぞれの魅力をより深く感じることが出来るでしょう。

次に、「リズム」「リズム感」「ノリ」「ドラム」に魅力はないでしょうか?

・聴いててノレる
・聴いてて踊りたくなる
・聴いてて体が揺れる
・リズムを刻んでいる音が気持ちいい・カッコいい

などなど。こういった感覚が引き起こされる楽曲は「リズム」や楽曲の「ノリ」に魅力があります。
実際にこういったリズム感やノリを作っている楽器はドラムであったり、ドラム以外のパーカッション(打楽器)であったり、リズムギターのカッティングであったり、ベースラインであったり、はたまたピアノやブラスセクションなどのバッキングであったり、こういったところまでの正確に言及するには楽器やジャンルへの知識が必要ですが、そこまで分からずとも「リズムが気持ちいい」のであればそう言及すれば感想としては充分です。
もしあなたが楽器に興味があるのであれば、

「このリズム感を作っているのは何の楽器ですか?」

と作者に直接訊いてみるのも良いかもしれません。シンセやエフェクト等を多用しているような楽曲など、音楽のジャンルによってはこの問いに対する具体的な答えが出しにくかったり、あるいは企業秘密だったりで明確に答えてくれない場合もありますが、作者と直接交流したいという点では、感想を送るがてら訊いてみるのも良いかもしれません。

次に、リズムとも関係が深い要素ですが、「ベース」「ベースライン」に魅力はありませんか?

・ベースが聴いてて心地いい
・ベースラインがイカしてる
・ベースがデュルデュル踊り狂ってて面白い

などなど。「ベース」とはドラムのような「パンッ!」とか「ドンッ!」とか「ドスッ!」という打撃音でなく低い音で「ブーン」とか音が伸びていたり「デュルデュル」していたりと低い音程が鳴りながら音楽を支えているやつです(ジャンルによってかなり性格が異なります)。「ベースライン」というと、その「ベース」が演奏しているの横の流れや音符のまとまりのことを言います。
ベースはリズムとの結びつきが強い楽器・パートなので、この指摘はどちらかというと「ベース」という楽器・パートをはっきり認知できている人向けでしょうか。
ベースが鳴っていると音楽の土台がしっかりするのですが、逆にベースがないと音楽が浮いたような、浮遊感のあるサウンドになります。それを意図してベースを丸々抜いているような曲、あるいは突然静かになる部分などにベースが消えていなくなるような設計をしている曲もあるので、そういったことも気付けるようになると面白いです。

次に、その楽曲の「世界観」「雰囲気」はどうですか?
たとえばその楽曲は、

・日本っぽい?欧米っぽい?
・民族風?異国風?
・西洋風?東洋風?
・現代風?昔っぽい?
・革新的?伝統的?
・都会っぽい?田舎っぽい?
・カッコいい?かわいい?
・強そう?優しそう?

いかがでしょう? 上記のうち、いずれかの単語に引っかかりのあった人は、それについて楽曲と共に考えてみましょう。それが作者の意図と合致しているかどうかは分かりませんが、その曲に何か特別・独特な雰囲気を感じて、それを説明するためのふさわしい言葉が欲しい場合、上記の言葉を探してみてください。そして、そのように感じた根拠(音楽的原因:使っている楽器の音色やテンポやリズム感など)も併せて言及出来ると良いですね。

・キラキラした音色がオシャレな夜の都会っぽい
・二胡の音色が中国的な情緒を誘いノスタルジックな気持ちになる
・今まで聴いたことのない新しいサウンドで革新的だ

などなど。

次に、音から「匂い・香り」「色」などを感じますか?別に共感覚的な話でも、そうじゃなくても構いません(共感覚については、ググってください)。

・この曲はなんか柑橘系の酸っぱさを感じます
・すごくアツい熱気のあるサウンドなので個人的に赤のイメージカラーを感じます
・和楽器の音が気持ちよくて日本酒が飲みたくなる

などなど。ちょっとスピリチュアルな感じがしますが、スピリチュアルということは逆にその人自身の個性を強めるものであるので、感想としては個人の色がかなり強く乗るものになります。

次に、「歌詞」「ボーカルの歌い方」はどうですか?
歌詞の中で、最も印象に残るフレーズや単語、魅力的な言葉選びなどはないでしょうか? またその該当箇所について歌い方・発音・声色など、ボーカルはどのように歌っているでしょうか? 歌詞のリズム感・フレーズ感を演出するために韻を踏んでいないでしょうか? 歌詞のメッセージ性をより強く表現するために伴奏に何らかの工夫が入っていませんか?

・サビの「まほろばの道」という言葉選びが彼女の言葉らしくて好きです
・Aメロの「過ぎ去った夢はみな、壊れたものが残った」の語感が気持ちいい
・サビが始まる最初の一音の発音が力強くて気合が入ってカッコいい
・終盤の「さよなら」がためらいのある歌い方でとっても切ない
・カタカナ言葉がなく日本語の表現だけで歌詞が出来ていて響きが美しい
・英語と日本語で発音が似ている言葉が並びダブルミーニングになっていて面白い
・最後のキーワードとなる部分で伴奏の音が全部消えるのが印象的
・「吟遊詩人に気づいた私は足を止めた」の部分でリュートの音が聴こえてくる演出がエモい

などなど。

最後に、その曲の「サウンドそのもの」はどうですか?

・サウンドに壮大な広がりを感じますか?
・ミニチュアなサウンドですか?

先の世界観とも関係のある部分ですが、音が広いか狭いかという要素は、聴き手の想像力を掻き立てるのに有効な要素です。

・オーケストラの壮大なサウンドで、大海原や広大な草原の広々とした世界を感じます
・小さくてかわいい音で、小動物が遊んでいるような微笑ましい景色を彷彿とさせます

などなど。

8-2.上級編「気分・感情の語彙」

今度は、「2.どういう気分・どういう感情になるか」についての言葉の選び方・語彙です。ぶっちゃけこれに関しては音楽的な知識やアンテナどうこうより、普段の語彙力の問題という方が近いですね。
私自身もそんなに語彙がたくさんある人間ではないのですが、よく人の音楽について吟味する時に考える単語や概念を以下にリストアップしてみましたので、皆さんのお気に入りの楽曲に対して感じる思いや感情にフィットする単語があるかどうか、探してみてください。
また普段から人の文章や感想・批評文・文学作品・映像作品のセリフなどを積極的に読んで、新しい言葉に触れる機会を増やしておくのもオススメです。
しかし気を張ってあんまり難しい言葉を使おうとする必要性はないです。このぐらいのレベルのことを実践しようとするだけで、感想を残す人としては既に充分個性的なので、そこは是非自信を持ってください。

【雰囲気・感情】
ワクワクする・楽しい感じ
カッコいい・重々しい感じ
好戦的・血が騒ぐ感じ
怪しい・不気味な感じ
怖い・恐ろしい感じ
かわいい感じ
和やかな感じ
落ち着く感じ
優しい感じ
美味しそうな感じ
デリケートな感じ
切ない・寂しい・悲しい感じ
泣ける感じ
懐かしい感じ
高級感ある感じ
畏まった感じ
キラキラする感じ
壮大な・世界観が広がる感じ
【具体例】
映画のような感じ
アニメソングのような感じ
大河ドラマのような感じ
ハリウッド映画な感じ
宗教的な感じ
花や料理や線香の香りなど、何か匂う
【温度・性格・質感・質量】
熱さ・暑さ
あたたかさ
涼しさ・清々しさ
冷たさ・寒さ
強い・カッコいい・大きい・重い
弱い・優しい・小さい・軽い

などなど。そんなに難しい言葉は並べていませんが、感想を伝えるには結構使える言葉ばかりです。これらの単語や表現を組み合わせて自分の気持ちを文章に起こし、自分だけのオリジナリティのある感想文を残そう!

8-3.上級編「音楽的原因に対する正確な指摘

最後はリスナーにとって最も難しい問題、「3.そのようになる音楽的原因はなにか」に対する正確な指摘についてです。
こればっかりは、実際に音楽を作っているクリエイター側の人間だと対応しやすいのですが、「音楽は聴くけれど作ったことはないし、楽器のことや音楽的な知識はあまりない」という「聴き専」の人にとっては難関です。なので、上級編のこの部分は、もはや分かる人が書ければそれでもう十分と言えます。
もし「聴き専」であってもこのレベルの話に興味があるのであれば、自分が聴いている音楽のジャンルについて調べてみたり、そのジャンルと同じジャンルの他の楽曲を聴いてみたり、同じ曲を聴くファン同士で交流したり、あるいは音楽のことについて詳しそうな人に直接問い合わせてみたりして、情報を収集したり交換したりして極めていくのがオススメです。

実際に「音楽的原因に対する正確な指摘」とはどういうものかという話ですが、具体例としては、

「サビの11小節目のコードはEm7であったが、いちばん最後のサビだけここはE7になっていてここのハーモナイズに胸が締め付けられる」

とか

「ドラムのリズムは2小節パターンだが、リズムギターのカッティングは4小節パターンになっていて、この2つの楽器がもたらすリズムが複雑に絡まり合い、音楽のノリそのものをより聴き応えのあるものにしている」

とか

「ヴァイオリンのソロを際立たせるために、バックのオーケストラの音は全体的に遠い音像になっていて、大群に立ち向かう一人の戦士を表現するかのようなサウンドミックスの表現が大変秀逸」

とか

「彼のピアノのアドリブソロはリリカルだ」

とか

「細かい音符一つたりとも外さない大変見事かつ緊張感のある演奏」

とか

「サビの高いレ♯と、その後により強いメッセージが来る高いミの音とで声が使い分けされている」

とかこんな感じになります。確かにここまで正確に指摘できると説得力があるなあという感じになりますが、同時に「評論」っぽくもなります。「感想」と「評論」は微妙に性質が異なるものであり、「感想」は何度も言う通りあくまで「私はこのように思った」と記す「自己紹介」です。なので、音楽的知性のある感想文を書くために音楽の勉強をするよりも、『8-2.上級編「気分・感情の語彙」』までのレベルで、自分の思いや感じたことが相手に伝わる文章を書けていれば感想としては充分でしょう。

9.まとめ

以上、音楽の感想の書き方、超初級から上級まで手引きしてみました。

「立派な感想が書きたい、けど書けない」と思っている人ほど、上級編のような内容の濃い感想を書きたいという理想があり、そしてそのような感想を文章に起こせない現実の自分の差に打ちひしがれているかもしれません。しかし大事なのは「感想とは自己紹介であること」を念頭に、「音楽を通して自分が体験したことや心の変化を逃さずに文章に書き起こす」ということです。
そして超初級編で指摘しましたが、「聴きましたよ!」ということをアピールすることも、「感想が書けるようになるための重要な第一歩」かなと思いますし、冒頭に記した通り、音屋は感想をもらう以前にそもそも「聴いてもらえたという実感が少ない」と感じる人が多いので、駆け出しのクリエイターを応援したり、自信をつけさせることができるという良い効果があります。

最後に、「音楽の感想を書く」というのは意外と「クリエイティブな作業である」ということも覚えてもらうと良いと思います。中級編以降、「小さな感動をキャッチしてそれを文章化できるように」との旨を指摘しましたが、この通り、しっかりした感想を書くのは意外と頭と労力を使うので大変です。
ですから、ある意味「感想を書く人」というのは「単なる消費者」とは異なる「表現者の一人」であり、「リスナーでもあり同時にクリエイターの一人」とも言えるのです。その感想を書き、自分の感想を持ち寄って人と感想を投げ合い意見交換する様は、その時その時の流行りものを追いかけて人と共有するような生き方とは異なる、オタクらしい濃い文化交流の姿かもしれません。

真剣になって感想を丁寧に書こうとすると結構大変です。決して、「感想を残さなきゃ、送らなきゃ」という義務感を無理に負う必要はありません。「自分はどういう音楽が好きなのか?」を自分に問いかけて自分と向き合う機会にしたり、音楽をより深く鑑賞し味わうための機会として、感想を書くという儀式を執り行うのが良いかなと思います。

でも最後の最後に一人のクリエイターとして言いたいことを言うと、やっぱり感想をもらえるとクリエイターは超新星爆発を起こすぐらい嬉しい💥💥💥
こんだけネットが発達しててもリアルのライブやコンサートだったり、リアルタイムの生放送や生配信の人気があるのって、やっぱりリスナー一人一人の存在を身近に感じたいからだと思いますし。

それでは皆さん良き鑑賞ライフを。

ちなみに時間が出来たのでSkebを始めました。これについて語って(テキスト)、これについて教えて(アドバイス)、こういう曲作って(ミュージック)などもしあったらリクエスト投げてみてください。

p.s. 秋の新譜の感想ください。手にしてくれた人で書いてもいいよって人おねがいしやす。このnoteを読んでこの新譜を題材に感想を書く練習にしてくれてもいいよ。27曲もあるけど。


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