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作者も気づかなかった衝撃の真相 ~ 白のロンドな裏話♪


【ご注意!】
「白の Rondo」未読の方は、ネタバレにお気をつけ下さいませ。


 ウィーン西駅にほど近い、マリエンヒルファー大通りから逸れて坂を下った落ち着いた界隈、白亜の彫像が佇む素敵な中庭を備えた、ごく一般的な4階建て石造りアパートメントの屋根裏を見せてもらったことがあります。

 建物全体の屋根を三角に傾斜させる為だけにスペースがとられたような、天井の高い広々とした、がらんどうの空間は、屋根の部分に幾つか窓があり、屋根裏といえども結構明るい印象でした。
 住人の鍵で入れるので、こっそりダンスの練習なんかもできそうですが、人が暮らせる環境には作られていない為、逆に「秘密の隠れ家」にはうってつけでは? と思った次第です。

 かつてはレジスタンスのアジトでもあった秘密の屋根裏部屋で、ひっそりと暮らしている天涯孤独なピアニストの青年……。

「セピア色の舞踏会」
「白の Rondo」(続編)
「#ないたずらっ子」(番外編)
 この3つの物語の主人公、アントンが「身寄りがない」という設定は、実はここから来ています。

 幼少時は修道院付属の養護施設の世話になり、学生時代は寄宿舎を経て音大の寮へ。卒業後は家賃を払えるゆとりもなく、家族も親戚もいないから帰れる家もなく、知り合いの大家の好意で、家とはいえないが屋根は一応あり、水回りも完備している空間に、ただ同然で住まわせてもらっているという……。

 そんな発想が、屋根裏の世界から広がってゆきました。
 加えて、
・時空を超えて存在するウィーンの大観覧車
・くしゃみで吹き飛ばされた音符

 これらが軸になり、往年の時代に憧れるロマンティスト、アントン・ヴァイスの物語が生まれた次第です。


「セピア色の裏話」でもお伝えしたように、

「セピア色の舞踏会」は、せっかく一話で完結しており、
「19世紀での2人の幸せぶりは残された名曲が物語っているので、あとは読者の想像にお任せ。めでたしめでたし……」

 だったはずなのに、続きのエピソードが勝手に浮かんでしまった為、迷った末、書くだけ書いて発表しなければいいんだ、と開き直り、まずは寝込みを決め込みました zzz ……
 妙な話でしょうが、私は新たな物語が思い浮かぶと、全体像が把握できるまで、ひたすら寝続ける習性なのです。ソファで横になる程度ではダメで、本格昼寝、あるいは朝まで起きない覚悟の本気の早寝です zzz …… zzz …… 

 寝ている間は他のことは何も考えず、何もしない。物語の世界だけに意識を集中させます。目を閉じてうつらうつら、己の雑念を入れたりせずに辛抱強く傍観しているうちに、映画を観るように順を追ってストーリーが流れてゆき、お話のつじつまも自然に合ってしまうようです。

 ある程度まで物語が進み、話が丸く収まりかけてきたら、見えた内容をしっかり反芻します。大抵は再びそのまま眠りに落ちてしまうのですが…zzz…。
 それは明け方、目覚めて夢を思い出そうとして、消えていってしまいそうなあやふやな断片を集中してつかみ取ろうとする、そんな状態とも似ています。

 ばかばかしく遠回りなようですが、実はこれが大変な近道で、ひとたび全体像を把握できれば、あとはワープロに向かって見たままを文字化するだけ。オートライティングで手が勝手に筆を進めてくれるのです。これは若かりし頃、夢日記を沢山書いていたのが良い訓練になったと思っています。

 小説の場合は、夢うつつで把握しきれなかった部分、舞台となる年代やキャラクターの年齢など、矛盾のないよう計算したり、必要に応じて時代背景などを調べたり、言葉のリズムや、同じ言い回しの繰り返し、より良い、わかりやすい表現など、改めて見直して整えてゆく地道な作業も、楽しみな創作の過程ですよね。

 余談ですが、私は夢で全くの別人となって冒険を繰り広げることが多く、とりわけ少女時代に人格を形成した名作文学やSFドラマの主人公、ダルタニヤンや、トム・ソーヤに小林少年、往年のカーク艦長や、ストレイカー司令官(←ご存知ないでしょうね)は、常連の主人公です。
 但し外国語に堪能ではないので、異国キャラクターに成りきっていても、吹替え映画のように会話は日本語でなされます(笑)。

 オチあり、どんでん返しありの、興味深い夢だけを書き残した実録夢日記は、大学ノートで10冊以上あり、脚色や演出は一切ナシの、殆ど見たままの殴り書きなのに、自分で読み返しても面白いのです。

 そして今回の物語、「トンデモ展開の真相」は、全体像を大方把握した上で続編の文章化を進めるうちに、再びの明け方の夢うつつ状態で判明しました。

 当初、続編で初登場の──はずだった──少年の名は適当に、我が息子の名「ユーリ」を仮名として物語を進めておりました。息子本人とキャラクターのイメージは決して重ならないのですが、異国の名にも使える便利な響きなので。
 何しろ書き始めは内容を忘れないうちに、やみくもに書いていくので、じっくり名前など考えているゆとりもないのです。

 ですが、その名は別な作品「000はハズレの番号」(未公開の児童向けスパイ長編)の主人公「天ノ川ユーリ」として既に使っていましたし、そのうちに、少年は父方が英国系らしいと判明。
 で、次に英語圏の名前で、前から使いたかった
「ジャック」と命名。
 それから苗字を「ホワイト」としておけば、アントンの苗字、ヴァイス=白と、何か関係が結び付くかもと思ったか、ジャック・ホワイトと、いったんは定まったものの、少々強いイメージかな? と思い直し、訳アリで、やはり以前から気にかけていた「アンソニー」としたのでした。

 物語の展開、どころか核心の部分にすら重大な意味を持つことになるとも知らずに、ただ何となくつけた名前。

 ですが物語の中では、青年アントンも、少年アンソニーも、由来は同じ聖人アントニウスからの名であることくらい、当人らは口にこそ出さずとも薄々気づいていたのではないでしょうか。
 おそらくミステリー好きな読者の方々も。
 知らなかったのは、ドイツ語名と英語名が結び付かなかったマヌケな書き手だけで。
 もしかしたらそれは偶然などではなく、自分の潜在意識が勝手にやった仕業かも知れません。

 ただ、自分が気づかなかったというだけで──。

 いずれにしても、そのことを知った時は、感激と共に心底ぞっとしてしまいました。

 ついでに、アントンが、古き善き往年の時代に憧れていた理由も納得! です。何しろアントンは、元々その時代の生まれだったわけなのですから。

 こうして、アントン・ヴァイスの物語は、「これにておしまい……Ende」ではなく、番外編の「#ないたずらっ子」に Rondo するわけですが、

 この屋根裏を拠点に展開する、秘密組織の暗躍については、いつの日か描けたらと思っています。詳細はまだ見えて来ないのですが。トニー少年の詳しい事情、恐らく母親のアントニアは音楽家でありながらレジスタンスの活動家で、父親のジャック・ホワイトは英国のエージェント。タイムトラベラーである両親の行方知らずの理由なども解明されることでしょう。


 ちなみに、アントンの性である「ヴァイス」=「白」についてですが、

 私の生涯の主要キャラクターで、同じくピアニストのアルヴィン・シュヴァルツの性が、「シュヴァルツ」=「黒」であり、

 今後2人が劇中で関わる展開はないものの、頭文字が同じくAのピアニストとして対のような感覚で、アントンを「白」とした次第です。
 なので今回の物語は、「白がロンド」する運びとなりました。



 さて、アントン・ヴァイスの物語から話はそれますが、
 ひと口に「屋根裏」といえども、建物によって実に多種多様。同じくウィーンが舞台の別な物語(額縁幻想三部作)では、今回のアントンの屋根裏とは、全く異なった形状の屋根裏部屋が描かれています。
 屋根裏も、ロンドですね……∞

 貴族の館の屋根裏部屋に封印されていた、等身大の額縁にまつわるファンタジー。
 こちらは、6月8日のシューマンの誕生日にピアノが奏でられるシーンがあるので、シューマニアーナとしては、その日に合わせて(わざわざ!)公開したく目論んでおります。

 それまでは、ショパンを取り巻く華やかな人間絵巻が延々展開されゆく予定ですので、気長にお付き合い頂けますと嬉しいです。

 いつもお読み下さいましてありがとうございます。これからも preciousな音楽物語を、どうぞよろしくお願い致します。


Precious Planner
森川 由紀子




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