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できたての古墳の姿を見てみたい~群馬県保渡田古墳群にいってみた話

 PCの写真がたまってきたので、整理をしていたら、4年前に訪問した群馬県の保渡田古墳群の写真が目に入った。今回は、そのときのことを書いてみたい。


 いま目にする古墳の多くは、1500年に渡る歳月によって草木に覆われて、丘とか小山と見間違う姿になっているものも少なくないが、できたての古墳の姿はどういうものだったのだろう、見てみたい。そんな気持ちに答えてくれる場所の一つに、群馬県高崎市の保渡田古墳群がある。保渡田古墳群とは、5世紀後半から6世紀初頭にかけて造られた二子山古墳、八幡塚古墳、薬師塚古墳という100m前後の前方後円墳群を指すが、この古墳群は、大阪の古市古墳群と同じ規格が導入されているという。こうした保渡田古墳群のうち、一番ダメージを受けていた八幡塚古墳が、築造時の姿に積極復元されて、古墳築造当時の姿を現代に生きる我々に伝えてくれているというので見に行った。
 
 復元された八幡塚古墳は、葺石と埴輪が印象的で、普段見る小山のような古墳の姿とは、だいぶ違った。↓

古墳築造当時の姿に復元された保渡田古墳群内の八幡塚古墳は、全長96mの前方後円墳
八幡塚古墳の前に並べられた円筒埴輪
八幡塚古墳の前に並べられた人物埴輪も当時の配列が再現されている

当日、雨が降ってきてしまったので、少し薄暗い写真になってしまったが、だいたいの雰囲気は伝わるかと思う。実際に見ると、やはり なかなかの存在感であった。木々に覆われて、ともすれば気づかれることも少ない現在の古墳とは違って、できたての、しかもそれなりに大型のこのような古墳が近くにあれば、ひとびとはその存在を意識したことだろう。そもそも村の人々は古墳の築造に動員された可能性もあるのではないか?

八幡塚古墳の人物埴輪部分。写真真ん中の奥に、巫女や首長、琴を弾く人の姿が見える

ところで、ここの復元された埴輪をみて、埴輪に赤色が塗られていたことを、はじめて知った。この八幡塚古墳のすぐ近くにかみつけの里博物館という建物があり、そこには、この辺りの遺跡で出土した埴輪も展示してあったが、その古い埴輪にも薄っすら赤色が確認することができた。↓

かみつけの里博物館内にある保渡田Ⅶ遺跡から出土した埴輪など。右手前の
後ろを向いた埴輪の服の裾にも赤色が残っている
上の写真を反対側から

展示されている埴輪のうち当時の箇所は一部だけで つぎはぎだらけの姿ではあるけれども、八幡塚古墳に並べられた新しい埴輪にはないオーラがあるようにみえた。ライティングのせいかもしれない。

 この かみつけの里博物館には、埴輪以外にも色々興味深い展示があったが、その一つは、保渡田古墳群の南東1㎞のところにある三ツ寺Ⅰ遺跡という豪族の居館跡の復元模型で、この三ツ寺Ⅰ遺跡は、保渡田古墳群に葬られた首長の居館と考えられるらしい。この三ツ寺Ⅰ遺跡は、現在、埋め戻されているが、こちらの博物館の模型で当時の居館の姿を知ることができる。

 この博物館で、もうひとつ印象的だった展示は、保渡田古墳群の近隣にある下芝谷ツ古墳(こちらも埋め戻されているようだ)出土の金銅製飾履の復元品である。↓

保渡田古墳群の近くにある下芝谷ツ古墳から出土した金銅製飾履の復元品

写真ではわかりにくいが、青いガラスがたくさん付いている。金銅製飾履といえば、藤ノ木古墳のものが有名であるが(最近またニュースになった)、こうした金銅製飾履は、5~6世紀後半に存在し、出土例は国内で20例ほどしかないそうで、破損しやすいので、クツの形状をとどめるのは、この下芝谷ツ古墳と熊本の江田船山古墳と、奈良の藤ノ木古墳のものだけらしい。

参考までに、橿原考古学研究所附属博物館にある藤ノ木古墳出土の金銅製履の復元品

決して大きな博物館ではないが、かみつけの里博物館には、このように面白い展示がたくさんある。もし、保渡田古墳群に行かれるなら、まずはじめにこちらの博物館をご覧になってから、周囲を探索した方が見落としが少なくて済みそうだ。

 この日は、合わせて、少し離れた群馬県立歴史博物館も訪問したが、歴史博物館には群馬の古墳から出土した主要なものが展示してあるし、戦国時代を含めたその他の展示も充実していて、とても面白かった。この群馬県立歴史博物館と保渡田古墳群&かみつけの里博物館には、JR高崎駅を拠点にバスで訪問したが、全部まわっても、東京から電車で日帰りで行くことができた。この日は、それ以上は時間がなくて行くことができなかったけれども、群馬県立歴史博物館の同じ敷地内には、立派な群馬県立近代美術館もあって、美術好きの方なら、この美術館と合わせてまわっても楽しそうだ。
 さきほど、歴史博物館のHPをチェックしてみたら、デジタル埴輪展示室というものが新設されたらしい。面白そう。県立の歴史博物館も近代美術館も目下、閉館中だが、歴史博物館は7月8日から、美術館の方は7月2日から展示が再開するようだ。夏場に訪れる際は、熱中症対策も必須だろう。

(参考資料
①『東国文化副読本~古代ぐんまを探検しよう~』<平成30年度版>、群馬県
②『東国から読み解く古墳時代』若狭徹著、吉川弘文館、2015年)

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