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Jewelry Box エピソード 0

あらすじ

ジュエリーには記憶が刻まれます。
ジュエリー業界一筋の私が、これまで垣間見た数々のエピソードを紹介させていただきます。
第一回は私がまだジュエラーになる前なので便宜上エピソードゼロとして掲載させていただきます。
私の両親の結婚指輪にまつわるエピソードです。
学生結婚だった父と母。
一粒ダイヤモンドの婚約指輪は買えなかったけれど、結婚の証だけはと購入した結婚指輪は、タイピンくらいしか身に着けなかった父には特別な存在でした。
登場する方々には了承を得ておりますが、携わったジュエリーは個人所有のものですので、デザイン画や画像を公開することは致しません。

エピソード 0 ゼロ

私の父と母の話をしようと思います。
父は大学院生、母は通訳の仕事をしていて、いわゆる学生結婚ということになりましょうか。
結婚することはもう決まっておりましたが、ちょっとフライング?
4畳と6畳二間の団地で私は生まれました。
父は大学院を卒業後某私立大学の教職に就き、後には教授にまでなりますが、何しろ学生の身分の結婚ではいわゆる「お給料の三か月分」という一粒ダイヤの婚約指輪は買えませんでした。
子供(私)も授かっておりましたから極力出費は控えたいところです。
しかし神前式で結婚式を行うことになっていたので、結婚指輪は買おう、ということになったそうです。
18金イエローゴールドのシンプルな甲丸リングです。
さてさて、無事に私が生まれて母は専業主婦となり、子育てに大忙しでした。
キャリアウーマンであった頃とは違い、日々大きくなる子供を抱いたり、背負ったり、それまで華奢だった母はしっかりと重量を増したお母さんになりました。
当然結婚指輪もキツくなりますよね?
母は結婚指輪を外し、日々家事に追われておりました。
するとある時母が指輪をしていないことに気付いた父が聞きました。
「指輪どうしたの?失くしたの?」
「小さくて入らないから外したの」
「サイズ直せるんじゃないの?」
「わざわざデパートに行かなくちゃならないし、べつにいいわ」
そして次の日、父も指輪を外しました。
「パパまで指輪外さなくてもいいのに・・・」
「君がしないなら僕もしない」
とすっかりヘソを曲げてしまいました。
その頃は結婚指輪を切ってサイズ直しをするのは、縁が切れる、ということにつながるといわれていたので、母は新しい結婚指輪を買ってもらうことにしました。
同じくイエローゴールドでしたが、勿忘草の模様が刻んであるものです。
機嫌を直した父はそれでは、とまた元通りに指輪をはめました。
それから数十年、父は指輪を外さず、キツくなってもけしてサイズを直そうとはしませんでした。
そんな父が病気になり、手術を受ける際に医師から指輪を外すよう指示されました。
なんだかんだと嫌がり、母の
「私がずっと指につけておくから」
という説得でようやく指輪を外したのです。
指輪を外した父の指は指輪をしていたところだけ痩せていました。
父が結婚指輪にそこまでの思い入れがあったとは・・・。
他にジュエリーといえば身だしなみとしてタイピンくらいしかつけない父でしたが、結ばれた証として大事に思っていたのでしょう。
 
話は変わりますが、結婚すると太るのはどうやら我が家の家系のようでして、お恥ずかしながら私もサイズ5番ほど大きくなりました。
サイズ6号 ⇒ サイズ11号です。
けっこうな増量ですね。
サイズ1号はおおよそ1mm、ですから私は5mm大きい指輪でなくては入らなくなってしまいました。

左6号         右11号


私の結婚指輪は職人さんに手作りしてもらったイエローゴールドの鍛造のリング。
鍛造製法とは地金を叩いて密度と硬度を上げる手法です。
イメージとしては刀鍛冶が鋼を鍛えるのと同じです。
デザインは淵にミル打ちが施してあるフルエタニティタイプです。
切るとかっこ悪いですし、やはり縁起を担いで、新しい結婚指輪を買ってもらいました。
プラチナ900製です。
しかもこれまたダイヤモンドフルエタニティでサイズ直しがききません。

新旧マリッジリング


幸い現在はサイズが元に戻りましたので、2本の結婚指輪を重ね付けしてゴージャスになりました(笑)。


 

※次回からは私のスキル、お客様のエピソードなどを掲載させていただきます。


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