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Jewelry Box Ep.6 お宝拝見☆

ジュエリーには記憶が刻まれます。
ジュエリー業界一筋の私が、これまで垣間見たエピソードを紹介させていただきます。
今回のエピソードはとある資産家の金庫に眠っていたダイヤモンドのお話です。
登場する方々には了承を得ておりますが、携わったジュエリーは個人所有のものですので、デザイン画や画像を公開することは致しません。
 

 Ep.6 お宝拝見☆

昨今開かずの金庫をプロフェッショナルがその技の限りをつくして御開帳、というテレビ番組があちこちで見られますね。
プロフェッショナルが昔ながらの金庫に奮闘する姿もエンターテイメントとして面白く、ガチャリ、と金庫が開く瞬間はドキドキします。
そして中からはいったい何が出てくるのでしょう???
金目の物がでてくれば、
「まぁ、ヨカッタネ」
という感じですが、人間というものは人を羨む生き物ですから、中身が無い、となると、
「あはは・・・。そういうもんよね」
と密かに勝手に溜飲を下げるわけです。
 
話は違いますが、私はずっと金庫にしまいこまれていたお宝を見てもらいたい、という依頼を受けたことがあります。
弊社買い取りはしておりませんので、まずはその資産家のご夫婦のお話をお聞きすることになりました。
お宅に伺いますと、それはもう豪邸です。
もちろん立派な門があり、ぐるりと塀に囲まれているので、外からその外観がわかるわけではありません。
門をくぐり、木立に隠されたアプローチをぬけてようやく豪邸が現れるのです。
今時珍しい庭木の手入れなども造園業者が担っているのでしょう。
整然と美しく保たれておりました。
個人のお宅ですので、描写はこのくらいにしておきます。
そのお宅には大きな重々しい金庫が昔からあるということでした。
お宝発見番組と違うところは、この金庫が現役であったという点ですね。
ご主人がちゃんとご自分で鍵を管理し、暗証番号なども把握されております。
そして今回のご相談というのは、先代からずっと金庫に眠り続けていたお宝に関するものでした。
それは繊細な金細工と宝石で飾られた箱に納められた一粒の大きなダイヤモンド。
ダイヤモンドを収められている箱だけでも、手作りでそうとうの価値のあるものだと一目でわかりました。
そして中に納められていたのは10カラット以上はあると思われる大ぶりのイエローダイヤモンド。
一般的にクッションカットと言われる角を切った四角いダイヤモンドでした。
まずはご夫婦がこのお宝をどうなさりたいのかを伺いました。
「別に手放そうというつもりはないのですが、家宝などになるものかどうかも私どもには判断できなくて」
温厚そうなご主人はそのようにおっしゃいました。
「ダイヤモンドということには間違いはないでしょうか?」
その宝石を拝見して、我々は間違いなくダイヤモンドである、と判断しました。
イエローのカラーも鮮やかで、内包をチェックしましたところ非常に綺麗です。
 
ダイヤモンドには4Cといわれる明らかな評価基準というものがあります。
「カラット(重量)」「カラー」「クラリティ」「カット」の4つのCです。
この段階で明らかになるのはカラットスケールがあることから、「カラット」と「カット」です。
個人の所有のダイヤモンドですので、「カラット」は約15カラット、とだけ記させていただきます。
そして、「カット」は「クッションカット」。
残りは「カラー」と「クラリティ」ですが、これは鑑定機関に委ね、間違いのないグレーディング・レポートを作成するのがよいのではないか、と提案させていただきました。
カラーレスのダイヤモンドの場合、トップカラ-は『D』ですが、カラーダイヤモンドはいかに鮮やかな発色であるのか、その色味の具合などを細かく判断しなくてはなりません。
カラーについて細かく書くとわかりづらくなりますので、簡単に。
一般的な表示方法は、「カラーグレードの接頭辞プラス色相」です。
ご夫婦のダイヤモンドのカラー評価は『ファンシーインテンスイエロー』。
そして「クラリティ」の評価は、最高の『IF(インタナリーフローレス)』でした。
とても美しい濃いイエローのダイヤモンドでクラリティも最高、という結果を得られました。
現在カラーダイヤモンドの価値も上がっておりますが、軽く億を超えるたいしたお宝ですね。
すばらしいダイヤモンドです。
 
そして、このダイヤモンドにはもう一つ興味深い特徴がありました。
それはエクストラ・ファセットの存在です。
このように大きなダイヤモンドが切り出された際、カッティングの段階で目立たないところにもう一面多くカッティングを施すことがあります。
それはこのダイヤモンドの特徴として、整合性があるように切られた面です。
もしこのダイヤモンドが盗難に遭った場合、そのダイヤモンドが間違いなくこの宝石である、と一面多いことによって証明されるということです。
世に名だたるダイヤモンドにも同じような特徴を与えられることがよくあるのです。
もちろん私たちはその面の存在をご夫婦に教えて差し上げました。
そして、このダイヤモンドは家宝として大事にまた元の金庫に納められたということでした。
とてもロマンのあるエピソードだったと私は今でも思い返す時があるのです。


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