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『令和源氏物語 宇治の恋華』 序章 解説

みなさん、こんばんは。
次回、令和源氏物語 宇治の恋華 第八十五話は2月13日に掲載させていただきます。
怒涛の一挙掲載で、新しい展開がはじまるこのタイミングで解説をはさんで行こうと思います。
なにせ創作が多いもので。
ここまでで薫の想い人が亡くなってしまいました。
ちょっとこじらせ気味の大君でしたが、もう少し素直になっていれば違う物語もあったかもしれませんね。
すでに物語は書き終え、全部で242話になります。

さて、源氏物語のオリジナルではここは第四十二帖『匂宮』から始まるところですね。私は物語の主人公は薫と定めておりますので、序章で生い立った薫の苦悩を描くことにポイントを置きました。
源氏物語では実に多くの歌が詠みこまれ、帖名を象徴するような歌も各帖で記されております。
私は薫の心情を表すために一番最初にこの歌を持ってきました。

おぼつかな 誰に問はましいかにして
        始めも果ても知らぬわが身ぞ

(私の身の上というものは如何にして誰が示してくれるのであろう。問うべき人もおらずにいるものを、先のことなど尚も考えられることではあるまいに・・・)

薫という貴公子はいつでもどこか翳のある人物です。
美しく、恵まれた貴族の家に生まれながら、それを素直には喜べない。
それは薫がまことの父が源氏ではないことを知ってしまってから始まった苦悩でした。
そして薫は愛に飢えていると同時に恐れている側面があります。
薫が愛を受けた記憶は源氏からのみでした。
あの情緒の乏しい女三の宮はついぞ薫に愛を注ぐことはありませんでしたので、薫は物心ついた時から何か隠された事情があることを察していたのでしょう。
くわえて生まれた時から香る自身の芳香に戸惑いを覚えたに違いないのです。
人と違うということは尊いことでも厭わしく感じられる場合があります。
実の父が柏木であると知った薫は、不義密通を働いた両親の冷めやらぬ愛執がその身に罪の徴(しるし)となって刻まれたのだと考えるようになるのです。

薫る中将といえば、それに並ぶのは匂う兵部卿宮。
当代一、二といわれる貴公子達は対照的で、太陽のように明るいのが匂宮ならば、しっとりと優しい風情の月のような薫君、と、どちらの貴族でも婿に欲しがる人気の若者です。
私は薫君の気性を好もしく感じるので、つい贔屓してしまいますが、匂宮は真逆、奔放そのものです。
まさに二人を足して割ったような人物がいればいいのですが、それでは物語の面白味がありませんね。

宇治のお話は源氏のお話とテイストがかなり違うと私は思います。
それは写本によって伝えられてきたもので、恐らく紫式部が書いたものではないと考えているからです。
時折オマージュのようなエピソードもあったりするので、どちらかといえば現代のドラマに近い感覚で捉えております。
ですので、帖の表題を一新して書き下ろすことにしました。

そして序章の創作部分を解説しなくてはいけませんね。
薫の特異な芳香を気遣い、夕霧が薫に匂い袋を持たせる場面はまさに創作。
貫録がつき国の柱石となった夕霧の弟を思う気持ちを表現したかったのです。
夕霧が薫を見つめる目にはただのかわいい弟というだけではなく、懐かしい親友の面影を懐かしむ心もあると思うのです。
源氏なき後に夕霧が一門をしっかりとまとめている姿はさすが源氏の息子といったところでしょう。
華々しく栄える一族となりました。

明日は第一章「光なきあと」について解説させていただきます。

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