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令和源氏物語 宇治の恋華 第三章/橋姫(後編) 解説

みなさん、こんばんは。
次回、『令和源氏物語 宇治の恋華』第九十一話 迷想(一)は2月26日に掲載させていただきます。
本日は第三章/橋姫(後編)について解説させていただきます。

宇治にて八の宮さまとお会いした薫は、その穏やかで優しい人柄に癒され、心から敬愛する師に出会えたと生きる張り合いと喜びを得ました。
教養高く、御仏の御言葉をわかりやすく、俗世にある人も仏門に下った者も人であることには変わりはない。在世であっても御仏の弟子と勤めれば、それは僧侶たちと同じである、と薫は学んだのです。
薫は努力家でありましたが、何より人の機微に聡く、言葉も多くはありません。中には表情のない冷たい方だという人もありましたが、八の宮は薫に触れることで、誰よりも人を想い遣る優しい気性に気付かれました。
そして師と弟子として語らい、時には楽を共にし、三年の月日を過ごしたのです。

さて、実に三年もの長い間、薫は姫君たちの存在をまったく気にも留めていませんでした。そこがまた薫らしいところで、匂宮に姫君たちの様子を聞かれて、はたと妙齢の姫君がいらしたことを思い出すのです。
匂宮は女人への関心が並々ではありませんので、すぐにそこに思い至ったわけですが、薫は何の気もなく、
「一向に気配を感じたことはないが、八の宮さまのご様子からすると尼君のような姫達なのではないか・・・」
と、色気も味気も無いいらえをするのです。
そんな薫を唆すように、匂宮はそんな深山に麗しい美女たちが隠れ住んでいたならば夢のような話ではないか、と男のロマンを語るのでした。
まさか薫はそのような会話は覚えておりませんでしたが、八の宮さまにお会いしたい一心で馬を駆り、宇治を訪れたその時に、姫君たちを垣間見てしまいます。
八の宮が山の阿闍梨の元へお勤めに出て留守にしていることも知らず、逸る気持ちを抑えながら、山に分け入ったその時に、遠くから楽の音が聞こえてきました。
その音色は琵琶と筝の琴の合奏で、八の宮さまの手ではありません。
すぐに姫君たちかと気付いた薫ですが、自分の訪れを知られれば合奏を止めてしまわれるかもしれません。
機転を利かせた宇治の邸の下男に密かに庭先を覗ける場所に案内された薫は、雲の切れ間に端近にある二人の美しい姫君たちを見てしまったのです。
このような霧深い山間に、まさかこのような美女たちが隠れ住んでいたとは・・・。
屈託なく笑いあう仲の良い様子も好もしく、爪弾いた指先からこぼれる音は妙なる調べ。
山神の姫たちの饗宴を垣間見たように薫は心を奪われてしまいました。
匂宮が言うような夢のような出来事というものは、本当にあるものなのだなぁ、と薫は感嘆しましたが、すでにその姫君たちに魅せられていることには気付かないのです。
ただ胸の奥に生じた小さなさざ波が、大きな渦となって自身を飲み込むようなことになるとは、この時はまだ知らずにいるのです。

 明日は、第四章/昔がたり について解説しようと思います。


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