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『令和源氏物語 宇治の恋華』 第二章/花合わせ 解説(後編)

みなさん、こんばんは。
次回、『令和源氏物語 宇治の恋華』第八十五話 うしなった愛(十八)は明日2月13日に掲載させていただきます。

本日も第二章/花あわせ について解説させていただきます。
今回は玉鬘君サイドのお話ですね。

お隣の按察使大納言のお邸では大君が東宮さまの寵愛も厚く、益々権勢を強める勢いです。
それに比べて玉鬘君は頼りの夫を亡くしてからはどうもパッとしません。
美しい二人の姫に恵まれたのは幸運でしたが、しっかりした後ろ盾無くしては、どちらかに嫁ぐか、婿取りをするのかも儘ならないのです。
大君が裳着を済ませると、髭黒殿が生前入内を望み、今上帝にその旨を漏らしていたことから、お主上からはいつ入内するのかと矢のような催促です。
しかし明石の中宮を前にしては小娘など相手にもされないでしょう。
そう考えるとしっかりとした貴族の北の方に納まるのがよいとも思われて、姫の身の振りに頭を悩ませている訳です。
それもよいかと目ぼしい貴公子といえば、やはり薫る中将。。。
ここで真の血縁を考えましょう。
薫は柏木の子ですから、玉鬘は伯母になります。
そうなりますと、大君と薫は従兄妹ということになりますので、セーフ❗
世に知られておらず、思わぬ近親婚というのは気の毒ですので、あえて検証しました。
しかし昔は近親婚がタブーであるという観念が薄く、古事記にも見られるように、母腹が違えば兄妹での結婚も認められていたのです。
文明によってはむしろ血が近い同腹の兄妹こそ血統が守られ神聖であると考えられた場合もありますので、そこは文化によりましょう。
ともあれ、玉鬘の脳裏には薫る中将も候補に上っていたようですが、結局は冷泉院への入内を決めます。
冷泉院には中宮にはなはれませんでしたが、弘徽殿女御という親しんだ御方がおられます。
玉鬘の腹違いの姉ですね。
遠慮して冷泉院の申し出を断ろうとした時に、弘徽殿女御から入内を応援する手紙をいただいたので、大君を冷泉院に入内することに決めたのです。
女人の表向きの顔と、実際に若い姫が寵愛を受けた状況では、色々としがらみが生じることを玉鬘は失念していたようです。
後になり薫に冷泉院とのとりなしを頼むくらいならば、最初から薫に相談をするべきであったでしょう。
自分ならば男性の力を借りずともと意地を張って、この人の場合、賢しく立ち回ったつもりで裏目に出てしまったというパターンですね。
しまいには今上の機嫌も損ね、頼りの息子たちも冷遇される憂き目にあうという、何とも後味悪く、決まりの悪い結末を迎えたのでした。

この章では、大君を恋い慕った蔵人の少将が登場します。
夕霧の息子ですが、まだまだ官位が低いことから玉鬘君にはまったく相手にされませんでした。
「うちの姫の器量ならば、入内すれば寵愛間違いなし」
という親の贔屓目が、現実を見る目を曇らせたのでしょうか。
もしも政治というものを知る立場である殿方に助言を仰げば、とつとつと現況を諭したことでしょう。
玉鬘は薫を年若いと侮っていたために助言を求めなかったのです。
しかし現役で宮廷に仕える薫をないがしろにしたのが間違いであるということは、ついぞ玉鬘も気づかず終わるのでした。
そこで考えてしまいます。
もしも大君の身の振り方を玉鬘が薫に相談していたならばどうなっていたでしょう?
薫は大君を気にしていたものの、友人の蔵人の少将の恋を後押ししたのではないでしょうか。
少将が真剣に思い詰めて、やつれるさまを目の当たりにしていたのですから。
表向きには薫の甥にあたるわけですし、父の夕霧も母の雲居雁も尽力していたので、良い未来が望めたかもしれません。

私が大胆に書き直すとしたならば、蔵人の少将の恋を実らせたことでしょう。
それは桜舞い散る端近で、大君を垣間見て恋した蔵人の少将。
その姿はかつての柏木の君に重なります。
薫が少将の恋を後押しすることで、幸せな結末が、ひいてはかつての両親の恋が実ったのだと考えたいのです。
いつかそのような話も書いてみたいものですね。

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