ヨレヨレの心と鋼の脚
「何か届いてるよ!」
「なんだろうね?何で私達が今日、勝ったこと知ってるんだろ?ついさっきなのに、、」
「明日、勝てってことじゃない?」
「誰からかなぁ?」
「ファン?」
「そんなわけないでしょ」
高体連の2日目、団体戦を何とか勝ち進むことができ、合宿所に戻ってきた私達に、サプライズの品が届いていた。
しかし、何のサプライズなのか不明だった。
まだ、予選を2ブロックしか進んでいなくて、本番はまだというか、
私達、北高校の決戦は明日なのだ。準決勝と決勝は明日。肝心なのは明日なのだ。
不審に思いながら、女子部員たちは部屋に届いている花束とケーキに近寄った。
「北高校、テニス部、男子部員一同より。」と花束に添えてあった。
「何なに?なんでなんで!?」と、女子たちは嬉しそうに大声で騒いだ。
そして次の瞬間、みんなは、顔を見合わせて、
後ろの方で、1人で座布団に座って、のんびりテーブルに頬づえをついて、、、休憩している私の方を、クルッと見た。
みんなでこちらに近寄ってきて、、、
「忘れてた!ほんとごめん!」と、口々に言うと、
私の手を引いて、背中を押して、
私の体は自動的に、サプライズの品のところまで運ばれていった。
「読んでごらん♪」と言われ、見ると、
ケーキには「のぞみ先輩、お誕生日おめでとうございます!」と、書いてあった。
私の事だった。
「そうだ!私、誕生日だった!」と、私が言うと、
みんな大笑いして、そこに、
クラッカーの音と一緒に、男子部員と、顧問の先生が部屋に入ってきた。
サプライズの品は、みんなでお金を出し合って、買ってくれたらしい。
まるで、芸能人の楽屋に届く、あのようにキレイにアレンジしてある花束でした。
高かっただろうに、、、。
生まれて初めてのサプライズ。
試合の事で頭がいっぱいで、私も、いつでもマメな私の仲間たちも、誕生日の事など、すっかり忘れていた。
サプライズという言葉すら、実際は、まだ浸透してなかった時代だったから、ただもう、私は驚いて、、、
(なぜ私などのためにそんなありがたいことを、、、?)と、考えてしまった。
男子部員は、同学年はいなかったので、みんな後輩だった。
(後輩に、いつも優しくしといてよかった、、、。)と、日頃の行いの良さをしみじみ感じた。
「のぞみ先輩、明日頑張ってね!」と、後輩に背中をバシバシたたかれて、嬉しかった。
ありがたいバシバシ。
「チョコレートは集中力アップするから、これ食って、お前ら明日絶対勝てよ!」
と、顧問の先生はいつもの調子で言いました。
私は、
(前に先生が、私達にカレーをおごってくれなかった件は、これで帳消しにしてやろう♪)
と、思いながら、美味しいチョコレートケーキをほおばった。
みんなが、優しくて、嬉しかったので、頑張って今は泣かないように。
泣くのは明日、勝ってから。
最後の高体連。
毎年優勝している。
伝統。
勝たないと、先輩たちに申し訳ない。
明日全てが決まるんだ。
その日は、心の中で、自分にプレッシャーをかけつづけていた。
不安でいっぱいの自分を、追い込んで、弱い心に、なんとか炎を灯したかったのだ。
私は、試合が苦手だった。
彼らが、試合が苦手な私を励ますために、サプライズをしてくれたことは間違いなかった。
いつも、私の事を心配して、後輩なのにアドバイスを沢山くれた。
顧問の先生も、どうにかして私を目覚めさせようと、試合に負ける度に、私を崖から突き落とすような言葉をくれた。
みんなのおかげで、その頃、遅いけど少しだけ試合に慣れてきたところだったのだ。
ようやく、少しだけ。
基本私は、試合の前はお腹を壊して、トイレから出てこられなくなる。
「そろそろ試合だよ」と言われて、ようやくトイレから出て来て、
クラクラしながら試合がはじまり、
私は、緊張し過ぎて、本当の初心者より下手なんじゃないかと思えるほどの、ヒドすぎて見てられないプレイを始めるのだ。
ポイントをとれるのは、サービスエースのみ。
あとは動けません。
練習中、のびのびとテニスをしている私は、
試合になったとたん、何もできなくなっていた。
練習中は、男子部員に負けないストロークで、練習のゲームで男子に勝つときもあった。(後輩だけど)
だから、励ましてくれたのだ。
背中をバシバシしてくれたのだ。
しかも、すぐ車に酔う。
そんなヨレヨレの私だけど、
もう、明日が最後の1日だった。
もし、明日負けたら、全て終わりで、、、。
勝ったら、次にすすめる。
2つ勝てばいいんだ。
1つ勝ったら、予選を突破できる。
もうひとつ買ったら、優勝。
あと2つ、、、
今さらだけど、そんな私がなぜレギュラーなのかというと、部員が少なかったからです。
ギリギリの人数だったので、仕方ないのです。
いつも、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
ヨレヨレの私はこの後、ヨレヨレでも、どうしても勝たなければならない状況に追い込まれます。
翌日、
団体戦の準決勝、
私はダブルスの試合に負けてしまった。
でも、他の2人がそれぞれシングルスで勝ってくれて、何とか勝ち上がることができた。
そして、決勝が始まった。
テニスの団体戦は、
①ダブルス
②シングルス
③シングルス
という順番で試合をして、3試合中、2つ勝った方が勝ち上がれる。という感じだったと思う。
私は決勝では、②のシングルスだった。
ダブルスは、最強のコンビだった。勝つのはわかりきった事だった。
必ず勝ってくれる。
と思っていたら、二人は負けてしまった。
予想外の展開だった。
まさか、仲間の運命が私の肩にかかるなんて、思ってなかった。
「のぞみごめんね。お願い」「ごめんね、頑張って」
二人が泣きながら深刻な顔で私に言った。
部長が、
「のぞみなら絶対できる!絶対大丈夫だからね」
と、送り出してくれた。
もう、逃げ道はなかった。さっきのダブルスの試合だって、どこか、、、自分たち負けても、なんとかなるような気がしていた。
たった今、目の前で繰り広げられている、こんなシチュエーションは、
万が一にしか、想像していなかった。
テニスの個人戦なんてまさにそう。個人の試合なので、
私が勝てなくても、困る人なんていなかった。
初めて責任を感じた。いつも、責任は他の、責任に向いている人たちに任せていた。
こんな大役は向いていないから、
ずっと避けてきた役割だった。
試合が始まり、
とても静かな中、プレイが始まった。
まだ運動公園が整備されていなかったあの頃、
高体連で使われていたテニスコートは、住宅街の中にあって、観客は、コートの外側のフェンスの網にへばりつくようにして見ていた。
選手と同じ高さに、観客が沢山いるのだ。
注目の一戦だから、
会場の視線が集まる。
敵選手の後ろに、さらに敵校の選手のかたまりたちが見えた。
怖い景色だった。
私の方を仲間は、後ろから、
「ガンバ!」「落ち着いて!」と、声援をくれる。
試合がはじまり、私は、とにかくボールをつないだ。
できることはそれしかなかった。
どんなボールでも取った。落としたら、もう後がなかったから。
自分の頭が真っ白になってしまうのはわかっていた。
でも、足には自信があったから、とにかく走って、向こうのコートにボールを返した。
相手が決めたボールも、必ず追いついて返す。
それをずっと続けた。
テニスの試合は長い。
2時間も続けていたら、
目の前の自分の試合がスローモーションに見えてきて、
五分五分だったゲームが、優勢に進みはじめたので、
私は自分のいる左側のエンドラインから、右側の奥の空いているスペースに、強めのバックショットを決めることができた。思いっきりは打たずに、大切に打った。
試合の相手は、足が遅くなってきていた。
それから少し、試合はつづき、突然相手の足が肉離れになってしまい、試合は勝った。
お互い、ボールをつないで、つないで、走り回っていたから、相手の選手は足が限界になったようだ。
泣きながら、抱えられてコートを出ていく姿が見えた。
相手の辛い気持ちもわかるから、私もつられて涙が出た。
私は、顧問の鬼のような特訓に感謝した。おかげで、私の足はまだまだ動ける状態だった。
鋼のように筋肉質な足の、脚力でボールをつなぐことができてよかった
試合を終えた私を、みんながほめてくれた。
私も、みんなも、私が公式戦で勝つ姿を初めて見たので、
色んな理由で感動していた。まるで親が子供をやさしく褒めるような感じだった。
花束と、ケーキの効力も、絶対にあると思った。
そして、もう1戦残っているから、みんなでもう一度気合いを入れて、部長を応援した。
決勝戦は、小柄な私達の部長と、小柄な敵校の部長の激しく長い戦いになり、
気付けばもう夕暮れになっていた。
小柄な女子たちの戦いを、会場も静まり返って見守っていた。
気迫が、会場全体に伝わっていた。
3時間半もの間戦い、
デュースが果てしなく続いた末、とうとう私達の部長が勝った。
みんなで駆け寄って、みんなで泣いた。
さっきまで鬼のような気迫だった部長が、まるで子供のように泣きじゃくっていた。
あんなにすごいと思ったことは、他にない。
私達の部長はすごいと思った。
私も、初めて勝利して、少しだけ、ほんの少しだけ、成長したなと思いました。
他の会場で試合をしていた、私にサプライズをしてくれた男子部員たちも駆けつけてきて、
私の背中をバシバシたたいて、勝利を喜んでくれました。
みんな元気にしてるかな?
高校生のあの頃に、貴重な体験をすることができてよかったです。大切な仲間と、思い出と、一生の宝物になっています。
社会人になってからは、毎日が本番で、試合ですから、ヨレヨレしてはいられません。
私はどこの職場でも、同僚や上司から「のぞみは鉄の心臓持ってるからね」と、言ってもらっていましたよ♪ヨレヨレの私は、すっかり鋼の私になりました。ちょっとのことではビクともしません♪
心地よい緊張感。
今でも、仲間たちが、地球のどこかで頑張っていると思うと、私は、たいていの事なら乗り越えられるのです。頑張れるのです。
どんな時でも「のぞみ!ガンバ!」って絶対みんな言ってくれてるはずだから。
おしまい。
学校名と、私の名前は、仮名です♪
#部活の思い出 ←この企画を考えてくださって、ありがとうございます。noteを始めたばかりなので、何か企画に参加してみようかなと、思っていたところでした。
企画に初参加です♪
書きながら、あの頃の、大切な気持ちを思い出すことができました。忙しさの中、思い出は出来事。として思い出す事しかできなくなっていました。
文章にすると、書いている間、その当時に戻ったような感覚になり、涙が出ました。
私、頑張ってたなぁ、、と思いましたから、
これからも、もう少し頑張れそうです♪
思い出っていいですね♪
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