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誰もいない世界だった。 戦火の痕だけがあった。進みすぎた文明のなれの果てだった。 そこに興味を示すものはなく、広大な宇宙で塵芥と同じに捨て置かれた。 人々の記憶、歴史の遺物。ほんのわずかに残った動植物。それらは探せば見つかるもののはずだった。 けれどもそこに触れるものはなく、それらは存在しないと同じだった。 故に、誰もいない、何もない世界だった。 物語は生まれず、残っても朽ちても、何ら意味を成さない世界。 あるいは遠い過去、地球と呼ばれていた場所なのかもしれな
便秘になってしまった。 有り体に言って、屈辱である。まさかこのオレが、こんな無様な症状に悩まされる事になるとは思いもよらなかった。 ひいき目に見て眉目秀麗文武両道、幼い頃より多くの名声をほしいままにし、一流の会社で一直線にエリートコースをひた走ってきたこのオレが、二十代の半ばにして――便秘! 社内で神か仏のように崇め奉られているこのオレがまさか便秘だなどと知られては、大幅なイメージダウンは避けられない。オレの持つ完全性はまさに天上から地の底まで落ちるといっても過言で
注文していた商品が届いたというので、男は近くのドラッグストアにそれを受け取りに出かけた。 「こちらが、ご注文の毛生え薬でございます」 男が店員から受け取ったのは、新発売の毛生え薬だった。飲むタイプのものだ。 「いやあ、ありがたい。なにしろ臆病が過ぎるもんで、心臓に毛の一本も生やしたいと思っていたんだよ……」
金曜日。帰りのホームルームが終わり放課のチャイムが響くと、教室の生徒たちは思い思いに行動を始めました。ようやっと平日が過ぎ去り、待ちに待った週末です。 休日を一秒でも長く過ごそうと家路を急ぐ人もいれば、のんびりと友人とのおしゃべりに興じる人もいます。蓮美ちゃんもおもむろに席を立ちますが、どこか元気がありません。 「ハスミ、暗いカオしてどうしたの?」 「ちょっとね。パパとママがケンカしてて。家に帰るの気が重いなって」 友人が心配げに近づいてきました。蓮美ちゃんはわざと大き
とある会社のオフィスで、二人の男性が仕事をこなしていた。二人はそれぞれデスクに座り、ノートパソコンの画面を見つめてはキーボードを叩く、という作業を繰り返していた。ひとりは中年のベテラン社員で、もう一人は入社したばかりの若い新人だった。彼らの所属している部署に、他に人はいない。 「今日もいい記事が見つかるといいですね、先輩」 「ああ。いくつも読むのは大変だが、これも世の多くの読者のためだ。新人くんも頑張ってくれたまえ」 彼らの仕事はシンプルだ。ブログやSNS、いわゆる掲示板
狭い部屋だった。 キッチンに風呂とトイレ、あとは、その部屋ひとつ。最小限の家具だけが置かれるに留まり、目に入るものは数えるほどもない。良く言えば清潔感のある、悪く言えば殺風景なこの空間で、一組の夫婦が暮らしていた。 朝がやってくると、二人は早くから起き、夫は仕事の支度をして、妻は食事の準備をした。早朝の忙しい時間は瞬く間に過ぎて、夫が朝食もそこそこに玄関の扉に手を掛けると、妻はいつも後ろから見送りの声をかけた。ただ、夫はほとんどそれに応えなかった。夫は無口で、口下手な人