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ググれどもググれども。

昨年3月に3回目のワクチン接種を受けてから左の上腕にずっと違和感を覚えていた。3回ともバッチリモデルナアームで、症状が引いた後はぼんやりした筋肉痛があって、生活に支障はないから、そのままにしていた。今年に入って5月くらいからか、なんだか違和感が強くなった。

「ワクチン接種 腕の痛み ずっと」
みたいな感じでググる。
年齢的に「五十肩」の結果もいくつか見受けられるけど、バンザイはスムーズにできる、肩がどうの、ではない!と鼻息を荒くする。
検索結果のページを進めていく=掘っていくと、「筋肉注射なだけに、筋肉繊維や神経を傷めるケースもいくつか認められている」というわたしにとって都合のいい検索結果を見つける。

ああ、これかもしれない!きっとこれだ!ワクチンのせいだ!

近所によさそうな整形外科がないか、ググる。
電話をしてみる。評判がよいようで予約を取ろうとするとだいぶ先になってしまうらしい。待つことができるなら、朝から受付をして当日待機・受診もできると案内され、土曜の朝イチから行ってみた。
1時間半ほど待ち、受診できた。症状を話す。
先生はわたしの話を遮ることなく最後まで聞いてくれる。否定もしない。安心できる人だと思った。
念のためレントゲンを撮り、その結果を踏まえて診断してくれた。
先生は慎重に言葉を選んでおっしゃった。
「ワクチンは筋肉注射なので、きっかけはワクチンの可能性がある。今の症状を見る限りは、ワクチンの後遺症などではなくて、いわゆる五十肩だと思われます。引き金は注射だったのかもしれません」
日常生活に支障はないので、できるだけ肩を動かすことを勧められる。痛みがひどいとき用に湿布を処方される。
以上、だった。

せっかく処方されたので湿布を貼ってみる。湿布を貼ったことで、なんとなく気持ち的に腕をかばうようになってしまったのか、痛みが強くなってきたように感じ始めた。
友人が腰を傷めた際に受けた鍼灸がとてもよかった、という話を思い出して、思い切って受診してみることにした。

脈を取られながら見立てていただく。
ワクチン接種の後遺症の可能性も視野に入れていただきつつ、生まれて初めての鍼とお灸。
腕の痛みは今までと質が変わって深くなった気がする。そして腕だけだったのが肩にまで広がってきたような気がする。遠くのものを取ろうと腕を伸ばすと、激痛が走るようになった。
予約していた1週間後の再診で、先生に新たな症状を話す。

「年齢的に身体が変化する時期なんです。その症状のひとつとして四十肩・五十肩という出方もあるんです」

「病気ではなくて、身体の変化なんでね、必ずよくなりますから安心してください」

ちょっと泣きそうになった。

病気ではない。変化なのか。

更年期の症状なのか、長年の喫煙を卒業したからなのか、コロナ禍で強制的にこれまでの生活が変わったからなのか、ワクチンの副作用なのか。
何が原因なのか、さっぱりわからない。
原因不明の沼にハマってひとりパニック。
激しい痛みや日常生活への不具合までは感じないものの、あちこち出てくる、今まで感じたことのない身体の変化や症状の数々。
病気なのか、一時的なものなのかも見当がつかない。
時間ができた分、忙しくて気づかない、ということがなくて、気になってしまう。
ググる。
わからないことをハッキリさせたい。
でも自分にとって不都合な結果であってはほしくない。
ググる。
ググれども、ググれども、答えがわからない。
おそらくは、お年頃、更年期、がメインの答えなのだろう。
ただ、その「更年期症状」も、個人差があり、病気なのか、経過症状なのか、わからないことだらけ。
初潮の前にはちゃんと教育があったのに、なんだよ、終わるときのことは誰も教えてくれないのかよ。医者に行けってことなのかよ。

人間ドックの結果で、数値がよくない項目が増えた。
「生活習慣の見直しもちょっとした方がいいかもしれないですね。でも、女性の場合は、ホルモンバランスの関係で、このあたりの数値に出るケースもあるので、なんとも言えないのですが。」
ストイックではないけど、多少はいろいろ気を付けて生活しているつもり。
「生活習慣の見直しをしろ」って、日常生活が怠惰だというのか?なんだか、ダメ人間の烙印を押された気分。
視力が格段に落ちたり、老眼が進んだりで、「見る」ことがままならないストレスを感じている上に、さらに「失格」を言い渡された気分。

そして、ググらなくても勝手にスマホ画面やメルマガには「リスキリング」の文字がわたしを脅迫してくる。

まだ足りませんかね?
いままで51年、結構頑張ってきましたけど、もっと、なのですか?死ぬまでずっと、頑張り続けなくちゃいけないのですか?
身体は経年に伴って、どちらかといえば下り坂なのに、まだGET し続けろとおっしゃるのですか?

気づいたらオフィス内は30代のメンバーばかり。
相変わらず慢性人員不足だけど、案件の振られ方で、彼らのような体力や集中力を求められると、瞬発力が続かなくなってきた。

しんどいなあ。

「病気じゃないですから。変化ですから。そして、これは、ちゃんとよくなりますから安心してください。」

鍼灸の先生の穏やかな声が染みた。

わからないことに対する不安。
原因を勝手に、自分自身の怠慢であると、得体のしれない「誰か」に責められている気になってしまって、しんどかった。

誰かに直接言われた訳ではないのにね。
自分で相当、追い込んでいた。

ググれども、ググれども。わからないことがある。
とどのつまり、やさしくされたい。


ちょっとおいしいおやつが食べたい。楽しい一杯が飲みたい。心が動く景色を見たい。誰かのお話を聞きたい。いつかあなたのお話も聞かせてください。