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分かりにくい文の代表選手「お役所文章」を勝手に添削してみた

昨日、ある本を読んでいて(正確にはAmazonオーディブルなので耳読)とても長くて分かりにくい文章が出てきた。著者の書いた文章ではなく、引用文ね。DXの定義です。

“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”

経済産業省DX推進ガイドライン2018

ちなみに、この文章が出てきた本はこちら。むしろ、著者の文章はとっても分かりやすいです!

なぜ、経産省の文章は、分かりにくいのか。それは1文が長いから。おそらく、長い文を書くことが尊かった時代の人が書いていると思われる。もしくは読み手のことを全く考えていない人。
分かりやすさを備えたまま、長い1文を書くには、ものすごい技術が必要だ。素人にはほぼ無理。だからこそ、1文を短く!短く!と数多の本で書かれているのです。

お役所文章を添削してみる

先ほどの経産省「DXの定義」。まあ、定義だから1文に収めようとしたんだろうとは思います。でも、他の文章でもこうした無理矢理1文にする現象は、特にお役所の文章で多いですね。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

添削する場合の手順で考えてみます。この添削手順そのものに価値があると生徒から言われたので、サッと書き換えず、手順を解説してみます。

1 述語にあたる動詞や形容動詞を探す

5つもありますね。1つの文に動詞5つなんて、多すぎです。
対応する、活用する、変革する①、変革する②、確立する
つまり、ここで切れてもいいってことです。

2 文を分ける

先ほどの5つの述語部分で文を分けます
①(企業が)ビジネス環境の激しい変化に対応する。
②(企業が)データとデジタル技術を活用する。
③(企業が)顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する。
④(企業が)業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する。
⑤(企業が)競争上の優位性を確立する。

3 メインの文を探す

このように様々な文が組み合わさった文には、必ずメインの文があります。つまりなんなの?って文です。この場合は、構造上⑤です。最後に出てくるので。でもここでおかしなことに気が付きます。DX化って「競争上の優位性を確立すること」でしたっけ?私は専門家ではないので、詳しいことは分からないのですが、私なら④を選びますね。⑤はその結果ですよね?
なので、⑤を削除して(笑)④を仮メインにします。

4 発言者の立ち位置を考え、それでいいか、問う。

私の授業では、もう少し突っ込んだ添削指導もします。「あなたの立場の発言で④でいいのか?」ってことです。経済産業省なので、企業内のことではなく、もっと外に向けた定義が良いと思われます。そして主語は「企業」でいいのかどうかも、大きな課題です。データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変えていくなんて、私みたいな個人事業主もやってます。
そこで、書き手と話し合い「企業が」という主語を消し、もう少し視座の高い「社会に向け新しい価値を生み出す」などの述語をあてがいます。

①ビジネス環境の激しい変化に対応する。
②データとデジタル技術を活用する。
③顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する。
④業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する。
⑤社会に向け新しい価値を生み出す。

こんな感じ。

5 各文の使用目的を考え、関係性の深い文をセットにする

①と②はセットにし、全体の目的とします。特にDXとITとの違いが分かるよう、ITという言葉を入れるといいかも。
③と④は並列関係なので、セットでいいかと思います。似たような言葉を統合します。ここで、言葉上で統合しますが、もしも経産省で担当部署が違うなら再検討の必要があります。
④の一部は、③と④の結果現れるものなので、⑤とセットにします。

①ビジネス環境の激しい変化に対応するために、ITにより、データとデジタル技術を活用する。
②顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、業務やプロセス、ビジネスモデルを変革する。
③その成果で、企業文化・風土を変え、社会に向け新しい価値を生み出す。

こんな感じですね。①と③だけでも「DX」の意味は通じます。②は具体的にはどういうこと?の答えですね。組み立て直します。

6 組み立て直す

DXとは、ビジネス環境の激しい変化に対応するために、データとデジタル技術を活用し、企業文化・風土を変え、社会に向け新しい価値を生み出すことである。
そのためには、ITで得た顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、業務やプロセス、ビジネスモデルを変革し、その成果を社会に還元する必要がある。

こんな感じかな。私は経済の専門家ではなく、あくまでも言葉を組み替えただけなので、内容的には間違っているかも。でも、こういう言葉をいじる添削って、意外と、当人が気が付かなかった点が浮き彫りになることもあるんですよね。

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