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孤独な身体を脱出する

本は孤独を癒してくれるというが、ひさしぶりに本を読むようになって、その意味がすこし違ってとらえられるようになった。

いま特につよくひかれるのは作家自身の人生について。いままではまず、先入観なく作品そのものを味わってみることを大切にしていたけれど、最近の読書の目的は作品そのものに加えて、どうしてこの作品ができたかを知ることにあるので、もう存分に作家について調べてから読書に臨む。

もうこの世にはいないひとがつむいだ言葉や人生に触れると、どんな名作もつるりと生まれたものではないということがよくわかる。
もう書けないかもしれないという不安や、感受性の豊かさゆえの社会で生きるむずかしさと戦い、誰かを愛し、あこがれ、背中を押されたりしながら、ときにはそんな精神を削るようなことをやめろと言うひとによって帰郷させられたり、批判にさらされたり、する。
おのれの火に薪をくべながら、つよい風や雨に耐え、燃やし続けていくことがいかに困難か、想像するたびに尊敬の念があふれる。

わたしたちは、ひとりだ。

どんなに笑いあって、抱きあって、愛しあって、約束を交わしても、ひとりになる瞬間はかならず訪れる。心臓に差し込むような孤独感は消えることがないし、それはどうあらがっても自分の影のように消えることがない。

けれど、わたしたちは、本を読むことでそのあいだ自分の肉体から離れることができる。わたしと他者を隔てる孤独な身体を脱出し、同じ孤独を抱く誰かと、時空を超えて本の中で交わることができる。手をとりあって森へ行くこともできるし、海に沈むことも宇宙へ行くこともできる。

死んでしまったあのひと、恋しくて仕方のないあのひと、会ったことのないあのひとを思い出すだけで会える。そこで得られる、気の遠くなるような歓喜の瞬間は何物にも変えがたい。時間や距離もなく、生き死にからも解放されて、無限に広がる闇の中で、わたしたちはたったひとつの光になる。

いつもお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、これからの作品作りに使いたいと思います。