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白昼夢のテイク・オフ

本は導かれて誰かの手に届く。本は文字のなかに、本という形のなかに音楽をたたえ、絵本は言葉と絵が連なり音を奏でている。そこに収められた音の気配とわたしたちは、時と場所を超えてひかれあい、どこかで「不意に」出会う。

絵本のページを開けたときに聴こえる音に心をふるわせ、子どもははじけて魂そのものになる。そして木々のざわめきとともに手を取り笑いながら、こっちにおいでよと、口々に大人たちをいざなう。そしてわたしたち大人も、水の中へ体を投げ入れて、次々に子どもへとかえっていく。頭の上の方で鳥が高く鳴き、曼珠沙華の赤が遠くに揺れている。いまどこにいるのかわからないし、わからなくていいのだ。あるいは、本当はそうだった、と思い出せるかもしれない。

見えるものにわたしたちはときどきとらわれてしまう。形あるものにこだわるのは、わたしたちが生きていることを知っているからだ。だから、(命あるうちに、)できるだけ、と思いながら、精一杯生きている。

わたしたちはときどきそうして音楽と出会う。もうひとつのいのちに目覚めては、今にかえっていく。それはかわりばんこに空に浮かんでは沈む、太陽と月の関係に似ている。

すっからかんに乾いた土地に、羽毛がふわりと落ちてくる。一面真白に埋められて、乾いた土地はおしだまる。沈黙は地面の奥へ奥へと導き、地球の中心へ到達し、そこで悲しみと喜びと出会う。

ふっくらとした羽毛の下に隠れて、ありし日の太陽を胸いっぱいに吸い込む。いずれ来る雪解けの日を待つともなく待ちながら、乾いた土地は春の花を咲かせる準備をする。音楽はつねにそこここで、ひっそりと奏でられている。

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