プロダクトマネージャーはWhy, Whatの責任を持つが、Howはどうだろう
プロダクトマネージャーの仕事を端的に表す表現として、
プロダクトマネージャーは
Why(なぜ作るのか), What(なにを作るのか)に責任を持つ
という表現を1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
一方で、この表現に尾ひれがつく形で、
Howについてはプロダクトマネージャーは関係しない
Howはエンジニアに責任がある
Howは設計/実装であり、仕様はプロダクトマネージャーが定めるべき
など、主観的ではありつつも、こういったニュアンスの表現を見かけることが多く、個人的に度々違和感を覚える表現でもあります。
そこで、このnoteにおいてはプロダクトマネジメントにおけるWhy, What以外の領域である「How」に注目し、プロダクトマネジメントとHowの関係性について解説をしていきます。
プロダクトチームをつくるという仕事
Why, Whatを元に、How = どうやって作るのかを考えていくことになります。この「プロダクトを作る」にあたっては、
設計 / 実装
UIデザイン
品質保証
etc…
などの、様々な専門性を掛け合わせ具現化をしていく必要がありますが、これを実現できる専門家チーム = 「プロダクトチーム」 であり、このプロダクトチームがHowを担うことになります。
あれ…じゃあやっぱりHowはプロダクトマネージャーは関係ないのでは…?と思われるかもしれませんが、当然これで話が終わるわけではございません。
プロダクトマネジメントクライテリアには、以下のような記載があります。
プロダクトマネジメントは、プロダクトをつくることだけが仕事なのではなく、「プロダクトチーム」をつくることもまた重要な仕事の1つなのです。
プロダクトチームとは
一口にプロダクトチームといっても、実際にはいくつかのパターンが存在します。この分類については諸説あるものの、ここではSVPG社の記事に基づく形で3つのパターンに整理をします。
これをもう少し噛み砕くと、以下のように整理がされます。
「プロダクトチーム」が扱う対象
→ 広義のプロダクトを扱い、アウトカムにフォーカスしている「デリバリーチーム」「フィーチャーチーム」
→ 狭義のプロダクトを扱い、アウトプットにフォーカスしている
なお、広義/狭義のプロダクトの定義としては以下の通りです。
狭義のプロダクト: プロダクトチームによるアウトプットである成果物
広義のプロダクト: アウトプットとそれに付随する広義の活動 ≒ 事業
この定義における「プロダクトチーム」によって、持続的に価値のあるプロダクトを生み出せる状態を目指していくわけですが、これと同時に「プロダクト志向」なチームを実現していくことも重要になります。
これについても、プロダクトマネジメントクライテリアにて触れられており、「プロダクト志向」とは以下のように定義されています。
このような「プロダクト志向」なチームこそが、プロダクトを成功させることができると述べられており、先程の話と合わせてプロダクトマネージャーは「プロダクト志向なプロダクトチーム」をチームと共に実現していく動きが求められます。
ただし、一般的に機能型組織においてプロダクトマネージャーは人事権を持たないとされているため、実際にはチームに対する人事権を持つ方と共に「プロダクトチーム」の実現に向けて、継続的な対話と啓蒙をしていくことになるでしょう。
プロダクトチームをつくる
では、「プロダクトチーム」を実現していくにあたって、どのようなチーム構成とするのがよいでしょうか。冒頭にて、プロダクトをつくるためには
設計 / 実装
UIデザイン
品質保証
etc…
といった専門性が必要となると述べましたが、これを職種に置き換えると、
エンジニア
UIデザイナー
QA
となります。仮にデリバリーもしくはフィーチャーチームであれば、このチーム構成で十分なアウトプットを行っていくことが可能です。
では、「プロダクトチーム」を実現するためには、どのようにすればよいでしょうか。
このとき大事になるポイントとしては、「プロダクトチーム」においてBiz/User/Techの3つの柱がバランスよく成立していることです。
つまり、プロダクトチームの形は単純な職種の構成によって決定されるわけではなく、企業規模や事業ドメイン、組織カルチャーや職種比率など様々な要因を元に、この3つの柱をどのようにして成立させていくかを考えていくことが重要になります。
例えば、エキスパートレベルのドメイン理解が求められる性質のプロダクトであったり、ロール毎のJDが明確に定義され、これを満たす人材が十分に所属しているような成熟した企業などにおいては、
(テクニカル)プロダクトマネージャー / プロダクトオーナー
プロジェクトマネージャー / スクラムマスター
などの役割をチームに組み入れつつ、他機能型組織と継続的な連携をとっていくことで1つのプロダクトチームを形成していくことができます。
(そして比較的この形は一般化されつつあるのではないでしょうか。)
別の例としては、開発者向けのプロダクトであったり、プロダクト志向なエンジニアリングカルチャーの会社の場合、
エンジニア
サービスリード
テクニカルリード
マネージャー / リーダー
デザイナー
QA
のようにエンジニアのロールを細分化することで、「技術」を中心に据えつつも、他領域に対してそれぞれ責任範囲を広げていくことができます。
(もちろん、これはエンジニアに限らずデザイナーなどにおいても同様です。)
「どのようなプロダクトチームを実現していきたいか?」
チーム及びマネージャーと継続的な対話を行い、共に考えながら歩みを進めていくことで、最終的なプロダクト志向なプロダクトチームの実現へとつなげていくことが出来るでしょう。
Howとはどこからを指すのか
プロダクトマネージャーとプロダクトチームの関わりにおいては、Howが記された「仕様」をだれが書くべきか論を避けては通ることはできません。
上記のような話が出た場合、それは「デリバリーチーム」もしくは「フィーチャーチーム」であるシグナルかもしれません。
「仕様」とは一口にいっても、要求仕様、詳細仕様、インターフェイス仕様….など多種多様な「仕様」が実際には存在します。
この「仕様」を理解するにあたっては、「要求」と「仕様」の関係性を正しく知ることが重要です。
要求と要求仕様の違い
「要求」と「仕様」の関係性については、様々な記事にて解説がされているところではありますが、ソフトウェア工学を専攻していた身としては、これの一部分である「要求工学」における定義が厳密性もあり良いと思っていますので、こちらを引用していきながら説明をしていきます。
まず「要求」及び「仕様」については以下のように定義がされています。
そして、「要求」と「仕様」の関係性については、以下のようにモデル化がされています。
このモデルにならうことで、
Why, What → 上半分の「問題領域」に該当
How → 下半分の「ソリューション領域」に該当
という形で整理ができ、例えばプロダクトマネジメントであれば「問題領域」における「要求」を定義することであると言えるでしょう。
一方で、「要求仕様」は「ソリューション領域」に属しており、「ソリューション知識」を注入することで作られるものであることが分かります。
(※ 要求仕様 = 与えられた要求を満足する仕様)
ここで大事なこととしては
「要求(定義)」と「要求仕様」は似て非なるもの
「要求(定義)」はWhy, What、「要求仕様」はHowである
ということです。
誰が要求仕様を書くのか?
先程のプロセスモデルは、ベンダーへ発注を行う際に必要となる「要求仕様」を定める際のプロセスが元となっており、ベンダーはこれを満たすように "アウトプット" を行い、納品をしていくという関係性にあります。
この関係性は、 "アウトプット" にフォーカスをする「デリバリーチーム」や「フィーチャーチーム」に近い構造であり、このような場合はプロダクトマネージャーが要求仕様まで全てを定めたうえで、チームに対して開発を依頼するという、一般的には「社内受託」と呼ばれる関係性となるでしょう。
一方で、 "アウトカム" にフォーカスをした「プロダクトチーム」の場合、このチームは要求仕様含むソリューション領域全般を担っており、以下のように整理をすることができます。
「要求仕様」は、PRDなどの「要求」をインプットとした、プロダクトチームが、プロダクトチームの知識を合わせて作成をするドキュメント
プロダクトマネージャーは、「要求仕様」の作成を支援し、「要求」と「要求仕様」との追跡性を管理する
つまり、チームがなににフォーカスしているかによって、要求仕様を書くことを「プロダクトマネージャー」に求められることもあれば「プロダクトチーム」で作り上げていくこともあります。
ですが、残念ながらプロダクトマネージャーはHowの領域においてはプロではありません。
プロダクトの価値を最大限引き出していくためにも、ここはチーム側で要求仕様を定めていけるように、プロダクトマネージャーは「プロダクトチームをつくる仕事」により注力をしていきたいところですね。
おわりに
プロダクトチームの成熟度が上がっていくことで、HowはもちろんWhy, Whatについてもプロダクトチームと共に考え、移譲を進めていくことで、プロダクトマネージャーはより良い問いを探すことに時間を使うことが出来る、良いサイクルを加速させていくことができるでしょう。
さて、この結論を伝えたいがために大変長々とした文章を書いてしまいましたが、曽根原春樹さんが端的な一言で表現しておりましたので、最後にこちらを紹介させていただきます。
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