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パラレルキャリアを考えるためのヒント #2

前回の記事では、パラレルキャリアを模索しているなら、まずはアイディアをとにかくなるべくたくさん書き出してみることをおすすめし、そのための切り口として、ワーク形式でできるヒントを書いてみました。

今回は、出てきたアイディアをどうやって絞り込むかを考えていきます。

ところで、アイディアをどんどん出して広げる場合は、なにかフレームワークのようなもの、思考の枠組みに沿って行うことで比較的容易にできるのですが、絞り込む方法は枠組み化しにくいものです。なぜなら、この絞り込みの作業こそが、ビジネスを差別化するプロセスそのものだからです。(ここを皆同じフレームワークで考えてしまったら、結論も一緒になってしまいますから、競合と同じ戦略になってしまいます。事実、大企業が他社との差別化に苦労するのは皆同じような思考パターンで経営戦略を立てているからです。)でも、考えるための切り口はあります。

できること×やりたいことでオリジナリティを考える

複数の要素を掛け合わせることで、ビジネスにはオリジナリティが生まれます。これはあらゆる起業本、マーケティング本で言われていることです。掛け合わせることは、往々にして何かに特化するということに繋がります。ベン図をイメージしてもらえれば分かる通り、2つの円が重なる部分だけに集中するということです。

2つの領域(円)が重なる部分の面積は、1つの領域(円)の面積より狭いですから、一見、自らビジネスの範囲を狭めているように感じられるかもしれません。でも考えてみてください。全方向にアプローチしようとして、結果としてありきたりで印象に残らないものになってしまっているコマーシャルやWebサイト、サービスは世の中にいくらでもあります。実際、大企業ほどそういう傾向に陥りやすいのです。大企業には顧客基盤と体力があるためそのようなアプローチでもしばしば成り立ってしまうのですが、個人でビジネスを始めようと考えるとき、そのような全方位アプローチは、差別化の観点でも、また経営資源の集中の観点でもおすすめできません。思い切ってエッジの効いた組み合わせを考えてみます。

そうは言っても何と何を掛け合わせればいいのか、どこから着手していいか分からないという場合は、まずはアイディアを広げるワークで書き出した「できること(CAN)」と「やりたいこと(WANT)」を組み合わせてみてはどうでしょうか。

例えば私の場合、「できること(CAN)」の中に、会社での人事の仕事で得たスキル、特に自社グループの給与制度の知識、そしてファイナンシャルプランナー資格(AFP)がありました。他方、「やりたいこと(WANT)」の中には、顧客のライフプラン&キャリアプランを踏まえて家計のアドバイスができる独立系ファイナンシャルプランナーというアイディアがありました。これらを掛け合わせて、自社グループの社員のみをターゲットに、収入面の精緻な予想に基づいた、包括的な人生設計アドバイスのサービスを考えていました。

ただしこれには非常に重大な制約がありました。本業で得た情報(自社グループの給与制度)を副業で利用することに関して、就業規則上で制限されていたからです。ここを突破するには、私の副業が会社にとって大きなメリットになることを示す必要がありました。もちろん、本気で突破しにかかるという選択肢もありますが、その時点での私にとっては相当に労力を要すると想定され、また具体的にどのようにマネタイズするのか(個人からの相談料、執筆・講師料、その他)が自分の中でうまくイメージを持てなかったことから、このアイディアはお蔵入りになりました。

しかしながら、掛け合わせてビジネスを生み出すことのイメージはつかんでいただけるのではないかと思います。これは「絞り込む」というより、たくさん出したアイディアの中から活かせそうなものを「拾う」作業になります。組み合わせそのものはほとんど無限にありますが、”しっくりくる”ものは自ずと絞られてくると思います。

制約条件に着目する

「ストーリーとしての経営戦略」という書籍の中で、著者の楠木健さんが繰り返し述べていることは、面白い経営戦略の中には必ずどこかに、セオリーとは違う要素が入っている、ということです。セオリーと違う、ということは、一般にやったほうが好ましいと考えられることをやらない、もしくは、一般にはあまり好ましくないとされていることをあえてやる、のどちらかです。

個人がパラレルキャリアを前提に起業を考える場合、前者のほうが考えやすいでしょう。なぜなら個人で、しかも本業を他に持ちながら起業するということは、さまざまな制約条件がついて回るからです。その制約条件を逆手に取るのです。

前回の記事で触れた、MUSTをうまく活用できないか考えてみましょう。

例えば私の場合、最大の制約条件はこどもの存在、つまり時間的制約でした。でもそれはこどもの存在のためにやりたいことを我慢しなければならないということではなく、私自身がこどもとの時間を重視したいと考えた結果です。こんなに必要とされるのはこどもが小さいうちだけだから、と。そこで、あえて地域密着型サービスというスタイルをとることにしました。

インターネットがこれだけ普及してサービスのオンライン化が進んだ今、店舗ビジネス以外のサービスにおいて、エリアを特定して地域密着にすることは、マーケットを狭めることになるので、定石としてはあまり選ばれません。オンラインで提供できるものはオンラインで提供すれば良いし、大きな設備を必要としないサービスなら自分が出張すればよいので、店舗ビジネスの商圏に縛られる必要がないことのメリットが大きいと考えられるからです。
ところが私の場合は、子どもとの時間を重視したいという大切な制約がある。それならば、エリアを特定して活動することで移動時間が極小化でき、かつ、地元密着がブランディングの重要な要素になり得ると考えたからです。制約条件を逆手に取った例のひとつです。

お金をもらう仕組みを考える

自明のことですが、マネタイズできることはビジネスの必須要件です。上述のような方法でいくつかのアイディアに絞り込んだら、いよいよマネタイズを考えます。すなわち、誰から、何の対価としてお金をもらうのか、現実的な方法を考えるのです。

顧客から、商品の対価として受け取る。あるいは相談料のような形で受け取る。もしくはプラットフォームサービスの利用料のような形で受け取る。顧客からではなく、広告収入として受け取る。いろんな形があります。ここは、自分のビジネスでいくらくらいの収入を得たいかということとも密接に関わります(このことは別の回で書きたいと思います)が、まずはそれぞれのビジネスアイディアについて、どのような形でマネタイズできそうか、イメージを持っておくことが必要です。逆に言えば、マネタイズのイメージが持てないものは、この段階で候補から外れることになります。

直感は大切にする

先の3つの考え方はどちらかと言えばロジカルなアプローチで絞り込んでいく方法すが、実は最後の一押しとか決め手になったのは直感、という人は少なくありません。

企業の中での意思決定の場合、どの案にするかを直感で決めるなどということは(ワンマン社長が鶴の一声的に決めるような場合を除いて)通常あり得ません。関係者が意思決定の理由を共有できるためには、論理的に説明できる理由でないといけないからです。
ですが、個人でやろうとしているビジネスにその必要性はあまりありません。むしろ、自分が情熱を持ってその事業を継続していくためには、”直感的に良いと思った“ ”ぴんときた”アイディアのほうがいいくらいです。

もっとも、最初から直感だけに任せるのは危険です。ロジカルなアプローチでアイディアを絞り込んだあと、さあどれにしようかと、最終決定をするような場面で直感がきいてくるのです。

また、”タイミング” “巡り合わせ”あるいは重要人物からの声かけなどといった偶然の要素も、個人のビジネスを考える上では重要です。私の場合、写真を仕事にするということは、アイディアを広げる段階で100以上ある案のひとつに上がっていましたが、それが最終案となったのは、後に師匠カメラマンとなる人から声をかけてもらったことがきっかけで、それに”直感的にぴんときた”からなのです。

以上、広げたアイディアを絞り込むにあたっての方法論のひとつとして、自分の検討過程を振り返りながら書いてみました。

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