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【絵本紹介】終戦記念日を迎えて~平和・戦争に関する絵本 その2~


今回も、終戦記念日にちなんで、「平和・戦争」がテーマの絵本をご紹介します。

実話を元にした絵本特集です。



■ヒョウのハチ(門田隆将 文 松成真理子 絵  小学館)


1941年2月。
中国の牛頭山という山にヒョウを退治しに行った成岡さんの部隊は、ほら穴でヒョウの赤ちゃんを見つけます。
子ネコのように愛くるしい赤ちゃんヒョウを、「第8部隊」からとった「ハチ」と名づけ、隊員たちはかわいがって育てました。

ところが、第8部隊は大きな作戦を命令され、ハチと別れなければならなくなりました。
成岡さんはあちこちに手紙を書き、日本の上野動物園に受け入れてもらうことになりました。
上野では、たちまち人気者になったハチですが、その後……。


戦争で犠牲になった動物の話は、前回紹介した『かわいそうなぞう』はじめいくつかありますが、まさか中国でかわいがられて育ったヒョウがいたとは知りませんでした。

部隊の癒しの存在でもあり、勇気を与えていたハチ。
「にんげんをしんじてそだったハチ」に、その人間がした仕打ちは、時代として仕方のない苦渋の決断ではあったでしょうけど、むごいことこの上なかったとしか言いようがありません。

絵本には、亡くなったハチと成岡さんのその後も書かれています。

次に高知に行った時には、ぜひ、ハチに会ってみたいと思っています。



■タケノコごはん(大島渚 文 伊藤秀男 絵  ポプラ社)


パパが小学校に行っていたころ、日本は中国と戦争をしていました。
だから、えほんやゲームも戦争とかんけいのあるものばかり。
きみたちは、はやくおとなになって兵隊になり、戦争に行かねばならないとおしえられました。

学校では、つよいことがいいことになっていました。
パパたちの組でいちばんつよかったのは、さかいくんというともだちでした。
ところがそのさかいくんのお父さんは、兵隊で戦争に行き、亡くなってしまうのです。

そして担任の先生も兵隊になって戦争に行き……。


著名な映画監督、故・大島渚さんが、当時小学校3年生の息子さんの宿題「お父さんかお母さんの子ども時代の思い出を作文に書いてもらう」で書いたものを、絵本化した作品です。

パパ(幼い日の大島渚さん)の視点で、お話は淡々と進んでいきます。
戦争の強烈な描写はないけれど、それだけに読み手に考えさせるものがあります。

伊藤秀男さんの絵も力強く、特にラストの2つのシーンの絵は圧巻です。

言葉は少なくても、迫ってくるものがある絵本です。




■せんそう 昭和20年3月10日 東京大空襲のこと(塚本千恵子 文 塚本やすし 絵  東京書籍)


わたしは、東京の浅草ちかくの、おおきな川がながれるまちにすんでいました。
昭和20年3月10日の夜のことでした。
なんのまえぶれもなく、家のすぐ上に飛行機の爆音が近づいてきました。
アメリカのB-29というおおきな爆撃機の大群がやってきて、たくさんの爆弾がおちてきました。
爆弾は、家やひとを焼くための焼夷弾で、またたくまに東京の町は火の海に変わりました……。


太平洋戦争末期の東京大空襲は、複数の爆撃機による一度の空襲では、史上最大だと言われています。
それまでの空襲と違い、軍事施設ではなく、ふつうの家や人間を殺傷することが最初から目的であったそうです。

この一回の空襲で、罹災者は100万人を超え、死者は約10万人と言われています。

その空襲の時の様子を、生き残った塚本千恵子さんが体験を書き、息子の塚本やすしさんが絵をかいた絵本です。
塚本やすしさんといえば『あっ ごきぶりだ!』『やきざかなののろい』など、楽しい絵本のイメージがあるのですが、幅広い作品を描いていらっしゃるのですね。

千恵子さんの空襲体験、特に最後の展開には息をのみ、言葉もありません。




■字のないはがき(向田邦子 原作 角田光代 文 西加奈子 絵  光村教育図書)


せんそうがはじまって、わたしたちのくらしはずいぶんかわってしまいました。
たべるものも、手にはいらなくなりました。
とうとう、ちいさないもうとも、そかいさせることになりました。

おとうさんはかぞえきれないほどのはがきにあて名をかいて
「げんきな日は、はがきにまるをかいて、まいにち一まいずつポストに入れなさい」
といいました。

まだ字のかけないいもうとから、はじめはとても大きなまるがとどきました。
ところがそのまるは、つぎの日からどんどんちいさくなっていって……。


字が書けないから○を書いてよこしなさい、というお父さんの思い。
その○がだんだん小さくなっていく、それ以上にいもうとの境遇を雄弁に語るものがあるでしょうか。

絵本に描かれているのは「モノ」が中心で、それだけに読み手の想像をかきたてるものがあります。

向田邦子さんがご自分の体験を元に書かれたエッセイを、絵本にした作品です。
「字のない葉書」は、中学校の国語教科書にも掲載されています。




■わたしに手紙を書いて 日系アメリカ人強制収容所の子どもたちから図書館の先生へ(シンシア・グレイディ 作  アミコ・ヒラオ 絵  松川真弓 訳  評論社)


太平洋戦争が始まり、アメリカ合衆国政府は、西海岸に住む日系人を収容所に入れる命令を出しました。

サンディエゴの図書館司書だったクララ・ブリードさんは、図書館に来ていた日系の子どもたちが収容された先に、手紙を書いたり日用品を送ったりし続けました。
切手を貼ったはがきでいっぱいの箱も、いくつも送りました。
子どもたちもブリードさんに宛ててはがきを書き、そのやり取りは戦争が終わるまで続いたのでした。


太平洋戦争の当時、アメリカにいた日本人家族もいたわけで、その人たちがどういう暮らしをしていたのか、私はあまり知ることはありませんでした。

この絵本では、図書館によく通っていた日系の子どもたちと図書館司書さんの交流が描かれています。
自分がどこに入れられたのかもわからない収容所にいて、ブリードさんの手紙や品物は、子どもたちを支え続けたのだろうと想像に難くありません。

いわば敵国の子どもたちへの援助、友情。
ブリードさんの覚悟も並々ならぬものがあったに違いありません。

戦争が終わって50年近く経った1991年に、「ボストン収容所・再会の集い」が開催されて、その時の写真が「あとがき」に載っています。
そんなにも交流が続いていたことに、温かい気持ちになるのでした。

ぜひ、子どもたちに読んでもらいたい一冊です。




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電子書籍を出版しています。

子どもたちの心に種をまくように、ちょっと心に響いたり、何か行動してみようと思えたり、そんなきっかけになる絵本を紹介しています。

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