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組織コミュニケーションおよび組織サポートが、組織への否定的な態度にもたらす影響とは!?

みなさんは、自分の会社や組織に対してポジティブな感情を持っていますか?

働いていることを誇りに思う、というポジティブな感情を抱く人もいれば、会社や組織に対してマイナスな感情を抱く人もいると思います。

「不誠実に感じて、信頼できない」
「正直、あまり好きではない」
「そもそも興味関心がない」

このような組織に対する従業員の否定的な態度のことを組織シニズム、と呼びます。

今回は、組織コミュニケーションと従業員-組織間の社会的交換が従業員の組織に対する否定的な態度である組織シニシズムにもたらす影響について、探索的に検討することを目的とした論文についてまとめていきたいと思います。

論文名:組織コミュニケーションおよび組織と従業員の社会的交換関係が組織シニシズムにもたらす影響/松田与理子さん・石川利江さん


現代企業の課題

「エンゲイジメント」という、会社に忠誠的で生産性が高く仕事に献身的な状態と定義づけられる概念があります。

2005 年の国際調査では、米国人従業員は「仕事に熱意があり、会社に対す る忠誠心が高い(Engaged)」と回答したのが 27%であるのに対し、日本人従業員においては、“Engaged” はわずか9%で、調査対象となった14カ国のうちシンガポールと並んで最低水準となっています。

高橋 ・河合・永田・渡部(2008)は、従業員の組織に対する信頼が低下した現代職場を「不機嫌な職場」と表し、協力関係を阻害する企業風土の蔓延、生産性や創造性の低下といった問題を指摘しています。

従業員の組織に対する不信感を説明する概念に、1990 年代後半から研究が進められている組織シニシズムという言葉があり、組織シニズムの定義は下記となります。

組織シニシズムを、組織に対する従業員の否定的な態度とし、1)組織は誠実ではないという「信念」2)組織に対する怒り、不快感といった負の「感情」、3)否定的な信念と感情を反映した批判的「行動」といった 3 つの要素で構成した定義を提唱している。

Dean, Brandes, & Dharwadkar(1998)

これまでの研究では、組織シニシズムが組織コミットメントや職務満足感に負の影響もたらすことが報告されています(e.g., Bernerth, Armenakis, Field, & Jack, 2007)。

また、 Walter & Bruch(2008)によると、従業員のシニカルな態度は、グループのポジティブな感情共有を阻害する要因になりうること、さらに産業領域の健康心理学研究では,組織シニシズムが抑うつや身体愁訴を高めるとの報告があります(松田 , 2010)。

組織に対して否定的な感情を抱いている状態で仕事をすると、モチベーションが下がるだけではなく、一緒に働いている仕事仲間にも影響を与えることになります。

組織シニズムの規定要因


規定要因とは、ある事柄の原因となる要素や要因のことを指します。

組織シニシズムの主たる規定要因には、組織サポートや心理的契約といった従業員と組織間の社会的交換を基盤とする概念が報告されています(e.g., Johnson & O’Leary-Kelly, 2003; 松田, 2011)。

組織サポートの定義は下記です。

組織が従業員の貢献をどのぐらい評価してくれるか、彼らの Well- Beingをどのぐらい配慮しているかに対する従業員の知覚である。

Eisenberger, Huntington, Hutchison, & Sowa(1986)

Eisenberger et al.(1986)によると、組織サポートが高まった場合(努力や貢献に値する称賛や承認を組織がしてくれていると従業員が認知した時)従業員は組織の成員であることと自己アイデンティティを統合し、組織とポジティブな情動的絆を築いていきます。

一方で、従業員が知覚する組織サポートが低下した場合、社会的交換が侵害された場合に組織シニシズムが高まることが報告されています(Byrne & Hochwarter, 2008)。

つまり、組織サポートを促進することが、組織シニズムを低下することにつながります。

組織サポートを促進するには?

では、組織サポートを促進するにはどんな要因があるのでしょうか。
この論文では、いくつかの先行研究を紹介しています。

Allen(1992)は、組織サポートを促進する要因として組織コミュニケーションの影響を調べています。その結果、組織内の自己成長機会、組織の従業員に対する扱い、従業員の Well-Beingに対する気遣い等について上司と非公式な会話を取り交わすことが、従業員の高い組織サポートにつながっていることがわかりました。

また、上層部が従業員の Well-Being を気にかけていることを公式文書や意見表明により伝達する頻度や度合い、それを反映する行動などは、従業員の組織サポートと強い正の関連を示しました。

さらに組織コミュニケーションと組織シニシズムの関連を調べた研究もあり、誠実で頻度の高いコミュニケーションは公正性の知覚を高め従業員間の信頼を生みだす一方、重要な情報の伝達を怠ることは、特に組織の状況が不安定な場合において従業員の満たされない期待、恐怖、不信感、ひいては組織シニシズムにつながることが示されています(Andersson, 1996; Schweiger & Denisi, 1991)。

調査手続きと調査対象


企業に勤務する年齢 20~60歳の男女を対象に約100万人のモニターを保有するインターネット調査専門会社に調査を依頼。2010年2月下旬から 3 月上旬の調査期間内に完全回答が得られた回答者数は345名。

調査内容

※調査に用いた尺度の説明になります。

1. Communication Satisfaction Questionnaire(CSQ)
Down & Hazen(1977)が作成したCSQを使用。組織のコミュニケーション慣行に対する従業員の態度や評価を測定する尺度で「コミュニケーション風土」「上司との関係」「組織的統合」「メ ディアの質」「横の情報の流れ」「組織的見通し」「個人へのフィードバック」「部下との関係」の 8 つの下位概念各 5 項目計 40 項目で構成される。
2.Communication Satisfaction Questionnaire-2(CSQ-2)
Zwijze-Koning & De Jong(2007)は、クリティカル・コミュニケーション体験調査1を用いてCSQ の内容的妥当性検証を行っておりCSQ に含まれない経営上層部と同僚に関連する項目を追加している。本研究では、従業員-組織間の社会的交換という組織的文脈に着目していることから、CSQ-2 に含まれる「経営層に対する満足度」5項目を用いた。回答は「非常にあてはまる(7 点)」から「全くあてはまらない(1 点)」の 7 段階評定。
3.組織サポート尺度
加藤(1995)が作成したEisenberger et al.(1986)のPerceived Organizational SupportScale(POSS)日本語版を用いた。本研究では、1 因子 16 項目のうち加藤(1995)による項目反 応理論分析の結果をもとに“私が会社のために貢献すれば、会社はそれを評価してくれるだろう” “会社は、私の目標や価値観をよくわかってくれている” “会社は、私に不平・不満があれば、それを理解しようとしてくれるだろう” “会社は私に関心を示してくれる” の4項目を選定して用いた。
4. 組織シニシズム尺度
松田(2011)が作成した日本版組織シニシズム尺度を使用。“この会社が従業員を公正に扱っているとは思えない” “私の職場には,冷ややかな雰囲気が流れている” “この会社は私をイ ライラさせる” “この会社の決定を同僚と一緒に冗談の種にする” など12項目からなる。

「組織コミュニケーションおよび組織と従業員の社会的交換関係が 組織シニシズムにもたらす影響」p3-4から抜粋

分析方法


CSQ-15 項目について、主因子法、プロマックス回転による探索的因子分析を行った。CSQ2-5 項目については、原版と同様の1 因子を想定し、主因子法による探索的因子分析を行った。その後、因子的妥当性を検討するために確証的因子分析を行った。

※より詳細の因子分析結果は、ぜひ論文をご覧ください!

考察

a. 組織コミュニケーションと組織サポートの関係

・組織コミュニケーション満足度尺度のうち、組織サポートに最も大きな正の影響を示したのは「自己に関わる情報満足度」であった。「自己に関わる情報満足度」は、組織からの従業員評価、従業員に関わる職務環境関連情報といった 2 種類の情報に対する満足度で構成される。
経営層に対する満足度が組織サポートに正の影響を与えることが示唆されたが、 上司との関係に対する満足度は組織サポートに直接的な影響を示さなかった。組織側のコミットメントに対する従業員の包括的な信念である組織サポートには、上司という局所的(local)な対人関係よりも、より大局的(global)な経営層との関係が直接効果を持つことが本研究でも示されたと考えられる。
上司との関係に対する満足度は、自己に関わる情報満足度、経営層に対する満足度のいずれにも大きな正の影響を示した。この結果から、上司が部下に信頼を示し、部下の状況を把握したうえで助言を与え、部下の意見に耳を傾けるといった良好な関係が存在する場合、従業員は組織から自己に関わる情報が十分に得られていると知覚することが考えられる。
・上司は部下に対する日常の対人的なコミュニケーションだけでなく、従業員と組織の関係というマクロな文脈では、組織の代弁者(エージェント)として部下に必要な情報を提供することが求められる。
経営層に対する満足度は、自己に関わる情報満足度に正の影響を示した。Hargie, Tourish, & Wilson(2002)は、経営層が発信する情報量を増やし、従業員が知覚する不確実性を軽減することでコミュニケーション満足度が向上すると報告している。本研究で示された自己に関わる情報満足度に対する経営層の影響力は、上司の影響力ほど大きくはないものの、経営層から直接発信される情報が従業員に社会情緒的資源を提供し、従業員と組織間の相互義務 に対する認識の不適合を軽減することで組織サポートを間接的に高める効果を持つことが示唆された

b. 組織コミュニケーション、組織サポートと組織シニシズムの関係

組織サポートは、従業員の組織に対する否定的な態度である組織シニシズムに負の影響をもたらすことが示された。この結果から、先行研究と同様に従業員が組織との社会的交換関係に不均衡を知覚した場合、つまり組織サポートが低下した場合に組織シニシズムが高まることが明らかになった。
・例えば、従業員の意思決定への参加機会や入手可能な情報が不足している職場では、組織の方針や戦略、目標が十分に伝わらない不明瞭な中で従業員が職務に関わらなければならない可能性が高く、また、自己の貢献が組織にどのように評価されているかを知り得る機会も少ないと推測される。そのような状況下では、従業員が組織から受け取る社会的情緒資源が少なく、また組織との認識の違いが大きいことから、社会的交換に不均衡が生じ、組織シニシズムが増大するといった解釈が可能と思われる。
・組織コミュニケーション満足度尺度のうち、自己に関わる情報満足度から組織シニシズムに直接的な負の影響は見られず組織サポートを介在して間接的に影響を与えることが示された。
一方、経営層に対する満足度は、組織シニシズムに対して組織サポートを介在した間接効果に加えて直接的な負の影響を示した。この結果は、経営層に対する信頼感が低い場合に従業員のシニシズムが高まることを報告した Kim, Bateman, Gilbreath, & Andersson(2009)の研究を支持するものであり、組織というマクロな文脈において経営層が持つ役割の重要性が本研究でも示唆された。

以上が、結果の考察になります。

上司という局所的(local)な対人関係よりも、より大局的(global)な経営層との関係が組織サポートの直接効果を持つのは、面白かったです。

上司との関係性だけでなく、経営層との関係性をどう作っていくか、経営層から直接発信される情報をいかに現場に届けるか、ということが肝になりそうです。

読み応えのある論文でしたが、勉強になりました!

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