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流産への恐怖と暗い海 第63回 月刊中山祐次郎


皆様、いつも「月刊中山祐次郎」をお読みいただきありがとうございます。今回は、育児のお話です。中山は、40歳にして今年7月に第一子を授かりました。外科医、作家を続けながら、しかし「お手伝いではないレベルで」子育て・家事にも参加したい。そんな決意で始まった生活を綴ります。激変する生活、眠い日々…40歳・運動不足の中山はどうなってしまうのか・・・

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なお、このエッセイはm3.comという医療従事者専用のサイトで連載をしており、許可を得て転載しています。月二回、一年書いたら本として出版する予定にもなっております。

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 妊娠してから、妻はみるみる変わっていった。最初のうちは食欲が激しく亢進し、甘いものでもなんでもとても良く食べた。妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクが上がるため、体重が増えることを気にしてはいたが、それでも抗いようのない食欲に、妻の体重は増えていった。

 本人は「食べつわり」という言葉を見つけてから少し納得したようだったが、たしかに巷の育児エッセイやブログでは、とにかく食べ続ける妊婦の話がたくさんあり、まあそんなものなのかな、とも思った。

 一ヶ月に○キログラム以上は太らないように、というかかりつけ産婦人科医からのお達しはあったが、妻が「自己申告制なので体重はサバを読んで伝えている」と言ったときは衝撃を受けた。医者の立場からすると、患者さんの申告する体重などは基本すべて真実であるとして治療を進めている。もしかして、患者さんはこんな風に日常的に医者に嘘をついているのだろうか。

 このことについて、医者ならきっと誰もが経験することがある。「出した薬の数と、残っている薬の数が合わない」ということだ。こちらは二ヶ月分薬を処方したのに、二ヶ月後の外来で「まだ大量に余っている」とおっしゃる。

 まだ下剤なんかならそうやって自分で飲み方を調節してもらって構わないのだが、貧血の患者さんの治療用に出した鉄剤や、高血圧患者さんへの降圧剤など、毎日飲んでもらわなければならない薬でも、こういうことが極めて日常的に起きるのである。僕も何度も経験がある。医者が思っているよりもはるかに、患者さんは自分で治療を「最適化」しアレンジしているのだろう。

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