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長編小説「我ら瓦礫のうえに立つ」

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1995年の阪神淡路大震災を題材にした長編小説です。被災したマンションのその後の3年にわたる復興の物語を綴りました。 [第1部 被災](1)〜(19)、[第2部 復興](1)〜(…
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2024年1月の記事一覧

[第1部 被災](1)

見知らぬ惑星に突然放りこまれたような 1995年1月17日、早朝。 フトンの中で目を開け…

ジェイロウ
9か月前

[第1部 被災](2)

週末まで 2日目の朝になった。兄に代わって、今日は僕が父親の入院している病院に行くことに…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](3)

廃墟の中をくぐり抜けて 日曜日、とうとう雨が降り出す。何日も貯め込んでいた水を吐き出すよ…

ジェイロウ
9か月前
1

[第1部 被災](4)

住民集会 2月に入ると、寒さが深く、厳しくなってきた。僕と妻は毎日皿にクレラップをひいて…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](5)

「オピニオン235」 春が過ぎ、梅雨の季節になった。 ある朝、玄関のポストに分厚い書類の…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](6)

猫のおじちゃん   このころ、この「オピニオン235」にはちょっと毛色の違う意見も載って…

ジェイロウ
9か月前

[第1部 被災](7)

初顔合わせ お盆休みに入った日の夕方、家のベランダの水槽で日なたぼっこをしているカメに餌をやっていると、部屋の向こうの呼び鈴が鳴るのが聞こえた。玄関をあけると、マンションの管理人が立っていて、僕に「来期の理事会のメンバーになってほしい」と告げた。入居3年目でちょうど順番がまわってきたのだ。 僕は断わろうと思った。平常時ならともかく、この時期に理事になるということはマンションの復興問題にいやがおうでも取り組まざるを得なくなる。自分の住むマンションの問題は勿論、自分自身の問題で

[第1部 被災](8)

C棟の利益代表 インスタントラーメンとお茶漬けを食べて少し横になり、夏風に吹かれながらペ…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](9)

渡り廊下をつたって こうして新しい理事の最初の顔合わせは終わったが、現在の理事の任期は9…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](10)

理事会始動 震災の年の夏が真上に来て、入道雲がそこ・かしこに出るようになっても、僕の家の…

ジェイロウ
9か月前

[第1部 被災](11)

みんなでワイワイやれば怖くない 理事会に毎週出席するにつれ、このマンションは2つの難しい…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](12)

震災1周年 年が変わって、1996年。 震災1周年になる1月17日の正午、阪神間の各地で…

ジェイロウ
9か月前
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[第1部 被災](13)

このマンションから手を引け 「よう、」その年の5月下旬、週末の夜、阪急の夙川駅の改札を出…

ジェイロウ
9か月前

[第1部 被災](14)

池のアヒルがパン屑をねだる 翌日の土曜日は曇り空だった。 朝しぶしぶ眼を覚ますと、子供たちが学校へ出かけようとしているところだった。テレビの音や、トイレに駆けこむ足音が部屋の中に鳴り響く。妻も着替え始めている。 「あら、起きたの?」と妻はまるで僕が地球の自転とともに勝手に眼を覚ましたかのように聞いた。 「起きたんじゃない、起こされたんだ」と僕は濁った声を出した。返事はない。 「いってきまーす!」キキキ…と玄関をこじあける音が聞こえる。地震後、どうも扉のすべりが悪くなっている