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<閑話休題>ルーマニアのオイナ

  掲題の画像は、ルーマニアの伝統球技と称されるオイナで使うボールである。数字の4は、日本でいうところの4号級というような意味で、数字の増減によってボールの堅さが変わり、それによってプレーする年齢に対応しているそうだ。ちなみに、「4」のボールは日本でいえば小学校高年から中学生あたりに適用するらしい。

オイナのボール

 このオイナについて簡単に説明すれば、野球と似た球技だが、ピッチャーはいない。バッターは、棒にしか見えないバットを使って、このボールをできるだけ高く打ち上げる。そして守備側がボールをキャッチする間に、一塁と三塁だけのいわゆる三角ベースを走り抜けるというものだそうだ。なお、ルーマニア人がよく使う冗談に、「さあ、国技のオイナをやろう!」、「いいね、みんなでやろう!」、「ところで、オイナってどうやってやるんだ?」というものがある。それくらい、今は相当マイナーなスポーツになっているらしい。

 ところで、ルーマニアは東欧圏ではもっともラグビーが盛んな国だが、やはりメジャースポーツはサッカーだ。猫も杓子もサッカーをやっている中で、ある時期から国を挙げてオイナを国技として盛り上げようとなり、その統括団体ができた。

 私がルーマニアにいるとき、ちょうどコロナ対策で何もできない時期だったが、ルーマニアの文化庁にあたる役所の長官にイベント好きのおばちゃんが就任した。そして、「パンの祭り」というのを予定しているが、日本からも参加してもらいたいから文化庁に誰か来てくれということで、上司から「あまり重要でなさそうだから、とりあえずお前が話だけでも聞いてきてくれ」と言われた私が、ルーマニア語の通訳を連れて面会に行った。

 なお、このルーマニア人の通訳は、相撲の四股名も読めるほどの日本語万能の職員だったが、私がいたルーマニアの事務所には、日本の大学で万葉集を研究していたという女性がいるほど、ルーマニア人の日本語能力は想定外に素晴らしかった。考えてみれば、古代からルーマニアは多文化・多人種・他民族が交差する地点であったし、トラヤノス皇帝がダキアから今のルーマニア(ローマ人の国という意味)を作ったときも、ヨーロッパ各地からの移民を集めたのだから、外国語への順応性は長い歴史を持っている。また、西欧諸国と異なり、アジア(フン族)の影響が残っているためか、名・氏の順ではなく、日本と同じに氏・名の順になっているのも面白かった。(例えば、西欧ならミハイ・ヨハニスとなるのが、ヨハニス・ミハイと表記する。)

 冒頭のパンの祭りに戻ると、ルーマニアでは、古から客人をもてなす礼儀として、パンと塩を一口食べさせるものがある。例えば日本大使が何かの歓迎式典に出席すると、ルーマニアの主催者側は、到着した大使に民族衣装を着た女性がパンと塩の載った皿を出して、一口食べてもらうことをする。そうした伝統から、くだんの文化庁長官の女性は、「パンの祭り」というのを開催して、ルーマニアの各地方で作られている特色あるパンをイベント会場で作ってもらう他、世界各国で作られているパンをその場で作って展示してもらうという企画を思いついたのだった。しかし、コロナ対策のためにこのイベントは企画だけでつぶれてしまったが、もしコロナがなければ実現していたと思うので、その場合は、日本人会・商工会・日本人学校に加えて、日本食レストランの日本人オーナーたちにも声をかけて参加してもらっていたと思う。また私の妻は、日本でパン作り教室の講師をやっていた経験があるので喜んで参加したろうから、ちょっと残念だった。

 さて、寄り道が長くなった。このオイナのボールだが、私が文化庁の応接室に行ったとき、ちょうど先客としてオイナの統括団体が、長官を表敬訪問していたそうだ。そして、「記念にどうぞ」ということで、バットと数個のボールを置いていった。それがそのまま応接室のテーブルに載っていて(この辺りが、鷹揚なルーマニア人なのだが)、私がそれを見つけて「これは何のスポーツですか?日本人がプレーする野球に似ていますね?」と質問したら、先方は日本に留学していた通訳を通じて、オイナとその経緯を説明してくれた。(なお、私も先方も日本語の通訳を連れていたが、実は全員英語を話す人たちだったので、英語だけでやっても良かったが、私の拙い英語力を考慮すれば、やはり日本語通訳がいて良かった。)

 今回の投稿は、「閑話休題」の標題のとおりに、とりとめのない思い出話になってしまった。何かオチをつけたいと思ったが、それも浮かばなかった。一方、オチとまではいかなくとも、いろいろなネタをまとめたものを、アマゾンの電子書籍とペーパーバックで販売しているので、以下にアドレスをご紹介する。最後の海外勤務地となったルーマニアをはじめ、いろいろな国と街の記憶を書いているので、是非ご覧願いたい。


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