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<ラグビー>NZの準代表チームはどれかという問いに対するNZ協会からの回答は、なかった。

 先日、本ブログにオールブラックスXVの予想メンバーの英文サイトを引用した記事を掲載したところ、そこに私が説明として記載した「なお、オールブラックスに次ぐレベルのチームは、昔からマオリオールブラックスと決まっているが」という表現が、「間違っている」とだけ指摘され、さらにその同調者が「日本にもたくさんいるオールブラックスファンに間違った情報を伝えることは許せない」という強いクレームが別のウェブサイトであった。(注:オリジナルの文書は既に削除済みなので、引用文は私のnote本文を除き、100%正確なコピーではありませんが、大意は伝わると思います。)

 そこで、原ブログには後から次のような注釈をつけた。「(注:間違いというコメントが他であったので、丁寧に書けば、そもそも準代表というべきチームは、正確に規定したものはなかった。その中でもともとNZネイティヴと称していたチームから派生したマオリオールブラックスは、準代表と同等レベルのチームとして、海外遠征をしたり、NZに来たチームと対戦している。また、マオリに選ばれた後にオールブラックスに選ばれるという事例が沢山ある。一方、A代表は不定期に結成されていて、マオリとの整合性は取れていないという認識です。)」

 後から加筆する注釈に長々と書くのは無粋なので以上で止めたが、もっと丁寧に書けば、次のようになる。

 NZでは、もともとマオリチームが国の代表チームとして外国代表と対戦していた。その後、海外のメディアが「オールブラックス」というニックネームを付けたのを契機にして、国代表をオールブラックスと称するようになった。そのため、一時期はオールブラックスとマオリ(NZマオリと昔は称していた)が併存する時期があった。21世紀に入った頃、オールブラックスのブランドが世界的に著名になり、著作権など様々な問題が出てくることも勘案して、男子15人制代表をオールブラックス、7人制代表をオールブラックスセブンズ、マオリによるチームをマオリオールブラックスと呼称するように正式に決めた。

 一方、現在のNZの国代表チームは、オールブラックスとして定着しているが、準代表(二番目のチーム)については、明確な規定はないと見られる一方、毎年明確な準代表が結成されることがなかったため、ある年はマオリオールブラックス、ある年はNZ大学選抜、ある年はジュニアオールブラックスと、準代表に相当するチームは多種多様に別れていた。しかし、現在はこうした慣例は過去のものになっている。

 また一方、かつてはNZを訪れる外国代表チームは1~2ヶ月の長期間にわたって滞在し、テストマッチ以外にも多くの試合を行った。NZでは、スーパーラグビーの5チームができる以前は、オークランド、カンタベリー、ウェリントンなどの強豪州代表を中心にこれらの外国代表チーム(国代表ではあるが、メンバーは控えの選手が中心となることが多い)と対戦した。また、テストマッチと州代表チームとの中間的チームとして、大学選抜、ジュニアオールブラックス、ニュージーランドA、エマージングプレヤー(日本でいるところのデベロップメントスコッド)などがあったが、必ず対戦していたのがマオリオールブラックスだった。

 これは、以下のNZ協会の説明にあるとおり、歴史的にマオリがNZを代表するチームであった経緯及びマオリ文化に対する敬意を踏まえてのものであり、NZ側としてはテストマッチとほぼ同格の認識であるとみなせる。また、マオリとラグビーは相性が良く、創設時より世界と戦える強豪チームとして、多くの実績を残しており、現在でもその実力はティア1国に近いものがあるとみなされている。

 したがって、マオリオールブラックスは、歴史的経緯及びそのNZラグビー界における実力から鑑みて、オールブラックスに次ぐ実力を持つチームと称してもまったくの間違いではないと思っている。
参考:

 ところで、以上の私の記述にさらに強いクレームをつける人がいるかも知れないので、以下に二つの引用をしておく。

「all blacks.com」にある、マオリオールブラックスに関する簡単な説明
The Māori All Blacks is a historic team representing the proud culture of New Zealand. In 1888 New Zealand Natives was one of the country’s maiden national rugby sides, playing Hawke's Bay in their first ever match on June 23, with the Natives winning 5-0. Later that year they would play their initial international side, recording their first national win 13-4 when beating Ireland in Dublin. The first to wear the famous black jersey, the side was originally conceived as an all-Maori selection and ultimately included just five non-Māori players in its ranks. Conquerors of many internationals sides, including the British and Irish Lions, England, Ireland, while the last time they lost to a Pacific Island side was in 1973 (Tonga). Originally team selected was ‘loosely’ governed in terms of heritage, but now all players must have Māori whakapapa or genealogy confirmed in order to represent the side.
引用元

 ご参考まで、簡単な訳をすれば、以下のとおり。
「マオリオールブラックスは、誇り高いNZの文化を歴史的に代表するチームである。1888年、NZネイティヴ(先住民)チームは、最初の国代表チームのひとつとして、6月23日にホークスベイ(注:州代表のひとつ)と最初の試合を行い、先住民チームが5-0で勝利した。その年に続けて、同チームは最初のNZを代表するチームとして海外遠征し、ダブリンでアイルランド代表に13-4で勝利した。

 初めての記念すべき黒い(注:オールブラック)ジャージーは、同チームが全マオリから選ばれたことを考慮したのが最初であるが、結果的に5人の非マオリが含まれていた。その後、同チームは多数の国代表チームに勝利している。それは、ブリティッシュアンドアイリッシュ・ライオンズ(注:昔は単に「ブリティッシュライオンズ」とだけ表記)、イングランド、アイルランド(など)である。一方、南太平洋諸国チームに最後に負けたのは1973年のトンガである。オリジナルのチームは、歴史的遺産(注:マオリの系図)について曖昧な態度で選手を選出していたが、現在は、同チームの全選手は、マオリのワカパパ(注:マオリ語で「系図」の意)またはマオリ文化を代表する側(組織)の系図から確認することを求められている。」

 なお、日本人の多くはあまり知らないと思うが、ワイタンギ条約という、マオリの多くの部族(全部族ではなかった)と大英帝国君主との間で結ばれた、NZのマオリの歴史を語る上で重要な条約がある。またNZ政府には、マオリ担当の大臣が置かれ、マオリ代表のみの議員枠があるように、マオリの問題はNZにおいて繊細な政治問題でもある。

NZ政府(法務省)のウェッブサイトにあるワイタンギ条約の説明

The Treaty of Waitangi was signed in 1840 and was an agreement between the British Crown and a large number of Māori chiefs. Today the Treaty is widely accepted to be a constitutional document that establishes and guides the relationship between the Crown in New Zealand (embodied by our government) and Māori.
The Treaty promised to protect Māori culture and to enable Māori to continue to live in New Zealand as Māori. At the same time, the Treaty gave the Crown the right to govern New Zealand and to represent the interests of all New Zealanders.
引用元

これもご参考までに簡単な訳を以下に記載する。
「ワイタンギ条約は、1840年に英国君主(注:当時はヴィクトリア女王)と多数のマオリ酋長との間に締結されたものである。現在、本条約は、NZ君主(我が国NZ政府を体現する)とマオリとの間の関係を導きかつ確立する建国時の文書として、広く受け入れられている。本条約は、マオリ文化の保護とマオリがNZでマオリとして継続して生存することができることを約束している。同時に、本条約は、君主がNZに君臨することの権利及び君主にすべてのNZ国民の利益を代表することを付与している。」

 現在も、コモンウェルス(英連邦)というのがあり、つまり旧大英帝国の植民地だった国のうち、NZを含めた多くの国が、引き続き英国君主を自国の君主として規定している緩やかな連合体だ。連邦といっても、アメリカ、インド、オーストラリアなどにあるような強い関係を持つ連邦制ではなく、現在のEUやASEANなどに近い緩やかな結びつきで、コモンウェルスとしてのオリンピックのようなスポーツ大会も開催している。NZやオーストラリアの国旗に英国国旗が含まれるのは、そうした背景があるからだ(昔はカナダ国旗にも同様にあった)。したがって、NZマオリは、NZに入植したヨーロッパ人と同列に扱われ、英国君主を自分たちの君主とするべくワイタンギ条約を結んだということになる。

 なお、この条約について説明するためには、それだけで一冊の本が書けるほどの専門的かつ長年研究している学者が述べる高度な内容なので、浅学者でしかない私はこれ以上の説明を控えるが、NZにおけるマオリ問題の外縁を少しは理解してもらえるのではないかと思う。

 一方、こうして調べていくうちに、オールブラックスに次ぐチームはどこかをNZ側にきちんと照会してみたくなったので、先日「allblackx.com」にメールで照会してみた。しかし、昔と違って世界中から様々な照会があることから、私の拙い質問はスルーされてしまったようだ。そこで、NZラグビー博物館にもメールで照会したが、これは回答があったものの、「当方ではわかりかねるので、ネットで検索してください」ということだった。

 そのため止む無くネットを検索したところ、ウィキペディアに以下のような記載があった。これは公式とは言えないものの、私の疑問に対する回答に資すると考える。

The All Blacks XV is the second national Rugby Union team of New Zealand, behind the senior side the All Blacks, replacing the Junior All Blacks that regularly got confused with the under-20's side before The Jr All Blacks was disbanded in 2009. The 'All Blacks XV' side offers the wider playing base the chance to play on the international scene, focusing on high-performance pathway to the All Blacks instead of using the Māori All Blacks.
(グーグル翻訳を部分修正した和訳。原文及び和訳の太字部分は筆者による協調)
オールブラックス XVは、シニア サイドのオール ブラックスに次ぐニュージーランドの 2 番目のラグビー ユニオン チームであり、2009年にジュニア オール ブラックスが解散する前に、定期的にアンダー 20のサイドと混同されていたジュニア オール ブラックスに取って代わりました。 「オールブラックス XV」は、マオリオールブラックスを利用(経由)する代わりの、オールブラックスを目標とするハイパフォーマンス(レベル)へ至る道筋に焦点を当て、(チームの選手に)国際的なシーンでプレーするための機会をより広く提供します。

 上記の記述に加えて、マオリオールブラックスが過去に他国の準代表と対戦したことはなく(ただし、正式代表であっても、例えばRWCでA・Bの2チーム構成とする場合があるように、相手チームが常に国代表のフルメンバーであったわけではないが)、常に「NZを代表するチームとして対戦した」という記述が、マオリオールブラックスに関する説明文にある。

 また、10月11日の「all blacks.com」は、オールブラックスXV監督のレオン・マクドナルドは、オールブラックスXVの役割の一部を以下のように述べていると紹介している。

He was confident they would have the time to mould a culture. It was something the Maori All Blacks did all the time, and he would have Clayton McMillan in the coaching group to help in that area.
(グーグル翻訳を参考に和訳を作成)
彼(マクドナルド)は、(チームとしての)文化を形作る時間があることに自信を持っている。そうしたことは、これまでにマオリオールブラックスがいつも行っていたことであり、彼は(マオリオールブラックス監督経験者である)クレイトン・マクミランをコーチンググループに加えているので、そうした文化形成の分野で助けてもらえるだろう。

 
 さらに、10月14日、インターネットのラグビーサイトであるRugby Passのオピニオンは、オールブラックスXVについて次のような興味深い記事を掲載した。それによれば、今回オールラックスXVに選ばれたCTBレヴィ・アウムアは、かつてのナガニ・ラウマフィーのようなフィジカルに強いCTBなので、イアン・フォスターが探している選手の候補となっている。また、今シーズンのスーパーラグビーパシフィックにモアラパシフィックが参加し、そこでアウムアが良いプレーしたことで、今回フォスターらに見いだされ、オールブラックスXVに選出されるチャンスを得た。

 この結果、アウムア自身はオールブラックスに選ばれる可能性が出てきたが、一方でサモア及びフィジー代表になる資格を持っており、またオーストラリアに居住しているので、ワラビーズになる可能性も持っている。そのため、将来オールブラックスのみにとどまらず、どこかの国の代表入りするだろうと述べているが、以下の太字で強調した部分で、「NZ協会は、オールブラックスXVがオールブラックスに次ぐ準代表チームという認識を意図的に避けた」、「これはラグビーパスが世界ラグビー協会に確認したことである」、「それは、オールブラックスXVに選出されることで、他国の代表入りへの道を閉ざさないためである」と付言している。

Aumua’s eligibility won’t be captured by playing for the second-tier NZ side because New Zealand Rugby have intentionally avoided designating the All Blacks XV as their ‘next senior fifteen-a-side National Representative Team’ – as confirmed to RugbyPass by World Rugby. That means Aumua could still decide to play for Samoa or Fiji in the future.
(グーグル翻訳を参考に和訳を作成)
ワールドラグビー(WR)がRugbyPassに確認したように、ニュージーランドラグビー(協会)は、オールブラックスXVを「次のシニア15人制代表チーム(注:準代表)」として指定することを意図的に避けたため、Aumua(アウムア)の(代表になるための)資格(規定)は、ティア2相当(注:準代表)となるNZサイド(注:オールブラックスXV)でプレーすることによって、(NZ代表資格を自動的に)付与されることはありません。つまり、アウムアは将来、サモアまたはフィジーでプレーすることを決定(選択)できるということです。

 つまり、NZ協会は、他国代表入りを制限しないことを目的として、敢えて準代表チームはどれかを認定しないようにしているということだ。そしてこのことは、WRが確認していることであることから、NZ協会からWRにわざわざ申告していると推定できる。

 以上から考えれば、NZ協会にとって、今回のオールブラックスXVもマオリオールブラックスも、いずれも準代表チームとはみなしたくない。そして、そもそも他国のような・・・Aというような準代表チームは、敢えて(他国代表への道を残すためにも)恒常的に作らないということになる。これは不思議なように思われるかも知れないが、NZ協会のこれまでの経緯を鑑みれば、それが正確に反映されていると思われる。

 こうしたことを勘案すれば、以下のようにまとめられると思う。
(1)マオリオールブラックスは、オールブラックスができる以前は、NZネイティヴ(NZマオリ)として、NZ(国)を代表するラグビーチームであった、
(2)その後オールブラックスができてからも、マオリの代表チームかつ(別の)NZ全体を代表するチームとして、他国代表と対戦してきた、
(3)そのため、NZを代表するチームは、オールブラックスとマオリオールブラックスの2チームであるとも言える、
(4)他方、オールブラックスに選ばれる道筋として、マオリオールブラックスでプレーした後にオールブラックス入りする事例が多々あった。一方、例えばジュニアオールブラックス(毎年結成されていない)でのプレーを経てから、オールブラックスに入るという道筋は確定していなかった上に、U20(20歳以下代表、昔はU19やU21というカテゴリーもあった)チームでプレーした後にオールブラックス入りする事例もあった。近年は、もともと準代表チームでのプレーが代表入りの必要条件ではなかった一方で、昔はよくあった州代表レベルから直接オールブラックス入りすることがほとんどなくなったが、新たにスーパーラグビーチームでプレーした後にオールブラックス入りする事例が多数を占めている。
(5)以上の観点から、マオリオールブラックスを正式な「NZ準代表」と言い切ってしまうことには無理があるが、「その後オールブラックスになる選手を輩出したこと、及びNZに来る外国代表チームに対して毎回必ず対戦してきたことから、歴史的に準代表チームとしての役割を果たしてきた」とみなせると考える。

 今回のオールブラックスXVが、これからも毎年結成されるか否かは不明だが、マオリオールブラックスはほぼ毎年結成されている(注:2020年は新型コロナウイルス感染もあり試合そのものが制限されたため、国代表チームとの対戦はなく、モアナパシフィックとの記念試合用として唯一結成された)。もし、オールブラックスXVが毎年結成されれば、当然準代表に相当するステータスを維持することになるが、そうでない場合は、マオリオールブラックスがその役割を果たすことが続くと思われる(もちろん、過去の歴史的経緯に関する表現には、「準代表とみなせる」という表記は引き続き可能であろう。また、NZ協会が正式に準代表を認定しないのであれば、「準代表とみなせる」という表現のみが可能となる)。

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