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銭湯日記⑤ 住宅街の中のアナロジースチームサウナ 〜大黒湯〜

 高校時代の友人と久々に会うことになった。
 この年齢ともなると、迂闊に異性の友人と会うこともできない。数年前ならば何の気無しに会うことができたにも関わらず、結婚だの恋愛だのという制約によって、気楽に会いにくくなるのは、歳をとるにつれ仕方がないとも思いながらも寂しくも思う。

 目的地は代田橋のプリンの有名な店であった。比較的近所に住んでいるにも関わらずそんなことは露知らずの私よりも、遠方に住んでいる友人の方がアンテナを張っているということだろう。
 代田橋駅から歩き、その店「バターマスターLiving Room」に着いたが、見事なまでの盛況ぶりで行列ができている。5月とはいえ炎天下、並ぶのを早々に諦め、駅近くの「スリーコンカフェ」に入る。
外観はどの街にもありそうな普通のカフェで、フラリと入ってしまったのだが、ここのフルーツサンドは実に美味である。
双方の最近の生活について雑談をしていると、なぜか高校近くにあったパン屋のパンの味を思い出した。

 友人と別れたのはまだ日も高い夕方である。代田橋といえば、随分前に訪問しようとして、休業日だったために未踏になっていた銭湯があるので、再び先程のプリン屋の方へ足を伸ばす。

「バターマスター」の少し奥を住宅街のほうに折れると、三角屋根の銭湯の建物が見えてくる。大黒湯である。


 外観は思っていたよりもコンパクト、背後にスチール製の煙突が見えている。歌舞伎文字の屋号看板と、隣接しているコインランドリーのレトロフォントの看板が、絶妙なギャップを与えている。


 玄関を入ると小さめのロビーとフロントがある。ロビーには銅板か何かに描かれた、ミニサイズのペンキ絵が飾られている。

 脱衣所に入ると、古くからありそうな小さめのロッカーが並ぶ。ロッカーは明るい黄緑色。男女湯壁面の壁は可動式のようで、男女湯の壁を払い広く使うこともできそうである。天井は水色に塗られて二重天井で、スポットライトなどが嵌まった特徴的な見た目である。

 夕方の日が差し込む浴室に入ると、中島盛夫氏の富士山のペンキ絵が目に入ってくる。一年前に描きなおされたようで他の銭湯よりも絵がクリアな印象である。ペンキ絵下には広告用の枠が残っているが、現在は使われていないようである。
 浴槽は、バイブラとジェットバスのシンプルな構成である。ここのお湯は薪で沸かしているらしいが、かなり熱めのお湯である。
 また左手前には、スチームサウナ室がある。箱の中に置かれたシャワーが熱湯を出して、その熱気でスチームを起こす原始的な構造のものである。このタイプには初めて入ったので侮っていたが、案外熱くなってくる。しかし他の客は誰も入ってこない。追加料金は50円なのでお得だと思うのだが。

 風呂上がりにフロントで話を聞くと、ご主人が詳しく話をしてくれた。現在のご主人は2代目、創業から約70年だという。70年前のこのエリアは、まだ環七もなく、水道道路の下を淀橋浄水場へと水が流れていたことだろう。
 ご主人の祖父が富山出身だということなので、銭湯経営者に北陸生まれが多いという例に初めて遭遇した。スポットライトや装飾が特徴的な脱衣所の天井は、先代の1代目が改装したようで、同時期に古くからの番台をフロントにしたらしい。また昨年ペンキ絵を塗り替えた際に、ロビーにかかるミニサイズペンキ絵も描いてもらったのだという。

 そんなお話を聞いている間にも、入浴客は途切れることなくやってくる。土曜日の夕方という行きやすい時間ということもあるだろう。反面、客はほとんどが男性客で、女湯側は少し静かな印象である。
 貴重な話を聞いているうちに、外は徐々に暗くなってきた。ご主人、女将さんに御礼を言い、初夏の夕方の街へ出た。本来であれば、近くの沖縄タウンの居酒屋にでも寄っていきたいが、風呂上がりの気持ち良さで永福町までのんびり歩くことにした。

 途中の高台からは綺麗な夕焼けが見え、高校近くの公園で過ごした学生時代の夕方を思い出した。

①大黒湯・杉並区和泉・2019.5訪問
②左:男湯、右:女湯
③妻入
④スチール製トラス型
⑤フロント型
⑥木札型
⑦カラン18・シャワー18
⑧ジェットバス、バイブラ、サウナ

それでは、良き湯時間-yujikan-を。

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