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Sushiも寿司?

 表紙の画像は、僕がアイルランド留学時に食べた寿司だ。見ての通り、我らが日本オリジナルの寿司とは全く異なる。
 揚げてるし。ソース掛かってるし。
 でも、滅茶苦茶美味しかったよ。
なんなら、美味しすぎて通い詰めた程だった。寿司のお酢の味と中のサーモンの繊細な味わいの組み合わせの周りを守る衣と、油。寿司の優しさとジャンキーな味わいが妙に癖になり、僕は何度も食べに行った。

 僕がそのお店を知ったのは、ブラジル人の友人と食事に行ったその日だった。まず彼と僕はダブリンの有名な日本食レストラン”Kokoro”に訪れ、席についた。しかし、メニューを見た時にあまりの高さに二人して仰天してしまい、少し考えた後にとりあえず他のお店に当たる事にした。
 豚骨ラーメンが13ユーロ(1700円程)、今思うとダブリンでは普通な価格帯だが、お金を守りたい僕等にとっては少し及び腰になる価格だった。
 そこで僕らはダブリン中心街のレストランを練り歩いた。少し立ち止まり色々なお店を調べていると、友人がスマホに映る一つのPDFファイルを見せてきた。
Brazilian Sushi.
 そうでかでかと書かれた一枚のチラシにはメニューが記載されており、その中に細巻き15個で5ユーロという破格の寿司が目についた。それを見た彼は歓喜し、「おいここに行こうぜ!なぁ!」と僕に言った。

ブラジリアン寿司って……?
想像が全く出来なかった。少しの疑問もありながら、彼に引き摺られてブラジリアン寿司屋へと向かった。

 ダブリン一番の飲み屋街、テンプルバーにそのお店はあった。一階は別のレストランがあり、二階にひっそりとお店を構える奥ゆかしさは少々日本的な気もしなくもない(いや、全然違うが)と思いながら入店した。僕らは目当ての5ユーロの寿司を頼み食べた。
見た目や味は上に書いたとおりだが、思った以上の美味しさだった。
 カリフォルニアロール等の所謂Sushiは食べた事がない僕にとって黒船来航並みの衝撃だった。
 信じて送り出した娘が彼氏の趣味に染まりきった見た目だけど存外素材をいい感じに活かしてて滅茶苦茶似合ってる感じもある。
ソースもブルドッグソースを使っているのか、どこか日本らしくて、寿司かと言われると「らしい」味だ。
 
 周りの日本人にも教えたところ、みんな気に入った。なかなか美味しいのだ。ブラジル人の友人も、完全にハマったようだった。
「これって日本の寿司と一緒なのか?」
そう聞かれたとき、僕は否定した。だが、いいアイデアでとても美味しい寿司だった。逆輸入しても良いんじゃないかとすら思う。


 最近はTV番組等で、日本の伝統的な文化を海外に示して優越感を感じる様な企画を目にする事も多い。自分たちに合わせてアレンジした物を否定するその姿勢は、低俗さに呆れ返るばかりか、もはや恥そのものだ。日本文化も中国からの文化流入や影響あってこその物だった訳で、完璧なオリジナルは自然的要因に基づいた資源や環境要因に創られる根源的な物や超然的な思想であり、それが積み上げられて出来上がる繊細な文化である筈はない。
 
寿司だろうとSushiだろうと、「良い物」であるなら「それで良い」と僕は思う。

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