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アーティゾン美術館のはなし

去る7月末日、京橋のアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)へ行って来ました。前回、自分用メモで残した行きたい美術展備忘録にもちょろっと。
緊急事態宣言明け2ヶ所目の美術館遊びだったのだけど、スーパーウルトラ楽しかったので、みんなとシェアハピします!

現在アーティゾン美術館では3つの展覧会が同時開催中。
『Tomoko Konoike FLIP 鴻池朋子 ちゅうがえり』ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子
『Cosmo-Eggs 宇宙の卵』第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展
『石橋財団コレクション選』新収蔵作品特別展示 パウル・クレー、印象派の女性画家たち

会期は3展とも2020年10月25日(日)まで
休館日:8月11日(火)、9月23日(水)
チケットは日時指定予約制でウェブから購入(入れ替え制ではない)
料金:大人1,100円
※なんと!大学生・専門学生、高校生は無料(ただし予約必要、中学生以下は予約なしで入場無料)
ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ、当日券販売有り
そして有難いことに、日時指定変更が1回のみ可!
ありがたい~!

3展すべて一枚のチケットで観られるの、本当に素晴らしい。
内容も個人的には100点を超え、3000点って感じだったのでこれを読んだ人は全員行ってほしいくらいです。
私が行った日は、平日だったのもあってか、空いていて大変見やすかった。
混んでいない美術館ラヴ。

それでは各展示について、アートの知識ゼロの人間がただただ感想を書き殴るの始めますね。

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子『Tomoko Konoike FLIP 鴻池朋子 ちゅうがえり』展

鴻池朋子さんのことは全く知らなかったし、行きたい美術展を探していた時にはそんなに惹かれなかったのだけど、3展の中では一番良かったかもしれない。というくらいガツンとくらった展示だった。

「ジャム・セッション」は石橋財団コレクションと現代美術家の共演をテーマにした展覧会らしく、記念すべきシリーズ第1回が鴻池朋子さんとのこの展示。
普通は作家の作品だけを展示すると思うのですが、その中に石橋財団コレクション収蔵作品から作家が希望する作品を展示の中に組み込むというコンセプト。攻めている。クール。
ちゅうがえり展では3つの作品が選出されています。
展示場所や方法はもちろん、おそらくですが何点選ぶのかも作家が決められるのではないかと。
これはネタバレですが、鴻池さんは自分で選ばず学芸員?キュレーター?の方に選んでもらったそう。この辺りのお話も展示されているので、続きはぜひ観に行って欲しい!

古い(という言葉が適切かは分からないけれど)作品と作者が存命の現代美術の作品が同じ空間の中で展示されることで生まれる、作品の新しい価値、作品への新たなまなざし、に鑑賞者が気付くキッカケになるような素敵なコンセプトだと感じた。

個人的には通常の展示のキュレーション方法が、図書館のような日本十進分類法だとするとジャム・セッションはTSUTAYAみたいなイメージ。
シリーズ化していくようなので今後のジャム・セッションにも期待が高まります。楽しみ。

鴻池朋子さんの作品は写真撮影が基本的にOKだったけれど、私はほとんど写真を撮らずに終わっていた。(これは3展ともに共通していたけれど)
作品説明の文章をつい撮ってしまうので今回もその辺りは撮影し、特に気に入った数点をおさめて、あとは展覧会そのものに没入していた。

絵やインスタレーション、ミクストメディア、映像メディアなど、作品自体はザ・現代美術といった感じ。

広い空間を作品の種類で細かく区切る、というよりは吹抜けの中に全てが、最初からその場所でその位置関係であったかのように、しっくりと納まっている展示のされ方だった。
もちろんコーナーごとにテーマがあるのだけど、それは常に全体へと接続されている、地続きで繋がっているような。

会場の暗さと冷房の寒さが去年のボルタンスキー展を想起させた。
ちゅうがえり展も少し怖い、鳥肌が立つような緊張感がある展示だった。
無防備な魂が生命の力強さに晒された気分。
死の香りもあれど、それ以上に生の生々しさ。
ライオンキング風にいうとサークルオブライフ。

あとはナラティブアプローチのような語ること、語られ、紡がれることへのリスペクトを感じる作品もあった。
鴻池さんは、語りという目には見えないものを手芸というツールを使って可視化し作品にしていたのですが、手芸に対する彼女の芸術観もとても興味深かった。

個々の作品についてあまり言及せずに、感想を伝えるのって難しい。
この『鴻池朋子 ちゅうがえり展』はなるべく事前情報を入れずに鑑賞するのがオススメだと勝手に思っています。

芸術鑑賞の方法や態度については色々な考え方があると思うのだけど、ひとまず見て・感じてから彼女のこれまでの作品や思想に触れていっても良いのかなと感じた展示手法でした。
で、鑑賞し終え一通り学んでからもう一度観に行きたくなるそんな美術展。

第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展『Cosmo-Eggs 宇宙の卵』

事前の情報収集から楽しみにしていた展示。
期待を裏切られることなく、最高の鑑賞体験でした。

「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」は、キュレーターの服部浩之を中心に、美術家、作曲家、人類学者、建築家という4つの異なる専門分野のアーティストが協働し、人間同士や人間と非人間の「共存」「共生」をテーマに構成されました。本展は、ヴェネチアでの展示をもとに、アーティゾン美術館の展示室にあわせて再構成するものです。映像・音楽・言葉・空間の4つの要素が共存するインスタレーションに、ドキュメントやアーカイブなどの新たな要素を加えご紹介します。(HPより引用)

ヴェネチア・ビエンナーレの日本館(ヴェネチア・ビエンナーレは万博みたいに各国パビリオンが設置されている)が石橋財団の創設者である石橋正二郎さんのポケットマネーにより建設寄贈されたらしい。すごい。
そしてありがとう、石橋正二郎さん。
そういう経緯もあり、2019年に開催されたヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展が実現したらしい。
あらためてありがとう、石橋正二郎さん。

川崎重工の松方さんしかり、ブリヂストンの石橋さんしかり、アートを集めたり支援したりしてくれる実業家のみなさん本当にありがとう。
後世の何の変哲もない私が日本にいながらにして素晴らしい芸術作品を鑑賞できるのはお金も心意気も持ったあなた方のお陰です。多謝。
某ZOZO澤さんに私が唯一、期待と希望を持っているのはこれからもたくさんアートを蒐集し、死んだ後はその素晴らしいコレクションたちをどうか世の中にシェアして欲しいということです。
今の日本でそれが出来るのはあんただけだよ!お金配るのも好きにして良いけど、そっちの方もよろしく頼むよ!と思っています。(身勝手)

実際のヴェネチア・ビエンナーレ日本館での展示室を90%のサイズで再現している展示室を中心に、それらの作品が出来上がるまでの各作家の作品作りや展示までの経緯を追体験できる展示だった。
裏話的な。

実際の建築物は鉄筋コンクリート造だけれど、美術館の中に展示室を再限しているので、素材が変換された上で新たに構築されているのが興味深い。
時間や場所を越え、素材や展示物の言語が一部変換されているけれど同じ内容の同じ展示。
芸術作品とは、芸術とはなんだろうか、と真っ直ぐに問われている気がした。

この展示も自由に写真撮影ができたけれど、なぜか私はメインの展示室ではスマホのカメラを起動する気が起きなかった。
展示室の中で静かに音楽に耳を傾け、作られた神話を反芻し、中央のソファのような救命ボートのようなバルーンに座り、空気の中へ沈んでいると、とても神聖な気持ちになった。
行く人にはぜひ中央の卵の黄身みたいなオレンジの膨らみに座って欲しい。

人間同士や人間と非人間の「共存」「共生」をテーマに構成された展示ということだったけれど、先に観た鴻池朋子さんの展示からも似たようなテーマ性を感じた。

今、生きている私たちにとって「自然との共存」「異なるものとの共生」は避けられない命題なのかもしれない。
地震や津波、豪雨といった自然災害から障害、性的マイノリティ、在日外国人など。今はかつて見えにくかったものがクリアになってきている時代なんだろうと思う。
別にここに挙げただけでなく、そもそも人間は自分以外の他者はみんな異なる存在な訳で。
それを都合よく、分かりやすく、ラベリングしていくから大きな断絶が生じているように錯覚してしまうけれど。
この世界で生きていくのは「共存」や「共生」は当然の生き方だよな、と。

世界中で蔓延している疫病も期せずして、そういう生き方を深く意識させる働きを担っている気がしてくる。
まぁ人間は、そして私は特に、偶然から必然性を見出したくなるのでそう感じているだけかもしれませんが。

『石橋財団コレクション選』           新収蔵作品特別展示 パウル・クレー、印象派の女性画家たち

アーティゾン美術館はオーディオガイドがなんと自分のスマホから聴けます!!!すごい。ありがたい。(その代わり?貸し出しはなかった)
アプリをダウンロードし、Bluetoothを接続すると使えるらしい!
ちなみに私はイヤホンを持ち歩かないタイプなのでオーディオガイドを聞けませんでした。やっちまった。

みなさんはぜひイヤホン持参でスマホorタブレットの充電もバッチリでぜひ臨んでください。

アーティゾン美術館では、4階展示室にて「石橋財団コレクション選」と題し、2,800点余りからなる収蔵品の中から優れた作品を選んでご紹介してまいりますが、その一角に「特集コーナー展示」を設け、毎回異なるテーマにより収蔵品に新たな光をあてる企画展示を行ないます。2020年は2期に分けて展⽰しますが、第1回は6⽉23⽇(⽕)〜2020年10⽉25⽇(⽇)まで「新収蔵作品特別展⽰:パウル・クレー」と「印象派の⼥性画家たち」を、同時開催します。(HPより引用)

新収蔵作品特別展示 パウル・クレー

パウル・クレーの作品は25点、展示されているのですが(展示順は終盤の方)、そのうちの24点が個人のコレクターが所蔵していた作品たち。
寄贈してくださり本当にありがとうございます。
すごすぎんか。一体何者なんだこのお方は。

私は《守護者(Protectress)》1932年、《守護者のまなざし(Glance of a Protective Woman)》1926年という二つの作品のポストカードを買いました。お気に入り。

クレーの絵は別に特段好きというわけではなかったんだけど、好きだった人が好きで、気が付いたら私も好きになっていた。
好きな人からあからさまに影響を受けている。ウケる。
どこがどんな風に好きかというと、丸っこさと色のふわふわした感じ。
あと谷川俊太郎さんがクレーを好きで、詩を書いているのですが、それも相まって好き。
私の中ではパウル・クレーの絵は詩のイメージ。

印象派の女性画家たち

ブリヂストン美術館からアーティゾン美術館へと新たに開館するにあたり、印象派を代表する4人の女性画家の作品を5点コレクションに迎えたことから組まれた特集とのこと。
メアリー・カサット、ベルト・モリゾ、エヴァ・ゴンザレス、マリー・ブラックモンの4人。
美術知識ほぼゼロの私が唯一知っていたのはモリゾだけだった。
そして恥ずかしながら、正直に告白すると、モリゾ自身も作家だったのを知らなかった。耳にしたことはあったかもしれないけれど、全く記憶に残っていなかった。マネのあの黒い服を着た女性という認識でしかなかった。

今回の女性画家たちにフィーチャーした特集のお陰で19世紀に活躍した素晴らしい女性の芸術家の存在を知ることが出来たので良かった。
そして無意識に女性芸術家の存在を無視していた自分の中のミソジニー的な部分にも気付くことが出来た。

印象派が当時のフランスの伝統的な美術の慣習や技法・主題などに疑問と不満を感じ、新たな美術を生み出そうとしてくれたからこそ、女性の立場が十分に尊重されていなかった時代に女性作家たちを迎え入れる気風があったのだなぁ。

現代の美術界において女性の芸術家が男性の芸術家と対等な立場といえるのかは鑑賞者の私にはなかなか見えないけれど、被写体としてのミューズと作家、コミュニティや流派を運営する権力を持つ人間とそれに属する人間など関係性の非対称性が生み出すハラスメントは後を絶たないように感じる。

印象派の女性画家たちはもう声を持たないけれど、現代に生きている作家からは声を聞くことができる。
アートを巡るあらゆる環境が昨日よりも今日、今日より明日と誰にとっても安全で敬意に満ちた空間になっていくことを一鑑賞者として切に願っているし、必要だと思えば声を挙げたり、声を挙げた人をサポートしていきたいと思う。

そんなことを考えた展示だった。

石橋財団コレクション展では雪舟の《四季山水図》、ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》、アルフレッド・シスレー《サン=マメス六月の朝》が特に好きでした。

アーティゾン美術館について

そして最後にアーティゾン美術館についていくつか。

建築・デザインともに非常にスタイリッシュかつ開放的で素晴らしい美術館だったと思ったので。詳しいことは上のリンクに貼ってあるので興味のある人はぜひ。

展示の動線はまず3階で、入場しそのままエレベーターで6階へ。
そこから5階、4階へと降りていく。スムーズな移動が嬉しいし、もちろん再度展示を観に戻ることも可能。
トイレなどの表示のピクトグラムも可愛い。オリジナルらしい!

4階と5階にはView Point(名称は忘れてしまった)のような廊下がありそこから光をたっぷり感じることができる。
現在は隣のビルが絶賛工事中(建設なのか解体なのかは不明)なので、工事現場フェチの私にはたまりませんでした。ビルが建ったらどうなってしまうのだろうか。気になる。

あと今年2020年1月に開館したばかり、かつ緊急事態宣言でほとんど稼働していなかったのもあって単純にとても綺麗。

そしてミュージアムスタッフの制服がユニセックスな感じでかっこいい。現代美術の美術館のような自由さがある。
国立新美術館でやっていたMIYAKE ISSEY展もスタッフの制服がかなりかっこよかったけど、それに近しいかっこよさがある。
(展示室内で巡回しているスタッフはスーツだった)


改修工事のニュースを知った時にはブリヂストン美術館からなんで名前変えちゃったんだろう~アーティゾン美術館ってなんや~とか思っていたけれど、実際に訪れてみたらアーティゾン美術館最高!となりました。

伝統と革新。変化をおそれないって生きていく中で大事だね。

3展示どれも本当に素晴らしかったので、機会があればぜひ行って欲しい。そして何が面白かったか、どれが好きだったかお話しましょう。

サポート…!本当にありがとうございます! うれしいです。心から。