生涯猫派 犬を飼う ①
19歳の時、家の前の道路で死にかけの子猫を拾った。
遠目には死んだネズミに見えたその子は、近寄るとかろうじて息をしていた。しかし、こびりついた目やにで両目がふさがり、自力で動くことはできなかった。
母猫はすぐそばにいた。
かいがいしく他の子猫たちの世話をやいているのに、死にかけのその子には見向きもしなかった。母猫はその子を見捨てた。
片手に乗せてもまだ余るほど小さいその子を家に連れて帰り、翌日獣医に連れて行った。
しかし、獣医さんは私に告げた。
「かわいそうだけれど、この子はたぶんもう生きられないと思うよ」
生涯小柄で怖がりだったが、ミューは19歳まで生きた。
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わたしは自由が好きだ。
人に頼られることも、BFFみたいな友情も苦手だ。
もちろん、友達と遊ぶことは楽しい。
が、基本的に協調性がないし、マイペースだ。
早起きも嫌いだし、ルーティンのある「ちゃんとした生活」を送れる自信もない。
だから猫を見てるとうらやましくなる。
日がな寝て、好きな時に起きて、たまに甘えて、また寝る。
自分の世界の中ですべて完結。
煩わしい人間関係もない。
そのくせ体はしなやかで、みとれるほどに美しい。
音も助走もなくひょいっと垂直に跳び上がり、お気に入りのスポットで足をピンと伸ばして、つま先まで丁寧に体をグルーミング。
「飼い主なんて気にしてません」
みたいな態度を取るくせに、時たまのどを鳴らしながら足元に擦り寄ってくる。これがいかんせん猫好きの心を掴むのだ。
猫もツンデレだが、猫の飼い主もたいがいツンデレさんだと踏んでいる。
基本的に自立しているので、留守番もへっちゃらだし、餌と水さえあればあとは勝手にやってくれる。
家族というよりルームメイト、同居人に近いのが猫、とわたしは思っている。
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さて、ミューの次に出会った猫は、シェアハウスにいた太郎だ。
カナダの野良猫生存率は低い。
冬が寒いことと、クマやアライグマといった野生動物がいるので単純にサバイブできないというのが一番の理由だ。
そんな厳しい環境の中、家から家を渡り歩くというレアな生き方をしていたのが太郎だった。
シェアハウスの取り壊しが決まってから引き取ることになり、太郎とは14年間一緒に暮らした。
この子は、出会った時から人間のわたしが見習いたくなるほど肝の座った猫だった。
他の猫に威嚇されようが、アライグマに囲まれようが動じない。
が、頃合いを見計らって距離を詰める。
詰め寄られた相手はしっぽを巻いて退散だ。
かと思えば気に入った子ができると
「ここ、俺んち。あがれば?」ってな感じで
猫友達を連れて帰ってくる。
主張も上手、狩りも上手(これは困った)。
でも、人間が泣いているとちょこんと横にきてくれる。
猫は9回生まれ変わるという。
太郎は間違いなく9回目の転生で、次は絶対人間になるはずだ。
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その太郎が19歳で天寿を全うしたあと、しばらくペット不在の時期が続いた。というのも、娘と息子が犬を飼いたい!と騒ぐので、太郎のあとに猫を飼うつもりはなかったのだ。
なかったのだが、これも運命か。
青い瞳が美しいシャムの子猫姉妹に出会ってしまった。
とある夏に大規模山火事があり、被災地で保護された保護猫だった。
飼うつもりなかったのに!
こうして、我が家の娘っことなった、ステラとソフィー。
これからも出番が多いであろうステラとソフィーの話はまた今度。
と、まあ、ここ20年は猫とともに歩んだ人生だった。
だが、娘と息子には犬を懇願され続けていた。
うーーーん。犬って、、、、大変だよね。
散歩やお世話もそうだし、しつけもだし、なんといってもあの犬のキラキラした愛情をしっかり受け取ってあげられるかなあ。
猫飼いは他の猫飼いと猫トークで盛り上がることはあっても、猫同士を遊ばせたりすることもないし、人の家の猫のしつけがどうとか関係ない。
だけど、犬はソーシャルな動物だし、犬を通して築く人間関係も避けられなそうだ。なんだか面倒だしできる自信もない。
社交性が欠けているのは自覚しているが、それを誰にも求められない気楽さが生涯猫派を自称する所以でもあるのだ。
が、しかし。
そんなわたしが犬を飼うことになるのだった。
つづく
*タイムラインを現在に合わせられるまで、しばらくこのシリーズで書いてみようと思います。
#猫のいるしあわせ
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