優衣羽(Yuiha)

作家・シナリオライター 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のそ…

優衣羽(Yuiha)

作家・シナリオライター 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のその先で、」など、翻訳含め7冊ほど出版させていただいております。 お仕事連絡こちらまでよろしくお願いします。→yui10yuiha07@gmail.com

マガジン

  • 元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

    作家による日記風エッセイ

  • 短編小説まとめ

    作家、優衣羽の新規短編小説を載せる場です。気ままに更新。

  • 既刊作品の小さなお話

    既刊作品の小話などまとめ。たまに追加。

  • 僕と君の366日の嘘

    僕と君の365日のアナザー版です。Webサイトに投稿していたものを加筆・大幅修正し同人小説として出した作品です。※本にはあとがきが収録されておりますが、こちらには収録されていません。

  • 作家の気まぐれグルメレポート

    時折のご褒美飯をレポート。気ままに更新。

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優衣羽のポートフォリオ

はじめまして、作家・シナリオライターをしております優衣羽です。 お仕事情報は随時更新します。 自己紹介 書籍 2019年3月『僕と君の365日』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々 2020年4月『紅い糸のその先で、』(KADOKAWA/角川文庫) 装画:和遥キナ 2020年8月『さよならノーチラス 最後の恋と、巡る夏』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々 2020年12月『このラブレターが、君の所に届くまで』(KADOKAWA/角川文庫) 装

    • 積み重ねてきた時間が今を作った人を知っている

      努力が嫌いだった。理由は簡単、頑張ってもレベルが上がっても、いつだって認められなかったから。積み重ねてきた時間全てが誠実なわけではなくて。毎秒素直に真っ直ぐに頑張れるわけがない。 人前で苦痛の滲む顔を見せる必要はない。誰にも知られず裏で積み重ねればいい。だってパフォーマンスは必要ないんだから。けれどそれは、ある種自分の首を絞めたと思う。 少年漫画だって何度も挫折し苦しむ姿を見せて成長していったのに。だからこそ愛されるのに。人は結局、誰かが頑張っている姿を可視化されない限り

      • 初めて飛んだ日の事を、きっとずっと忘れない

        飛ぶ 大してお腹も空いていないのに、数時間後には絶対空くと思い食事した結果絶望的なレベルで腹を壊した。ああ、無念。私はいくつになってもドカ食い気絶が出来ないのである。 大量の食事を摂り血糖値が爆上がりしてそのまま寝る事をドカ食い気絶と呼ぶらしい。一度はやってみたいけれど、これが出来たのは恐らく小さな子供の頃まで遡る。その後の人生は簡単だ。許容限界を越すと確実に腹を壊す。悲しきかな。満足感を抱きながら眠りにつく事は出来ないらしい。 ところで全然関係ないけど仕事用のPCばっ

        • 濡れている方が好きだなんて嘘だよ

          濡れた肩の分だけ 「雨だ」 最初に言ったのは誰だろう。騒がしさが静まり、教室にいた人間は窓の外へ視線をやる。 灰色の空から降り注いだ滴が透明な硝子にひとつ張り付いた。またひとつ、ぽつぽつと張り付くそれに窓を閉める。 「もう梅雨入りしたんだっけ」 前の席の友人がスマートフォン片手にこちらへ身体を向けた。 「さあ」 席に着き頬杖をついた。折り畳み傘持ってるっけ、なんて他愛ない話を続けていると、友人はスマートフォンから顔を上げる。 「それで、どうなの?」 にんまり

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        • 元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い
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          17本
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          6本
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          10本
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        • 作家の気まぐれグルメレポート
          2本
        • 140字小説を小説にしてみた
          4本

        記事

          石を穿った雨垂れが、涙だと他人は気づかない

          削れるのはどちらか 雨垂れのような小さな滴でも、長い時間をかけて落ち続ければ岩にも穴があく。例え小さな事でも根気よく努力し続ければいつかは成功する事を言うことわざだ。 逆を言えば、どんな物事も突然落ちてくるラッキーは無く、小さくとも人から気づかれずとも続けない限りは成功しないという意味でもある。 そんな事は当たり前で、努力は続けない限り身にならず、続けた所で成功するわけでもない。人生は物語ではないから、必ず訪れるハッピーエンドなど存在せず、無駄撃ちするような日々が続く事

          石を穿った雨垂れが、涙だと他人は気づかない

          ルーティンワークに欠けた何か

          生活は続く PM6:30 仕事終わりにスーパーへ行く。 PM7:00 帰宅。 PM7:30 夕食。無音。 PM8:00 自由時間。ソファーに横たわりテレビを眺める。 PM9:00 シャワー。髪を乾かす。 PM10:00 晩酌。缶ビール片手に明日のゴミをまとめる。 PM11:00 スマートフォンをつけては消す。飲み終わった缶をシンクにひっくり返す。 AM0:00 温かい飲み物を飲んでベッドに寝転がる。 壁側は一人分空いたまま。 決められた行動、決められた日々、変わり映えし

          ルーティンワークに欠けた何か

          焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

          チョコレートが焼けた香りに、思い出は助長される 幼馴染と言われるような関係性の子がいた。誕生日は二日違い。近所の公園で出会ったその子は、瞬く間に一番の友達となった。 同じ幼稚園、何度も遊んで当時の私にとって彼女は最初の友人だった。 違う小学校に行き、それでも低学年の間は何度か遊んでいた。中学生に上がり私たちは別の世界を歩くようになった。用があれば話すけど、関わりはまるで他人のよう。そういうものだと思いつつ、当時のようには戻れないと少しの寂しさがあった。 ともかく、彼女

          焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

          一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

          「いつか、」 雨の強い日だった。席に座る彼の背景に曇り空が広がっている。電気のついていない教室には私たちしかいない。灰色の空と薄青のカーテン、濃い緑の黒板が白い壁と汚れた床に反射して、青灰色の色彩を放っていた。 一歩。また一歩とそちらへ近づく。彼は私に気づき顔をこちらへ向ける。私は椅子を引っ張り机の横につけて持っていたノートを開いた。 「これさ、」 何を話したかは分からない。ただ、どこにでもあるような他愛ない会話。思い返せないほど当たり前であった日々の欠片。今となって

          一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

          唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

          君は僕の特別 誰かの何かになりたかった。唯一。替えの効かない存在。その言葉は酷く魅力的で、まるで月に手を伸ばすかのような感覚で求め続けた。 もがき、足掻き、苦しんで。誰かの何かになれない事に気づいた。自分はどこにでもいる何かで、替えはいくらでも効く、手は月に生涯届かない。 薄々気づいていた感覚が、脳天から直撃して脊髄を通り爪先まで充満した時、光のない場所で立ち止まった事を憶えている。無力感、世界へ唾を吐く感覚、降る雨は慈雨ではなく針のようにも思えた。 誰かの何かになり

          唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

          泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

          「泡になって消えちゃうらしいよ」 昔々、と言っても二百年ほど前。ハンス・クリスチャン・アンデルセンが残した物語の一つ。海の底で生きていた少女が地上に憧れ、一人に恋をし声を引き換えに足を得た。再会を果たすも想いは伝わらず、真実は変容し、恋のために少女は犠牲になった。 死んで献身的な愛が神の目に止まり、彼女は長い旅路に出た。天国に行くための、長い長い旅路。 「馬鹿げてるよねえ」 少女はきっと、どこかで地上に上がっていた。恋をせずとも、あの行動力で外の世界に出ていたはずだ。

          泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

          10年後には忘れてるかもね

          時間は残酷で時に優しくて、 忘れられない現実があった。いつしか思い出になり過去と化す。過去になるのが先か、思い出になるのが先かは、そこに込められた想いがあるか否かで変わると思っている。 思い出はまだそこにあって時折思い出しては懐かしむ気持ちが存在する。けれど過去は過ぎ去った時間だ。概念と心情。思い出す事が出来ても、想いが消えてしまった日にそれは過去になると、私は考えている。 消えると言うのも霧散するのではなく、水の中に溶かしたインクのように揺蕩い、その後濁った水が蒸発し

          10年後には忘れてるかもね

          海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

          深海を揺蕩う海月のような生物 クラゲという生物がいる。透明で水の流れに揺蕩っている、ゼリー状の生き物。ロマンチックを売りにしている水族館で、クラゲは絶対的なエース。LEDに当てられ透明な身体は色を変える。人は、色を変えるものが好きだと思う。クラゲしかり、四季も、グラデーションも。 ところでクラゲは漢字で海の月と書く。何で海の月なのだろうと調べてみれば、海に浮かぶ姿が反射する月のようだから、だそうだ。 確かに、水面に反射する月は薄いクリーム色さえ分からず、白くて透明で、ク

          海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

          潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

          波打ち際に残した足跡は消えてしまうけれど 絶望的な運動不足により数時間の移動で筋肉痛が起きた。階段上り下り、スーツケースを何度も持ち上げ右腕が死んだ。同時に、自分に対し死ぬほど引いた。 嘘でしょ?君、このレベルの移動で筋肉痛になるの?笑えないよ?人生まだ続くらしいよ?今からこれってやばいよ?冗談止めようぜ……? 東京の片隅、用が無いと外出せずただ何にもならない文章を書き綴る日々。足元から腐っていく感覚がした。茶色く濁った水のように心は色を変え、折れた花のように身体は崩れ

          潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

          この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

          東京を離れる。 それを決めたのはここ数ヶ月の話。2年住んだマンションの更新通知が来る前、転職してフルリモートになり、インターネットさえあればどこでも仕事が出来るようになった。何となく、ここにいる必要はないなと思った。 ここに住み始めたのは前に勤めていた会社から近かったから。ただそれだけの話なのだが、東京という街へ来て何となく、どんなもんかと考えていた節があった。 東京という街はとにかく利便性がよく、電車に乗ればどこへでも行ける。休みの日に話題のスポットへ足を運ぶのも簡単

          この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

          Paradise Regained

          薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。 かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手は斧を引きずりながら歩を速めた。崖の上に立つ小屋は石造りで外壁。崖の下に広がる海から吹く潮風によって隙間風が吹くようになってしまった。 小屋の前まで着いた時聞こえた大きな波音に扉を開けようとした手が止まる。薪と斧を投げ捨て、小屋の壁を伝い崖の先へ足を進めた。 海は荒れ白い飛沫は何百年も前に描かれた浮世絵のようだっ

          Paradise Regained

          Planetes

          彷徨う者たちへ 『アテンション、アテンション――プロジェクト・ノアが地球から離れて、本日で1252万8750年が経過しました』 『青き星は人々の度重なる愚行により息を止め、残された僅かな人類はこの 宇宙船に乗り、人類が住める土地へ向かうべく、長き航海を始めました』 『24万3750年、宇宙船内にいた人類の60%がティガーン星へ移住。文明は発達したかに思えましたが、信号が途絶え生命が消えた事を確認』 『216万4500年、船内にいた20%の人類がK2-18bに移住。高温