UXデザイン初歩。「ユーザビリティ評価」からやってみよう
ユウイチローです。今回は、UXデザインの中でも実践経験を積み始めるのに適した「ユーザビリティ評価」のお話をしたいと思います。
実践経験を・・と書いたのは、UXの説明記事の多くが、総論、抽象論になりがちがだと思ったからです。現場ではUXデザイナーって、ごりごりごりごり泥臭く仕事してるのに、いざUXデザインとは?を説明するととてもこぎれいにシンプルに総論を語っているケースが多いように感じまして。なので、できるだけ具体的にどう進めていくの?みたいなところを話せればと思いました。
ユーザビリティ評価って?
例えばWebサイトやアプリなど、ユーザーが使うモノの使い勝手である「ユーザビリティ」を評価すること。
Webサイトやアプリののユーザビリティテストでは、実際のユーザ(被験者)にそのサイトやアプリを使った目標やタスクを与えて、独力で実行してもらいます。
ユーザはタスクをクリアできたか
効率よくクリアできたか
不満はなかったか
を評価します。
実践のチャンスはけっこう多い
Webサイトやアプリの企画/設計/開発に携わっているなら、現行サービスの改善を行う案件は多いと思います。特にWebサイトは多いですよね。その時がユーザビリティ評価を実践するチャンスです。
そういった改善プランを提示するとき、うちの会社でもよく提案時に挟み込みますがアクセスログから判断しWebサイトの成果や状態をチェックして「こういう問題があるのでこう改善すべき」という提案は多いです。しかし、この話はデザイン思考の回にもしようと思いますが、具体的にWebサイトの何が問題か、その要因は何か、までは特定しづらいです。要因に確信を持つには、やはり実際のユーザーに評価してもらった内容は説得力が違います。
ユーザビリティ評価の手順
では実際どう進めていくのかという話。
①計画
②評価設計
③実査準備
④実査
⑤結果の分析
概ね上記の手順で行います。
今回のお題を仮に以下とします。
録画の方法が難しくてできないドラマ好きの60歳主婦。ある日楽しみにしている番組Aの放送を見逃した。有料TVチャンネルのオンデマンド配信サイトで見逃したAを視聴したい。
改善の対象はオンデマンド配信サイトですね。
順番にみていきましょう。
①計画
目的を決めます。
目的は、評価を行う背景と評価結果の活用法についてプロジェクト関係者で明確ににぎりあっておくこと。
例えば、
現状サイトの使いやすさを知りたい
というような大枠の目的があれば、それをもっと具体的に明確な言葉にします。以下のように
Webサイトのターゲットをサービス理解の少ないユーザーにまで広げたい。そのターゲットが使いづらいと感じた課題部分を4週間後に始まるサイト回収案件に活かしたい。予算は現状の要件定義での評価費用〇〇万円とする。
次に評価結果の活用法をはっきりさせます。求めるコンバージョンが得られそうでなければ何を改善すれば良いかを考える材料にする、など。
DM経由でサービスを利用開始できるか評価する
であれば、もっと明確にして
サービスを認知していないターゲットユーザーが、勧誘のDMを経由して配信サービスが利用できるか評価する。サービス利用しづらい要因があればそれを明らかにする。
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次に、簡易ペルソナを立てます。
ペルソナとはより個人を特定できるような具体的なターゲットユーザー像のことで、「60代女性」のようなざっくりした範囲のものではないです。
・田中郁代(60歳/女性/主婦)※架空の顔写真がある方が良い!
・モットー「わからないことは人に聞く」
・趣味:ドラマ視聴、カラオケ
・加入歴:半年 ・契約者:夫 ・決裁権:本人
・環境:リビング。TV内臓のHDDに録画したい。
・利用状況:自宅にいる時はほぼ見るが、たまに見逃した時は諦める。
・課題:見逃した回の番組を録画したいが録画の方法がわからなくてできないので、オンデマンドサイトで視聴したいが、ネットリテラシーがないのでできないでいる。
↑といった感じで、その製品を利用する人物の特徴・特性、ユーザーの仕事、環境などを記載します。
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続いて、日程・場所・担当・予算・被験者を決定します。
これは多くの業務と共通する項目ですね。誰が・いつ・どこで・いくらで行うかを決定します。被験者を呼ぶ場合、実施の2週間ほど前には探し始めるのが安全です。
②評価設定
まず、評価範囲を決めます。
評価目標が
サービスを認知していないターゲットユーザーが、勧誘のDMを経由して配信サービスが利用できるか評価する。サービス利用しづらい要因があればそれを明らかにする。
なら、その評価導線は
DM→有料TVチャンネルのオンデマンド配信サイトTOPページ→コンテンツ視聴ページ
などとなるでしょう。
Webサイトを設計する際は、コンバージョンと導線を考えます。コンバージョンとはサイトなどのゴールにたどり着くことです。
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次にタスクとシナリオを用意します。
被験者には、先ほどのペルソナと、シナリオ、タスクを前提条件として与えます。
シナリオ
何かと楽しみが増えそうだと思ったので有料TVチャンネルに加入して、半年が経つ。加入してから、大好きなドラマはほとんど無料のチャンネルで視聴できているし、有料チャンネルに加入してる意味はある?と感じていた。そんな時、有料TVチャンネルから「オンデマンド配信サービス」という新サービスを告知するLINEメッセージが届いた。今後も有料チャンネルに加入し続けるか迷っていたが、「ドラマの見逃し解消」のワードが目に入り、良さそうに思えた。
タスク
⑴DMを見て、「オンデマンド配信サービス」がどんなサービスかわかったら教えてください
⑵パソコンから有料TVチャンネルのオンデマンド配信サイトでドラマ〇〇第〇〇話を見られるようにしてください。DMを見ながらで結構です。
先の評価目標と照らし合わせ、オンデマンドサービス利用を開始するにあたってどのような問題があるかを評価できるタスクにします。
最後に、操作のシナリオを書きます。これは被験者には見せず、被験者がどこでつまづいたかを確認するためにUXデザイナーサイドで持ちます。
操作のシナリオ
オンデマンド配信サービスTOPページにて/「登録方法はこちら」をクリック
登録方法ページにて/有料TVチャンネルにご加入されている方をクリック→有料TVチャンネルオンラインIDをお持ちでない方のご登録はこちらをクリック
オンラインID 利用規約の確認ページにて/利用規約にチェック→同意するをクリック
登録情報の入力ページにて/オンラインID入力、パスワード入力、メルアド入力、・・
のような感じです。
この際、どのあたりでつまづくと予測されるかを事前に予測しておけば、観察の効率が上がります。
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続いて、進行・必要資材を決めます。当日の具体的な進行スケジュール、必要な資材、機材、場所の確保、人員などを決めます。1回あたり1時間〜1時間半ほどのタイムテーブルが目安でしょう。
会場、パソコン、ボイスレコーダ、ビデオカメラ
シナリオ、タスク、画面遷移、観察ポイント、進行表、被験者用の資料、NDAなどの同意資料などのドキュメント関連
模造紙、付箋などの記録媒体
会議室のドアに貼る注意書きや案内板など
③実査準備
進行、資材が準備できれば、社内の協力を得やすい人を被験者に例えて、必ずプレテストを行った方が良いです。
④実査
まずは設営をします。
被験者が緊張せず集中できるよう、UXデザイナーサイドは被験者の視界に入らないような位置にします。
会議室のデスクに資材とPCを配置、被験者とその隣にモデレータを座らせます。記録係は背後に座り、モニターでPCの内容を確認します。
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続いて被験者に概要の説明をします。
「テスト」「被験者」という言葉を使用するとユーザーは緊張するので、「Webサイトを使ってみる」「ユーザー」などと言い換えて話すのが良いですね。
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いよいよタスクを行ってもらいます。
まずはシナリオを伝えて、サイト利用の背景を被験者に理解してもらいます。背景によってユーザーの行動は変わりますので。
この時、正しい使用方法を連想するようなヒントは与えないことです。
また、サイト利用中に考えていることや思ったことをできるだけ口に出してもらう「思考発話法」を行ってもらうとよいです。想定外の使われ方をした時になぜそれが起きたのかをUXデザイナーサイドが理解しやすいためです。
それでもなぜその行動をとったか理解できない場合は、「なぜそうしましたか?」と被験者に質問するのがよいです。※聞きすぎには注意
観察した結果を記録します。
記録には「主観的記録」「客観的記録」があります。
客観的記録:操作画面や操作の様子を動画で記録。キャプチャした動画や被験者の声、動き、表情を記録。
主観的記録:モデレータと記録者が観察を通じて気になったことをメモした記録。操作とシナリオのギャップに注目し、問題点を記録する。
主観的記録と客観的記録を分けて、それぞれ付箋に1つずつ記載しグルーピングするとまとめやすいです。
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観察が完了したら、事後インタビューを行います。
被験者の行動に不可解な部分があり、その都度聞けないような状況も多いため、事後にまとめてヒアリングするのです。
最後は謝礼、見送りで実査終了となります。
⑤分析
記録した複数の付箋を用いて、問題の重さを分類します。
重みの分類は「有効さ」「効率」「満足度」で分けます。
重み大:有効さに関わる問題
ユーザーは自身のしたいことを成し遂げられていない!
重み中:効率に関わる問題
ユーザーは効率よくしたいことができていない!
重み小:満足度に関わる問題
ユーザーは不快や不安な思いをせずにしたいことができない!
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続いて問題の要因を分析。それぞれの問題について、何が取り除くべき要因か、どのように取り除けるのか、何が足りないのか、どうすれば納得いくのか、検討します。
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問題の解決優先度
大小様々な問題が見えてくるでしょうが、プロジェクトの予算、納期、フィジビリティなどを考慮して、どの問題を優先的に進めるのかを検討します。
さきほどの重み順と、解決の難易度を指標にして決めていくのが効率的です。
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何人試せばよいか?
今後講義でお話しするであろう「デザイン思考」などでも触れる予定ですが、テストや評価をする際にはあまりに多くの人を対象にして「広く浅く」聞くことはせずに、少ない人に対して「狭く深く」調査する方がより本質が見えやすくなり、効率もよくなるようです。広く深くというのは理想ですが現実的ではないでしょう。
1人ではデータが足りなく、2人では真逆の結果になった時困りやすく、3人やればおおよその問題は判別しやすいです。時間的にも体力的にも、このあたりが妥当なラインでしょうね。
まずは、やってみよう
ユーザビリティ評価をやってみることでどんな問題を発見できるかを、実際に体験して知るべきです。今抱えているプロジェクトで、一度やってみるのが良いかと思います。自分で先陣を切ることで、誰かに遠慮することもなく責任をポジティブに背負いながら進めることができます。
UXデザインのとっかかりとして適したこの手法は、その先にユーザーの要求が見え隠れしている貴重なものです。
ただ、あくまで「モノ」の品質評価であるため、彼らの本質的な欲求を探る「ユーザー調査」も必要になってきますので、そちらはまた別の回にお話しします。(またまたかなり長くなってしまったので汗)
ユーザーの本質的な欲求は、デザインをこしらえる際のコアな考えになってきます。このあたりは「デザイン思考」の内容と重なってきますので、その際に改めてお話しできればと思います。それではまた。
今回お話ししたUXの考え方・手法は、僕自身の会社でのUXアプローチを含め、玉飼 真一さんなど著「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本」、川合俊輔さんなど著「ノンデザイナーでもわかるUX+理論で作るWebデザイン」を参照させていただいております。
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