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2020年、卯月の頃

世の中が動き始めてきた。国民の大半がワクチン接種を終え、一時は4桁を記録していた感染者数は1桁になり、飲食店はフル営業を再開させ、規模を縮小して開催されていたいろんなイベントの制限も無くなりつつある。あれから2年弱、少しずつコロナ以前の世界ペースに戻りつつある(とは言え、無くなってしまったお店や失われた命が戻ることはない)。

昨年の4月頃、初めての緊急事態宣言が出た頃、僕には未知の事態に対する緊張感や恐怖と共に、ある種のワクワク感に似た気持ちがあった。僕だけじゃないかも知れない。

生来ののんびりした性格の僕にはそれまでの、目まぐるしく変わる世間のペースは時に心を蝕むに十分なものだった。ネットニュースで流れてくる新しい流行、SNSのTLに出てくる知人の活躍や結婚報告、自分だけが付いていけず置いていかれてるんじゃないか。ネットの発達は情報伝達において人類の歴史上、最大の功績がある一方で人間の孤独と分断をめちゃくちゃ加速させた。今に始まったこっちゃないけど。

しかし、あの時、世界は完全に止まった。止まったとは言わないが、確実にブレーキがかかった。感染を防ぐためにではあったけれど、不要不急の外出が制限され、人との接触も自粛するよう要請され、エンタメイベントもほぼ全て中止になった。世の中が、街が静かになった。華やかなニュースが無くなった。新製品が発売されなくなった。向き合うべきは自部屋に一人で過ごす自分だけとなった。どうやって過ごすか。ここには何があるのか。自分はどうしていくべきか。自分とは何なのか。

あの頃に戻りたいなんて全く思わない。が、たまにあの静かになった世界にたまらない安心や懐かしさを覚えてしまう自分がいることに気付く。

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