記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第1週(穂高先生のモデルは?)

2024年4月からスタートしたNHK連続テレビ小説「虎に翼」。法曹界が舞台ということで、弁護士視点で気になったことを、毎週noteにしたためます。


穂高先生のモデルは?

寅子が明律大学女子部に進学するきっかけとなった、穂高先生との出会い。穂高先生のモデルは、民法学者の穂積重遠です。

穂積重遠の父は、民法の起草にかかわった穂積陳重であり、民法を勉強すると、「穂積」の名前を一度は目にします。

穂積重遠も、戦後に家族法(民法)の改正にかかわり、「日本家族法の父」と呼ばれます。

妻は無能力者?

寅子は、大学の講義をたまたま耳にして、婚姻した妻は「無能力者」になる、という戦前民法の規定を知ります。

「無能力者」は、現在では「制限行為能力者」と一般に表現され、認知症などで後見人の就いた方や、未成年者が該当します。戦前民法では、「妻は家庭に入る」という考え方に依拠して、婚姻中の妻が夫の承諾なく対外的に契約することが、大きく制約されていました。

ドラマの中で、妻は無能力者であるが、日常の家事に関する行為については、夫の代理人として(夫の承諾なく)行うことができる、と説明されていました。現行民法では、日常の家事に関する債務は夫婦が連帯して責任を負う旨の規定がありますが、「これは当時の名残なんだな」と感心しました。

現行民法
(日常の家事に関する債務の連帯責任)

第761条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

「妻は無能力者」という言葉に疑問を抱き続ける寅子の思いに対し、穂高先生は真剣に耳を傾けていました。実際、モデルとなった穂積重遠も、この制度に対して疑問を投げかけていました。

「民法讀本」

寅子が勉強のかたわらに読んでいたのが、「民法讀本」です。この本は、穂積重遠の著作で、戦前民法について、初学者を意識して書かれています。

ドラマ中で寅子が読んでいたのは、「妻の無能力者」について言及した、次のページです。

・・・妻が自分の一身上及び財産上多少重要な行為をするには夫の許可を要し、妻が独断でした行為は夫又は妻自身から取消し得ることになつて居る・・・これは一個の人格者として恥かしい保護と云わねばならず・・・夫婦以外の第三者の迷惑を無視したものである。・・・妻を「無能力者」としたのは、不当にして不要なことであった。

穂積重遠著「民法讀本」〔改訂版〕(日本評論社)52頁以下

寅子が「はて??」と疑問を投げかけていた「妻は無能力者」制度に対しては、穂積重遠も、「不当にして不要なこと」と、強い口調で批判していました。

こだわりを感じるドラマ

第1週は、穂積重遠の著書「民法讀本」が作中で取り上げられたり、戦前民法の規定が詳細に説明されたり、法曹視点でこだわりを感じる内容でした。

第2週は、いよいよ寅子が本格的に「法曹の卵」への道を歩み始めるとのことで、今後の展開が楽しみです。

事務所サイトで執筆したコラムの紹介

所属する法律事務所のWebサイトで、法律に関するコラムを定期発信しています。ぜひ、こちらもご一読いただければ幸いです。noteでは、事務所サイトでは取り上げづらい個人的見解や、日々の業務とは離れた社会問題への考察を主に発信しています。

ITベンチャーなどビジネス向けの最新テーマを主に取り上げたサイト「Web Lawyers」はこちら

身近な日常の法律テーマを主に取り上げた事務所公式サイトはこちら

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?