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「見張りはうちだけでなく、蔦谷様の方でも用意してくれると言っていたが、遊女総出となると気…
昼見世は客が少なく遊女達はゆっくり過ごす事が多いのだが、最近は源一郎の幼馴染だという男…
何かを、心から欲しいと思うことなどなかった。 だって、欲しいと願う前に、すべて自分の手…
「兄上はまだ帰ってきていないようだな」 「この大事な時に、どうせまた吉原にでも行っている…
その男が視界に入ってき瞬間、万緑の中に、薄紫の花を撓に咲かせた藤の木が突然現れたかのよ…
「梅!なんだいその腑抜けな様は!同じ引込みでも、あんたとお凛じゃ立場が全然違うんだ!まと…
なぜだろう?心から夢見ていた、喉から手が出るほど欲しかったものが確かに今手の中にあるのに、心底喜ぶことができない。幸せを感じられない。 違う、違うのだ。自分はこんな方法で、それを手に入れたかったわけじゃない。 「おまえ、何をそんなにいつまでも固まってるんだ?せっかく吉原に連れてきてやったというのに。ほら、遠慮せずに飲め、今日は全部わたしのおごりだ」 「あ、はい、ありがとうございます」 蔦屋に勧められるまま酒を受け取り口に運ぶも、極度の緊張のため味が全くわからない。そ
勝鹿派の門下に入り気付けば早10年。相変わらず売れない日々を過ごしていた毅尚は、師匠のつ…
(私のせいだ) 客間に寝かせられている毅尚の頭に濡れた手拭いをあてがいながら、きよは毅尚…
「お披露目の新造だしはこれからですが、この子が引っ込みとして育ててきました花里です」 …
亡八とは、人間が持つといわれる八つの美徳、仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌、すべてを失っ…
「それじゃあ行ってくるけど、くれぐれも無理しないでね」 「…うん」 いつものように、仕…
「全く、こっちも暇じゃないってのに何やってるんだか」 「…」 もうとっくに来てもいい時…
(これは夢か?) 目の前には父慎一郎、弟慎之介。さらに、今や江戸幕府で絶大な権勢を誇る老中間部忠義を始め、錚々たる顔ぶれの男達が厳粛な面持ちで一堂に座し、海の横には、純白の着物に身を包んだ忠義の愛娘華子が慎ましやかに座っている。 「では海様、華子様、三々九度の盃を」 仲人の言葉に、まるで他人事の芝居でも見ているような心地だった海は、まじまじと華子の横顔を見つめた。盃の酒で唇を濡らし、長い睫毛に縁取られた瞳を伏せた華子の顔は目を瞠るほど美しく、よくできた人形のようだ。