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【講座レポート】「だれも排除しない」を徹底した活力ある居場所づくり~団地・空き家・福祉施設… 板橋区「ドリームタウン」の事例より~ 

NPO法人ドリームタウンでは、板橋区高島平団地の空き店舗を活用した地域の居場所「地域リビングプラスワン」、板橋区内の空き家、障がい者の就労支援施設の、3つの居場所を展開しています。本講座では、代表理事井上さんに、その取り組みや特徴、活動への思いや進め方、具体的なエピソードなどをお聞きし、参加者の皆さんからの質問にもご回答いただきました。

講師:井上 温子氏 / NPO法人ドリームタウン 代表理事
日時:2024年2月3日(土)13:30-16:00


「生活に根付いた居場所づくり、人と人との化学反応を大事にしたい」学生時代のその思いを形に

板橋区で3つの居場所を展開しています。2013年に高島平団地の40平米の小さな場所からスタートし、その後、新たに2つスタートしました。地域リビングプラスワンは高島平団地の居場所、陽ちゃんちは空き家を活用した居場所、ななテラスは就労支援B型事業所の制度を利用して保育園の給食づくりや地域の食堂をしています。

地域に初めて接したのは、大東文化大学時代のゼミでした。大学の先生が推進する高島平再生プロジェクトに参加しました。高齢化する団地と少子化の波が押し寄せる大学とのコラボ、マイナスxマイナス=プラス、という発想です。その中で、1つ気づきがありました。先生は、大学や団地という物質の異質性、違う組織、ハードのコラボレーションをとらえているということがだんだんわかってくるにつれて、自分は、異質な人と人が出会うことでの化学変化がおもしろいと思っているのだと、感じるようになったのです。その時の気持ちは、今の活動につながっている気がします。

卒業後には大学の臨時採用の職員になり3年間まちづくりに携わりました。大学が作ったコミュニティカフェの事務局をしたり、学生さんに高島平団地の家賃補助をする代わりに地域貢献をしてもらうという活動などもしました。
その頃のあるイベントで、忘れられない場面があります。カフェの前を通りかかったホームレスの男性を、イベント運営をしていた学生さんが中に招いたことがありました。男性はコーヒーとクッキーを食べて涙を流していました。そして、その学生とハグをして帰っていきました。それを自分はスタッフとしてただ眺めていましたが、誰も排除しないで受け止めて、そこからつながる可能性に、人ってすごいと思って感動したのを今でも覚えています。

しばらくは大学を拠点に地域活性化を進めていましたが、徐々にもっと生活に根付いた居場所づくりをしたいと思うようになりました。持続可能な運営について考えたい、社会起業家、NPOなどについて学びたいと思い、NPO法人ドリームタウンを立ち上げました。

そして2013年に高島平で地域リビングプラスワンを設立。居場所を増やす財源、ハード面、ボランティアの継続など課題がたくさんあり、大学院で学びなおしもしました。そして、2021年にご縁があり2か所の居場所を増設しました。

孤立しやすい場所で日常の暮らしをシェアするみんなのリビング

現在の世帯の形は、全国的な調査では、単身世帯が3割、夫婦のみも3割、あわせると6割になります。生涯未婚率も上がっています。高齢化率は、板橋区23%、高島平44%。一人暮らしは板橋区も全国的にも12%です。
そんな中で、2013年に地域リビングプラスワンを開設しています。一人暮らし、二人暮らしが多い、高齢化が進んでいる団地、孤立しやすい場所で、日常の暮らしをシェアするような共同スペースがあればいいのではと思い、みんなのリビングとしてスタートしました。もっと広い場所での開設をしたい気持ちもありましたが、その頃はまだ何も起業したこともなく、事業をしたこともなかったので、仲間には止められました。今ほど居場所づくりへの支援や補助制度もなかったこともあります。でも、当時の仲間が、小さく始めて大きく育てようと言ってくれて、40平米のこの場所が狭いと言ってもらえるような活動にしようと団地の小さな店舗を借りました。

昼ごはんと夜ごはんを作りあうのが主な活動で、ごはん番、おうち番として地域のボランティアさんがごはんを作り、地域の人たちと食べます。おうちごはんでは、料理のレベルを上げることは目指さず、日常のごはんを交替で作ろうというコンセプトです。愛情のある料理は地域リビングへ。おいしい料理はほかへ。(笑)家庭料理をみんなで食べよう、と始めました。

料理上手75歳、たくちゃんの手料理とあたたかいつながり

最初は4人のボランティアさんで月に7日程度の活動でスタートしました。そこへ、「ごはん作るよ」と最初に入ってきてくれたのは75歳のたくちゃんというお爺さんでした。たまたま前を通りかかり、ふらっと寄って、ここは何?と。人の家のようでもあり、飲食店のようだけれど、営業している感じもしない、怪しい宗教団体にも見えたようです。(笑)地域の人たちでごはんを作りあって共同で過ごせる場所を作りたいと説明すると、「僕、食事作れるよ」と言ってくれました。ご高齢だったこともあり本当に作れるのか心配になり、あとになってみると申し訳ないのですが、本番の前に試しに運営メンバーのために作ってもらいました。するととてもおいしくて、早速、「来月から作ってください」と来てもらうことになりました。週に3回ほど作ってくれるようになり、そのうちこども食堂なども始まることになるのですが、地域の人にとても愛されていました。

すい臓がんでもう亡くなってしまったのですが、入院して病院で過ごすようになると、一人暮らしで子どももいないたくちゃんのところに、毎日のようにお見舞いに来る人がいました。「お前らうるさいから帰れ」とたくちゃんに怒られることも。お見舞いノートを作って、欲しいものを持っていったりもしました。地域リビングで活動しているときにはボランティア同士でぶつかったり揉めたりもしましたが、たくちゃんに誰もがお世話になっていたということが、最期に形になって出てきたんだと思います。みんなでお送りできてよかったと思っています。

障がいがあっても、引きこもっていても、小さな居場所だからこそ誰でも来てほしい

「おかえりごはん」という、夜ごはんを提供する活動もしています。今でいうこども食堂です。こども食堂というものが世の中に出始めて、まだ認知度は低かった頃です。保育園帰りに寄りたい、子どもと食べたい、という希望を個人的にいただいて、ランチを出していた「おうちごはん」の残りを夜にとっておいてあげたのが最初でした。店番をしてくれていた人がひきこもりがちの方だったので、いつまででも待っているよと、一組のために待ってくれていたところからスタートし、それを仕組み化していきました。こども食堂というと一人親やヤングケアラーなどが利用する場所と言われますが、実際、4-5割の利用者がひとり親家庭でした。

障がいがあってもどうぞと広報をしたら、耳が聞こえなかったり重度の障害がある子なども来てくれました。難聴のお子さんから、学校へ電車で通うので帰ってきても地域には友達がいない、放課後に友達と遊んだことがないと聞いたのは、衝撃でした。地域の学校の学童は、地域の子どもには開放されているので通っていいことにはなってはいますが、耳も聞こえにくいし、学校で普段一緒に過ごしていない集団にはなかなかなじめません。プール教室に通おうとすれば耳が理由で断られたり。障がい児のお子さんの放課後は大変だと思いました。その難聴のお子さんは、自分でチラシを見つけて親子で来て、結構通ってくれていました。
小規模で世代もちょっとずつ違うコミュニティなので、言えば受け入れてくれます。ほかの利用者さんも少しずつ手話も覚えてくれたり、外でサッカーをしようと言えば聞こえなくても一緒にできました。小さな地域の居場所の必要性ってあるなぁと思った瞬間でした。

地域リビングでの小さなイノベーション

地域リビングってどんな場所?と言われたときに、いつも、小さなイノベーションが起きる場所と伝えています。一人暮らしの高齢者が地域リビングに出会ったことで、子どもの勉強を見てあげよう、お母さんの相談にのってあげよう、などと、何か役割をもって地域に貢献しています。それってイノベーションですよね。子どもが巣立ったとか、旦那さんが亡くなったとか、生きがいが見つからないことも。元気な高齢者の方も多いのに、ちょっと弱ってくると、福祉の受け手になってしまうことも。デイサービスなどで、みんなで歌いましょう、体操をしましょう、と支援の受け手になるその前の段階で、普通に自分たちが、役割、生きがいを持っていることはすごく重要だと思っています。高齢者や障がい者などだけでなく、会社員をしている方などにも同じことがいえます。

地域リビングに、大学院進学に失敗したひきこもりの方が、社会に復帰する1歩として月に1回ボランティアさせてもらえませんかと、いらしたことがありました。
福祉サービスを使うのはハードルが高いと思う方もいます。また、休職中に行く場所がないという課題もあります。そういう時にボランティアからなら動けるのではと思ってきてくれました。
ところが、ボランティアさんの手が足りないので、月に1回だったのを、週に1回、2回・・とお願いして来てもらっているうちに、こんなに活動するならバイトしようかな、とアルバイトを始めるようになりました。そして、彼がアルバイトを始めると、みんなで押し掛けて(笑)彼も月に1回ぐらいは地域リビングの活動も継続してくれました。社会復帰してもらうためにボランティアの参加頻度を上げたわけではなく、単純に手が足りなかったからお願いしていたのですが、それがよかったみたいです。
心からただただその人の存在に感謝することで、その人の自尊心が生まれて、生きている意味にもなっていくのだと思います。

うつになる人も増えています。心が優しかったり優秀すぎてよくわかっている人ほどそうなってしまうようです。うつになって会社に行けなくなって、病院では1か月に1回程度の通院でサポートの手も足りない中、お医者さんから、少しずつ外に出てみましょう、図書館に行ってください、行けるようになったら今度は会社に行って帰ってみてください、など社会復帰に向けた訓練のアドバイスをされたそうです。地域リビングでは、そういう方が、野菜の配達をしてくれたりボランティアをする事があります。休職中やうつなどのときに、段階的に日常的に何かできるというのがすごく重要だと思っています。障がい福祉サービスに行くまでの間にはざまがあって、治療の段階によって、またご自身が障がいを受容できていないなど、そのグレーなところにいる人をどう支援するのかというところが重層的支援体制整備事業の大切なところだと思います。そして、そういったときにも居場所は効果があると思っています。

コミュニティを生み出して、人をつなげる

地域リビングはみんなボランティアで、現在は常勤のコーディネーターがいません。いろんな人たちの力を活用しようと思ったときに、効率性だけを目指すのはよくありません。若年性認知症の人がボランティアしようとしてきてくれても、大変そうだから私がやると言って代わりに動いてしまったら、その人の役割が失われてしまいます。コーディネーターや知識がある人がバランスを調整していけば、その人の力は活かせます。高齢化して危なっかしいから、作る方じゃなく食べる方にまわって、と言われたら一発退場と言われたようなものです。できないところを支えながら一緒にやろうと言えたら、あと5年10年活動し続けられるはずです。ここがボランティアだけだと難しく、いつも、もったいないと思う瞬間です。

地域リビングの役割としては、核家族化、共働きや一人暮らしの増加など、家庭内で支えあう力が低下してきたり、課題を抱え込んだり、親が頼れなかったり頼れる人がいなかったり、相談できる人がいないところを、つなげていくことだと思っています。行政の福祉サービスもいろいろあるのですが、つながっていないし、つなげてくれる人がいない。地域リビングは、そういった孤立しやすい社会に地域のつながりを取り戻すことを目指して設置しました。人と人との接点を生み出す、地域の支えあいが向上していったらいいですね。もちろん、課題だけではなくて、趣味や特技などのシェアを通して楽しみも生み出す場であることがベースです。

地域リビングに来続ければいいという発想ではなく、ある一定のコミュニティを生み出していければいいと思っています。
人とつながったり、仲間が見つかったり趣味が見つかったりして、来なくなる人もいます。ある人は、夫を亡くして、人の気配を感じていたいと、毎日のように地域リビングに来ていました。でも、卓球に誘われて通うようになってから、地域リビングには来なくなりました。楽しいからもう来ないわ、もっと歳をとったらまたお世話になるわ(笑)、と言いながらも、今もお米券を寄付してくれています。コミュニティを生み出したからこその効果です。
地域リビングに来る人数を増やそうという発想ではなく、ネットワークを広げていくことをしていきたいと思っています。

コンビニと同じぐらいたくさんの居場所と、地域の連携と

こういった活動を続けている根底には、誰もが自然体で生きられて夢と希望が抱ける地域社会を実現したいという思いがあります。コンビニの数ぐらい居場所のある地域社会を促進して、小さなイノベーションを創出していけたらと。
コンビニの数ぐらい居場所を作るというのは、地域リビングをそれだけ作るわけではなく、いろんな人たちが作ることで広がればと思っています。
社会課題に向き合う活動には、地域に深く根差す活動と、ある社会課題をテーマに全国展開などに広げていくような活動があり、その2つが連携することで地域の課題を解決していけるようなまちができたらと思っています。

コロナ禍は、おうちごはんにも大きく影響しました。ボランティアが50~60人だったところ30人に減り、一緒に食べることもできなくなるなど活動がしにくくなり、気になっていたお子さんも来なくなりました。そこで、来てもらえないならおうちに食事を運ぼうと、宅食を始めました。
ところが、宅食の対象にしていた児童手当受給世帯の登録数が数か月で急に増えていき、40平米の小さな地域リビングでは担いきれなくなりました。そこで、こども宅食の勉強会を開いたり、区には、行政の事業にしてほしいとお願いしました。そのお願いが通り、支援対象児童等見守り強化事業を区が始めてくれました。現在は多くの民間事業者が、宅食事業者として、予算化された中で宅食をしています。区全体で支援をしていくには、いろいろな事業所が連携して担うことが重要だと改めて思いました。

楽しみながら、誰でも一緒に活動できるごちゃまぜの地域づくり

「陽ちゃん家」は、2021年スタート。まだまだ活動模索中です。
きっかけは、お住まいだった方が施設に入るので自宅が空き家になるが家をこわしたくないので、地域で活かしてほしいと思われていてドリームタウンとつながったことでした。息子さんが社会貢献に熱心な方だったので、実現しました。赤ちゃん食堂、コミュニティガーデンなどいろいろ模索しています。大学生などの若者が集ってくれて、ピザ窯を作ってピザを作ったりもしています。

私は、地域活動は、もともと自分が楽しいからやっていました。それを思い出させてくれるのが陽ちゃん家です。ロールスクリーンがあれば、映画上映会ができるね、など広がります。場所があって、なんとなくやりたいことが見つかる拠点が大好きなんです。ここでBBQやろう、子どもを誘おうよと、地域の子を誘ってみたら障がい児のお母さんがいて、そこからまた新しいことが始まって事業が始まることもあります。もともと高齢者に興味がある、障害者に興味がある、ということはなく、たまたま出会った人から教わって広げてきました。

仲間に、井上さんは思いつきで事業をしていると言われました。その通りです。(笑)すごくこれをやりたい!と思ったわけではなく、地域活動をしていたらこうなってきたんです。

就労継続支援B型事業所「ななテラス」も、2021年から始めました。
地域リビングのような場所に、常勤のコーディネーターを設置できる制度をとずっと提案してきましたが、いまの行政が住民主体の活動に出している予算では、それが難しいんです。そこで就労支援事業をベースにした居場所づくりを検討しました。

社会福祉法人さんがレストランや地域交流スペースを地域に開かれた場所にしたいと考えていらっしゃり、ドリームタウンに声をかけていただきました。保育園の給食は毎日100食、サービス付き高齢者住宅(サ高住)にも昼夜20~30食を作っています。何しろ規模が大きいのですが、ごちゃまぜの地域を作りたいという理念が一致して、一緒にやることになりました。

事業規模としては地域リビングの10倍の規模です。大きい事業をしたかったわけではなく、福祉の事業所をすると規模が大きくなるんだなと初めて知りました。地域の交流拠点があれば、1,000万円ぐらいで施設の運営ができると思ったのですが、思った以上の規模になりました。

ななテラスでは、地域交流拠点を障がい者の就労支援事業で運営しています。地域食堂、保育給食、イベントや学びの3つの事業を運営しています。地域食堂は、コミュニティの拠点としてはこれからが成長期です。毎日の保育給食やサ高住の高齢者の皆さんの365日の昼食と夕ごはんを、障がい者の人たちと作るというのは、ベースを整えるまでの期間がすごく大変でした。やっと落ち着いてきたところで、ここからが楽しみです。

ななテラスの近くに特別支援学校があります。そこに通っている高校生が、ななテラスのこども食堂に参加されていて、「学校帰りに寄り道したことがないから、寄り道カフェをしたい」と提案してくれて開催したこともあります。そんなふうに、地域からの提案をみんなでやっていけたらいいかなぁと思っています。

今後目指しているのは、誰でも安心して来れる、居られる場所。障がい者の強みを活かして仕事を作っていって、地域の困りごとを助けるお仕事をしていければと思っています。
一人暮らしのお宅にお弁当を配って、配った先で5分程度で解決することをお手伝いしてもいいでしょうし、障がい者就労で地域貢献するということをどんどんどんどん増やしていきたいと思っています。


《会場からの質問と井上さんの回答》

Q:地域リビングにひきこもりの方や、耳の聞こえないお子さんなどが自分で見つけて来てくれるという話がありました。来てもらう、足を踏み入れてもらう秘訣はありますか?

A:障害や国籍などで断らない、誰でもどうぞ、というメッセージは常に発信しています。普段は掲示やネットで発信し、たまにポスティングをすることもあります。子育て世帯についてはLINEの問い合わせや申し込みが有効だと最近感じています。

Q:場所を用意しても、人を集めるのは難しいし、外になかなか出ない人もいます。どうすれば来てもらうきっかけが作れるでしょうか。

A:出てきてくれないという話はよくあります。動けない、億劫だからという人と、動けないわけではないが来たくない人がいます。
きっかけとしては、お弁当を届ける、一回訪問するというのは重要だと思いました。こども食堂で学んだことですが、家庭の状況によっては来るのも大変という事情があったりします。コミュニティの拠点があることは重要ですが、訪問して何かを届けるという活動を通じてコミュニケーションを取るようにすると、何かあれば案内できて、安心して来てもらえるようになったりします。訪問の大切さと拠点の大切さの両方があると思いました。
信頼している人が紹介してくれたり、お届けに行ってこちらが行くなどは、来れない人には有効です。元気な人には、地域リビングであればごはんがあることが有効でした。おいしいごはんが、健康な食事が安く食べられるというところが大きかったですね。高齢者だけだと入りにくい、などもあります。そういう意味では、いろいろな世代がいたので来やすかったというのはあるみたいです。
地域に貢献したいような人なら、お願いをする、運営側に来てもらう、という方が来やすいと思います。経験などを活かして社会貢献をするプロボノもそれだと思います。支援される側になるのはプライドが許さないという人もいます。そういう方には、運営側として誘うことが有効ですね。その人によってニーズは違うと思っています。

Q:活動を始めるにも、立ち上げメンバーの集め方、来ていただく方の集め方などが難しいと思っています。ゼロを1にするのが大変。特効薬はないと思いますが、そのあたりお聞かせいただきたいです。

A:私はゼロ1タイプかもしれないです。最初は勉強会やイベントから始めました。そうすると知り合いが集まってきてくれて、こういうのをやりたいとそこで夢を語るところからスタートしました。
挫折はしょっちゅうです。企画したことの8割は無しになっているのではと思います。思い付きが多いので。(笑)
これもできる、あれもできる、と思ってしまう方で、やらなければいけないことが常にたくさんあり、いつ達成できるかわからないぐらいです。実現するのは、その時のタイミングと社会情勢と人があってこそ。B型を始めた時にも福祉関係者が周りにたまたま集まっていて、その中に就労Bをやりたいという人がいました。多様な人が集まった中の化学反応でななテラスが始まったんです。
私は多分度胸がいいんだと思います。周りの意見や提案が重なって様々なことができてきました。自分一人が言っていることはだいたいできないんですね。
できていないことの1つとして、見守りがあります。街全体をサービス付き多世代向け住宅へという構想があるんです。サ高住の生活支援と安否確認等の見守りと交流拠点で食事の支援ができれば、どこに住んでいてもサービス付き住宅になるのでは。そういうまちにしたいんです。でも、10年してもそれを一緒にという人が現れないので実現していません。3回ぐらいチラシを作ったんですが。(笑)
そんな、実現していない企画はいっぱいあります。

Q:活動立ち上げの時の勉強会にはどんな講師を呼びましたか?

A:社会起業家がブームだった頃なので、社会起業について詳しい人に来てもらいました。そのあと、事業計画を作るような場に入ってみて仲間とつながったりも。若かったから夢ばっかり言っていてからか、人の収集力があったと思います。大きいことは言うものですね。夢を語り、やりたいことに基づいた内容をやってきたという感じです。野菜作ろうと、農園を借りたこともあります。その時には、ベランダ菜園をしている人を講師に呼びました。
コミュニティ作りをしたいというところは、ずっと一貫しています。

Q:地域の部活のようなコミュニティ運営をやろうとしているが、なかなか理解されません。どうやって持続できる事業にしていくのかというところにハードルを感じています。ボランティアの力で成り立つところから、スケールするような事業として展開させるヒントはありますか?

A:私はビジネスにしようと思ってやったことがなかったんです。仕事は別にしていて、最初は持ち出しがあってもいいと思っていました。それとは別にコミュニティがあればいいと、参加者みたいな気持ちでいました。ですが、ななテラスを始めて事業になりましたね。365日まわさなければならないなど、「ねばならない」が結構あって、社員の給与も払って上げていかなければいけない。事業を魅力的にしなければいけない。責任がすごいあります。
大事なのは自分が何をしたいかだと思います。私は、ずっと同じことをしてきています。そこは重要ですね。
「ターゲットを絞らなければ」とコンサルの人に言われたこともありました。ビジネスの基本を教えてくださったんです。ですが、譲れないところがありました。絞ったら私の事業じゃない、いろんな人が出会って交わるところが大事で、絞ると絶対つまらない、と言い続けました。そこをなくすとやりたい気持ちがなくなってしまうので。企画を直されても直し返していました。(笑)
でも「事業」として折れなければいけないこともあります。例えば、「こども食堂」をするつもりはなく、いろいろな人が集まる化学反応がいいと思っていたのですが、助成金などを得るために「こども食堂」という名前を使うことが必要なことがありました。でも、あくまでもやりたいことをやるためでした。
大事なのは信念を曲げないことですね。

Q:NPO法人として、やりたいことを目指して、お金にすることは考えずに16年やってきました。このままでは持続可能ではないとひしひしと感じています。コミュニティビジネス、社会企業などに切り替えるべきかなども考え、ビジネスマインドを入れなければと思って勉強中です。マインドを変える、持続をするためのアドバイスをいただけたら有難いです。

A:やりたいことがビジネス性の高いことなのか、社会貢献性が高いのかがまず大事だと思います。ビジネス性が低いなら、それなりの工夫が必要です。儲かって人を雇えるぐらいならビジネスにできますし、社会性が高いことに投資してしまうと回収できなくなります。私はビジネスマインドを持つつもりはなかったのですが、ななテラスを始めて、投資した分は回収しなければいけないし、お給料も払わなければいけないので、お金のことは見るようになりました。
出してもいいと思えるお金、周りや地域と出せるお金、地域や助成金などで投資をしていき、それが継続的な支援かどうかも大事ですね。

Q:外国人支援をしています。今日のお話は、外国人も同じ問題を抱えていると思いました。言葉の壁もあると思いますが、ドリームタウンでは外国人の支援の位置づけはどのようになっていますか?

A:学生の頃、留学を1年しました。日本に帰ってきた後、会った内モンゴルの留学生から学んだことが大きかったです。英語を学び始めたばかりなのにアメリカの大学院に行きたいなど夢が大きいことに驚きました。日本で外国人を集めれば国内留学ができるとも思いました。
外国人のサポートをというよりは、交流が楽しくて集うということはしてきました。今となっては、ななテラス料理長のハッサンさんも、地域リビングで日本語を書く練習を1対1で始めるなどしていました。ご近所トラブルで近くに住んでいる外国人のところに、よく警察が来ていたときには力になっていたこともあります。そんなふうに、自然と関わってはきました。多かったときには7カ国とかかわっていましたね。

Q:集会所で集える場所を設けたいという時に、目的がないとダメ、誰も来ないのでは、など、自分はやりもしないのに批判だけするような人がいます。そんな時、井上さんはどう考えますか?

A:地域リビングを作るときは何がしたいのかよく分からないと理解者は少なかったです。あまり周りの意見を聞きすぎないのも大事かもしれません。聞くのは大事ですが。やってみようという時に、ブレーキをかける人が必ずいます。誰も来なかったらどうするの?と言われたりしますが、それは来なかったときに考えます。(笑)
集会所であれば、リスクがないですし、やってみればいいと思っています。誰も来なかったら、じゃぁ卓球台置いてみようか、お正月にかるた大会しようか、と考えてバージョンアップしていけばいいのではと。やらないより、やって考えればいいと思っています。
一番大事なのは個人的な関係です。その辺を歩いている人に声をかけて仲良くなると、来てもらえます。
地域リビングは、クラウドファンディングで集めた100万円でスタートしました。みんなで作るには、企画や予定が埋まっていたらダメだと思っています。来た人たちで埋めていく「余白」が大事です。
団地の中で居場所を作るというのは、本来作る前に町会などにいうべきものだったようです。「作りました!」と挨拶に行ったら作る前に言うものだと町会長さんに言われました。「すみません~、勉強になります!」と笑って答えました。若いからできたんですが。

20代の時は40平米を維持することのハードルが高くて、これ以上は貯金だけではまわらなくなると思いました。そのうち何千万円規模になってきて、常に自転車操業です。穴埋めは自分、毎日現場で泥まみれ状態です。笑
でも、仕事が楽しいからやっています。どんな仕事でも、みんなと楽しくやりながら、個性を活かして、社会を作っていけたらと思っています。


【講師プロフィール】
井上 温子(いのうえ あつこ)氏

NPO法人ドリームタウン 代表理事
大東文化大学の学生時代にゼミ活動で高島平の活性化プロジェクトに関わる。卒業後は、大学職員として、コミュニティカフェ運営や学生団地入居プロジェクトを担当。同時に、社会起業家についての勉強会を主宰し、ドリームタウンを設立。共生型の居場所の可能性に魅せられ、2017年4月 立教大学21世紀社会デザイン研究科に入学。修士論文で、地域共生社会において要となる共生型の居場所の効果と可能性について研究(2019年3月卒業)。「共生型の居場所+リンクワーカー」を広げ、まち全体がサービス付き多世代型住宅になることにより、だれもが孤立することなく暮らしやすい地域づくりを目指す。
▼NPO法人ドリームタウン
   https://dreamtown.info/

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