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ZINE制作近況:表紙デザインの依頼と、手放してはいけない第1の創造のこと


ZINEの制作を着々と進めている。本を完成させるための作業に入り、いよいよ印刷所への入稿も見えてきた。

と同時に、ZINEを作るぞ!と決めた当初から遠くには認識していた課題が、具体的なかたちを伴って目の前に表れた。

それは、表紙のデザインをどうするか。

デザインを専門に学んだことはないが、自分でやろうと思えばそこそこのものは作れる。自分が使うものを自分で作る感覚とでも言えばいいか。

過去に作った同人誌では、使い慣れないPhotoshopに悪戦苦闘しながら表紙を自作した。今はCanvaなどの便利なサービスもある。パートナーの仕事を手伝って、簡単なデザインワークもいくつかやった。

しかし今回は、表紙のデザインをデザイナーの方に依頼することにした。

自分で作るならお金(外注費)はかからないが、時間や労力はかかる。この段階で作業が詰まれば入稿は後ろ倒しになるし、そのまま制作全体がうやむやになるのは避けたい。何より、他人に依頼するという経験も得られる。

「ひとりで何でもやろうとしない練習!」と言い聞かせ、緊張しながらも問い合わせフォームから依頼を送信した。

他人に依頼するためには、前提として、自分が何を望んでいるかを把握しておく必要がある。どんな依頼でも「こういうものを作ってください」と伝えなければ何も始まらない。

デザインや動画の製作なら、用途、サイズ、文字情報などの要素、色合い、見た人に与えたいイメージ。プログラムやアプリの開発だと、動作要件や利用者に与えたい体験なども含まれる。アウトプットとして完成品を伴わない作業の依頼であっても、要件定義は必要だ。

表紙のデザインを依頼した際に、「グラデーションがかかった空の色」と指定したところ「何色から何色のグラデーションかお聞かせください」とお返事をいただいてハッとした。

こんな感じ!とイメージしていた色合いがあったためそれを的確に伝えられたが、具体的に想像していなければ、色ひとつの指定すらできない。

ビジネス書のベストセラーである「7つの習慣」に「すべてのものは二度つくられる」という言葉が出てくる。一度目は知的創造、二度目は物的創造。建物で言えば、前者は設計図、後者は実際に家を建てる作業にあたるらしい。

まさしくこれだな、と思った。何かをつくるときに手放してはいけない、そもそも手放せないのが、この知的創造の部分だ。

どんな作品や作業でも、依頼者が頭の中で創造できないものは、現実世界には決して作れない。物的創造は「依頼」というかたちで他人に任せられても、知的創造は自分にしかできない。

「私が望むものを作ってください、でも私が何を望んでいるかは私にも分かりません」は、たとえ傲慢な王様でも許されないだろう。

(対話して要件を引き出してもらうこともできるが、それは作る人の仕事の範疇を超えている。そのヒアリングに別途お金を払ったほうがいい。)

自分が何を望んでいるかを見つめる。それらを可能な限り具体的なかたちで自覚し、言葉にする。そして表明する。伝える。

こういったプロセスは自己実現の文脈で語られがちだが、実際のものづくりでも変わらない。形にするという意味では自己実現だってものづくりだ。

ゼロからの言語化でなくてもいい。参考にできる写真や画像、他人の言葉や表現を借りて「こういうものを」と指し示すことから始めても構わない。実際にデザイン案を指定する際には、参考イメージをいくつかお渡しした。

便利なツールやサービスを活用したり、他の人に依頼するといった機会はこれから増えていくだろう。他力を借りてこそ大きなことができるわけだし。

でも、テクノロジーの進化によって複雑な作業が自動化しても、あるいは力を貸してくれる人が増えたとしても、自分が望むものは自分にしか分からない。

相手が人でも機械でも、自分の望みをオーダーとして伝えることで、はじめて現実のものづくりができる。

第1の創造のきっかけである「自分が何を望んでいるか」には、常に自覚的でありたい。

と書いていたらずいぶん壮大な話になってしまったが、表紙のデザインは無事に完成した。デザイナーの方には感謝しかない。

入稿に向けて、作業を続けていくことにする。



これまでの制作近況は以下のマガジンにまとめています。


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