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2023年版:有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:政治学

こんにちは、有斐閣書籍編集第二部です。

 3年前に出したシリーズ記事「有斐閣の編集者が新入生におすすめする本」は長く好評をいただきました。
 ずいぶん時間も経ったので、この続きをあらためて各分野の担当者に聞いていこうという企画、第3回は、政治学分野です。
 編集部のイワタオカヤマに話を聞いていきます。

いま、新入生におすすめする1冊目

——前回(2020年)の記事から時間が経ちましたけど、いまあらためて新入生や初学者に「1冊目におすすめ」できる本はありますか?

イワタ:そうですね。それなら、ちょうどこの春、刊行されたばかりの『政治学入門』を紹介したいと思います。

――できたてですね! どんな本なんですか?

イワタ高校で学ぶ「地歴」「公民」の知識を出発点に、政治学に関する基本的な知識を説明している本です。「リベラル」とか「保守」とかっていう言葉を聞いたことがあると思うんですけど、そういう政治や政治学を学ぶうえでよく聞く言葉からていねいに説明されています。

――最初の章(第1章)は、「シン・ゴジラ」の話から始まっているんですね。おもしろそう。

イワタ:そうなんです。各章のはじめには、導入として、そうした映画や小説政治学の古典なんかの一節を置いています。また、読書案内のほかに、映画案内も置いています。

――たしかに、いろんな映画が取り上げられていますね。各章で紹介されている映画から観ても楽しそうな。けど、ストゥディア・シリーズには『政治学の第一歩』もありますよね。これも入門書っぽいタイトルですが、どう違うんでしょうか。

イワタ:ざっくりというと、『政治学の第一歩』合理的選択論という「理論」の観点から書かれたもので、『政治学入門』は政治や政治思想の「歴史」、政治のしくみや制度を支えている「思想」に注目して書かれたものです。

――なるほど。うーん、しかしそう聞いても、どっちを読もうか、迷ってしまいそうな……

イワタ:政治学の教科書は、この2冊に限らず、いろんな出版社からさまざまなタイプのものが刊行されているので、書店や図書館で手に取って見比べてみるのもおもしろいかもしれません。

オカヤマ:他社のものでいうと東京大学出版会の『政治学』が昨年、改訂されています(第2版)。いまの政治学の教科書で定番書の一つといえるもので、豪華執筆陣が幅広いテーマを押さえたすばらしい教科書だと思います。改訂版では「新型コロナウイルス感染症と知事」といったコラムが追加されるなど新しいテーマにも対応しています。この教科書は「高大連携」を強く意識して作られており、その点では先ほど紹介したストゥディア『政治学入門』とも狙いが重なる部分があります。

イワタ:『政治学入門』と重なるという点では、タイトルが重なる、弘文堂の『政治学入門』も、今春、改訂されていましたね。こちらは、もう第3版でした。この本も、新型コロナやウクライナ戦争、「民主主義の後退」といった新しいテーマ、最近の出来事をふまえて改訂されているようです。

こんな本が出ています

——いろんな入門書が出たり、新しくなったりしているんですね。入口がたくさんあるというか…。では「1冊目」にかぎらず、「政治学の本が読みたい」「これから勉強してみたい」という人がいたら、何をおすすめしてもらえますか?

イワタ:いろいろ入門書が出ていますが、政治学を勉強しようとするときに、さっきお話ししたような概論の入門書から読み始める人というのは、実は少ないのかもしれせん。

——えっ、そうなんですか!?(じゃあ、さっきまでの紹介は……)

イワタ:何気なしに政治学の対象にふれ、まずはそこから関心をもつ人のほうが多そうです。たとえば、投票にいくにあたって選挙に関心をもつこともあるでしょうし、日本やアメリカといった「」、ヨーロッパ(EU)や東南アジアといった「地域」の政治が気になる人もいるでしょう。「歴史」が好きな人もいると思います。そういう各論的な教科書もさまざまに出ています。

オカヤマ:そうですね。じつは、いま挙がったような対象については、すべてストゥディア・シリーズから、教科書を刊行しています(ストゥディア・シリーズのラインナップはこちら)。ストゥディア・シリーズは政治学分野もかなり充実しておりますので、よろしければシリーズ買いもご検討ください!(笑)

——そ、そうですね(なんか、シリーズってめっちゃ言うな……)。たしかにストゥディアはどの分野も相当充実してきましたね。大学講義用のテキストですけども、比較的一般書店でも売れているとも聞きます。
 じゃあ、そこから、なにか1冊だけおすすめしてもらえませんか?

オカヤマ:う~ん、難しいですね。どれも、紹介したいところですが、それでは、最近、出版された『日本政治の第一歩〔新版〕』を紹介しましょう。

――おお、どんな本でしょう?

オカヤマ:この本は戦後政治史をおさらいしたあと、「政治参加」や「国会」「メディア」などといった日本政治の主要トピックを解説していく構成になっています。日本政治固有の歴史的文脈や、制度だけでなく政治学における重要な理論も同時に詳しく解説されており、政治学の入門書としても読むことができます。第12章のマイノリティからみたシティズンシップの視点は、現在の日本(政治)における重要なイシューとなっており、これらの問題を考える材料を提供してくれています。

――なるほど。日本の現実の政治のあり方について知りたかったら、まず手に取る感じですかね。イワタさんはどうでしょう?

イワタ:じゃあ、私のほうは、ストゥディアではないですが、改訂版つながりで一冊。同じく、この春に刊行した『国際政治学をつかむ』を紹介したいと思います。この本は、歴史理論アクターイシューから、国際政治学を一通り学ぶことができるものです。毎年多くの大学で教科書として採用されており、こちらも定番書の一つといってもよいと思います。

――国際政治は、いい出来事が原因ではないですけど、いま「ホット」ですよね…。

イワタ:今回の改訂作業(第3版)を進めていくなかで、ロシアによるウクライナ侵攻が起こりました(2022年2月)。国際情勢が一変し、また先行きが見通せないなかでの改訂となり、予定どおり刊行できるかどうか、ちょっと心配した時期もありました。

オカヤマ:ウクライナ侵攻は衝撃的でしたね。戦争が長引くなかで、関連する書籍も、続々と刊行されているような気がします。

イワタ:そうですね。初学者にも手に取っていただきやすそうなものに限っても、『ウクライナ戦争』小泉悠、ちくま新書、2022年)、『ウクライナ戦争をどう終わらせるか』(東大作、岩波新書、2023年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』鶴岡路人、新潮選書、2023年)、そしてUP plusシリーズからも、『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』池内恵ほか、東京大学出版会、2022年)などが出ています。

オカヤマ:今後も、関連する本はまだまだ刊行されそうです。「つかむ」のようなテキストで基本的な考え方や歴史的背景をおさえつつ、個別の事象の詳細や最新の情勢については、いま言われたような本で補っていただくのがいいかもしれませんね。

――ありがとうございます。
 ……いやあ、しかしなんでしょう、もうお腹いっぱいになってきましたけれども、でもせっかくなので、教科書ではなく一般書っぽい政治学の本のおすすめも、もうちょっと教えてもらいたいんですが。

オカヤマ:なるほど。そういうことであれば、前回と同じく、やはり新書をおすすめいたします。さっき、政治学のストゥディアも充実してきたというお話をしましたが、その執筆者の先生のなかにも、ここ数年で新書を刊行している先生がたくさんいます。

イワタ:結構、いらっしゃいますよね。三浦まり先生は『さらば、男性政治』(岩波新書、2023年)を、岡山裕先生は『アメリカの政党政治』(中公新書、2020年)を出されています。そのほかにも、末近浩太先生の『中東政治入門』(ちくま新書、2020年)、そして多湖淳先生の『戦争とは何か』(中公新書、2020年)など、挙げ出すとキリがないぐらいです。

オカヤマ:あと、濱本真輔先生の『日本の国会議員』(中公新書、2022年)や中北浩爾先生の『日本共産党』(中公新書、2022年)がありますね。中北先生の本は、日本共産党の通史なのですが、各国の急進左派との比較分析がされるなど、政治学としての通史といった内容で、たいへん刺激的です。

――なんでしょう、途中で「初夏の中公新書祭り」みたいな気分になりましたが、政治学ならではのことかもしれませんね。しかし、有斐閣だと企画の当初から一般読者を対象とする本って少ないですよね。政治学だとどんな本がありますか?

オカヤマ『維新支持の分析』でサントリー学芸賞を受賞された、善教将大先生の『大阪の選択』という本は、一般読者にも向けて書いていただいた本です。

 この本は、2020年11月に実施された、「大阪都構想」を問う住民投票についての実証的な分析を一般読者にもわかりやすく解説していただきました。ここでの議論は、大阪での維新の強さを理解するために、いま読んでも参考になるところが多いです。
 今年の8月頃には『何が投票率を高めるのか』という本も、一般読者向けとして出版できそうです。投票率投票行動研究の第一人者、松林哲也先生(大阪大学)にお書きいただきました。ぜひお楽しみに!

もう一声!?

——ありがとうございました!
 もうね、さすがに十分ですね! でも本当の本当の最後に紹介し忘れた、「おかわり」で紹介したい本がもしあれば……

オカヤマ:あります!! 髙山裕二先生にお書きいただいた『憲法からよむ政治思想史』これまでなかった画期的な教科書なのでぜひ紹介させてください。

——ど、どうぞ!

オカヤマ:この本は西洋政治思想史のテキストなのですが、日本国憲法の条文とその背景にある思想の歴史とをリンクさせながら解説している点に大きな特長があります。有斐閣のPR誌『書斎の窓』7月号にはこの本に対するすばらしい書評が掲載される予定です。ウェブでも無料で読めますので、そちらもぜひ楽しみにしてください!
 近年出版された研究書も紹介したいのですが、そちらはまた別の記事でぜひ紹介させてください。最後に、今年から刊行が開始されたy-knotシリーズについて、政治学ももちろん続々ラインナップを揃えてまいります。
 政治学の第一弾としては羅芝賢先生と前田健太郎先生による『権力を読み解く政治学』を準備しております。こちらは年内には出版予定ですので、乞うご期待!


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