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2023年版:有斐閣の編集者が新入生におすすめする本:心理学

こんにちは、有斐閣書籍編集第二部です。

3年前に出したシリーズ記事「有斐閣の編集者が新入生におすすめする本」が長く好評をいただいていました。

ずいぶん時間も経ちましたし、あの続きを各分野の担当者に聞いていこうという企画を進めています。第2回は心理学分野から。編集部のナカムラワタナベイノイシに話を聞いていきます。

コロナ禍の3年と心理学

――前回(2020年)の記事から時間が経ちましたね。あらためて、心理学についてお話を伺いたいなと思います。

ナカムラ:この3年となると、やっぱりコロナ禍(COVID-19)の影響は外せないですね。

――なるほど、やはりそうですよね。

イノイシ:日本中がステイホームで過ごして、一人暮らしをしていない方は家族と過ごす時間が増えましたよね。生活スタイルが変わって、人々の心理にも大きな影響があったのだと思っています。

――そういえば、『家族心理学(第2版)』にも重版がかかっていましたよね。それで思ったんですけど、心理学って個人の内面だけじゃなくて、家族の話題も扱うんですね。ちょっと意外かも?

ワタナベ:この分野を専攻していないとイメージしにくいかもしれませんね。心理学にも「〇〇心理学」といったかたちでたくさんの分野があります。家族を1つのシステムとみなして研究する家族心理学もその1つです。

――家族に焦点を当てるなら、個々の生活スタイルにも目を向けざるをえない、ということなのかな。

イノイシ:その話でいうと、大学生活へのコロナの影響も本当に大きかったですね。私もコロナ禍のなか学生生活を送りましたが、本当に混乱続きでした……。

――そうでしたよね。先生方からも四苦八苦なさっている話を聞きましたし、講義のかたちもずいぶん変わったみたいでした。

ナカムラ:最近は対面講義も復活してきましたが、それはそれで学生さんたちも苦労されているようです。というのも、わからないことがあって先輩に相談しようにも、その先輩もずっとオンラインだったのでアドバイスがしにくいという。

ワタナベ:そんな今だからこそ、私は『大学生のストレスマネジメント』をおすすめしたいですね。コロナ禍に向けて書かれたわけではないのですが、学生生活ならではの悩み事に寄り添う1冊で、「先輩に聞けないときはこの本を読んでね!」と胸を張ってオススメできます。

――この本、学生相談室で勤務されている方々が書かれているんですね。現場を知っている先生たちなわけですな。

ワタナベ:学生相談室って、何か問題があってから行くイメージがあると思うんですが、そこで働いている先生方からするとそんなことはまったくないそうです。むしろカフェにでも行く気分でふらっと立ち寄ってほしい、という話をされていました。

――たしかに、もっと身近に感じてもいいんでしょうね。学生時代に、気軽に相談できる場所を知っていたら、心強かったかも…(編者の石垣琢麿先生による紹介も併せてどうぞ)。

社会の動きと心理学

ワタナベ:コロナ禍の初期にマスクの買い占めが話題になったじゃないですか。あと、マスクをするしないの揉め事とか。

――ありましたね。マスク1つ買うのにも苦労したあの頃……

ワタナベ:その手の現象を、多くの社会心理学者が研究対象にしていたのも印象的なことでした。

――なるほど。社会心理学って、どういう学問なんですか?

イノイシ社会心理学は、個人が他者、集団、社会から受ける影響や、集団の心理過程を研究します。言い換えると、人が複数人いることで起こる現象が研究対象になりますから、揉め事デマメディアからの影響なんかも扱われるわけです。

――なるほど! わかりやすい。

ナカムラ:コロナ禍で社会に大きな変容が生じたからこそ、社会心理学について学んでおく必要が再認識された、というのは言いすぎでしょうか。重厚ですが『社会心理学(補訂版)』(New Liberal Arts Selection)などは定番です。

――おお、しかしこれは、結構な「鈍器」ですね! 初学者は、ちょっと気後れしちゃうような…?

ワタナベ:この厚さには、大学4年間にしっかり寄り添いたいという思いが詰まっていると思っていただければ……

――学生さんへ、思いが届きますように…。

変わるものと変わらないもの

ワタナベ:つくづく、人間心理に向き合うことの多いこの3年間だったと思います。とはいえ、コロナ禍で心理学が180度ひっくり返ったわけではありません。

――どんな学問にも、蓄積と更新がありますもんね。とすると、紹介すべき本は…?

ナカムラ普遍的に読まれる定番書は、実は前回の記事からあまり変わっていないです。東京大学出版会の『心理学〔第5版補訂版〕』は今なお定番ですし、前回も紹介した『はじめて出会う心理学〔改訂版〕』はやはり有斐閣のベスト&ロングセラー不動の第1位です。

あらためて読んでほしい1冊

――新刊と定番書を押さえたところで、あらためて「これから勉強してみたい」とか「心理学の本を読んでみたい」という人に「1冊目」をおすすめしてもらえますか?

ナカムラ:予備知識なしに読めるという点で、『ゼロからはじめる心理学・入門』がおすすめです。前回も紹介しましたが、「心」は目に見えないのに、どうやって扱えるの? という方法論に関する問いかけからはじまり、心理学の全体像をつかむことができると思います。

――なるほど。やっぱりストゥディアシリーズですねえ。

イノイシ:ほかにも、『教養としての心理学講座』はいかがでしょうか。「心理学を学ぶと人の心が読めるようになる?」とか「心理学って占いみたいでうさんくさい?」といった誤解を解きながら、科学としての心理学の姿を伝えています。大学の講義を元に書籍化したもので、学生さんが実際に興味を持ったトピックが豊富なので、心理学を専門としていない人にとってもおもしろいと思います。

――読み物としても楽しめるわけですね。しかし、心理学では「科学」がキーワードになるんですね。ほかの社会科学や人文科学との力点の違いを感じました。

この本のここがおすすめ!

――最後に、さらにおすすめしたい「これは!」という本はありますか?

ワタナベ:心理学が日常のあらゆる場面に顔をのぞかせることは、心理学スタディメイトを読んでいただくとわかると思います。

こちらは、心理学のいろいろな知識を丸暗記するだけなんてもったいない! ということで始まった企画で、当初は学び直しの1冊として始まった本なのです。ただ、企画が進むに連れて、むしろ心理学のカバーする領域の広さや、何よりその「おもしろさ」を示せる本だなということにも気がつきまして。最終的には、ある程度学んだ人にも、はじめて学ぶ方にもおすすめできる1冊に仕上がりました。

――なるほど。新しく立ち上げた「y-knot(ワイノット)」シリーズですね。このシリーズは「売り」の一つとして、ウェブで補足資料を提供したり、授業のサポートをすることをうたっています。

ワタナベ:本書では特に古典文献リンク集ですね。心理学を学ぶうえで重要とされる古典がいくつかあるのですが、これは日本ではあまりまとまった情報がないようなんです。書籍中でもたくさん古典が紹介されているので、この機会に代表的なオンラインライブラリや資料サイトを整理してみました。

イノイシ:同じy-knotシリーズの『これからの障害心理学』もウェブサポートが充実しています! 興味を広げるお手伝いができればと、この分野に関する小説や映画、マンガなどを紹介した「文献・資料案内」を用意しています。ぜひ、本書とあわせてのぞいてみてほしいですね。


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