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コドモの夢をカタチにできる大人

産業の空洞化。

そんな言い尽くされた言葉を聞いたところで
今さらすぎて、音が右耳から左耳に抜けるだけ。

サンギョーノクードウカ

こんな感じで、言葉の本質には、
どうにも手が届きそうにない。


どうせたいして興味もない奴が吐き棄てる、
傍観者の言葉。

具体的な解決手段は思いつかないけど、
ベキ論くらいは言わないと、
メディアの仕事は成り立たない。

興味がないのがバレずに済むよう、
危機感だけ、余計に煽る。

うたがって聞いてないと、
当事者でさえ騙されて、傍観者にされそうだ。


斜陽産業の ど底辺。

縫製業。
空洞化の代名詞。

アパレルの生産背景は、
とっくの昔にアジア圏だ。

中国。
人件費が上がったら
次はベトナム、バングラディッシュ。

当たり前だ。安いんだから。

原価率を下げるのは、経済的合理性だ。
タスクを処理しているだけで
そこに悪意も 善意もない。


たまらないのは、生産者だ。

縫製業は 食べていけない。
食べていけないから、人が増えない。
人が増えないから、受注を増やせない。
受注を増やせないから、利益が出ない。
利益が出ないから、食べていけない。

利益を出すため 単価を上げると
余計に仕事は 減るばかり。

若手が育つ はずもなく、
高齢化に歯止めはかからない。


市場原理に起因した、繰り返される この螺旋を、
産業の空洞化というのだ。

その現象は自然の摂理で、
潮流であり、風向きであり、物理である。

日本の縫製技術が 中国より高いか低いか。
そんな話は、関係ないのだ。

仮に技術が優れていたところで、
潮の流れは変わらない。

市場の力学は明らかに、
国内縫製業の淘汰を望んでいる。

その前提を受け入れなければならない。

日本の縫製業界は、
わたしがこの業界に入る前から、
とっくの昔に終わっているのだ。


前置きが長くなったが、
要するにこれが、前提条件だ。

市場原理。

近寄る船を 余さず飲み込まんとする、
渦潮の正体。

海面に ぽっかり空いた穴。
航海を突然の悪夢に引きずり込む、
螺旋の地獄。

誰の悪意も 善意もなく、
市場原理の螺旋は自然発生的に現れて、
飲み込んで、ただ消える。


さあ、生きのこる方法を考えよう。
潮流 逆巻く海峡を抜けて、大洋に出よう。

船が飲み込まれるのをぼうぜんと眺めていたら、
あたりまえに、死ぬ。

アパレルの下請けを辞めて、
衣裳をつくる仕事に変わってから、
収入は目に見えて増えた。

ミシンを持つ家庭が どんどん減る一方、
洋服お直し店は どんどん増えている。

CtoCの時代が来ている。
個人の時代が 始まっている。

新しい時代は、もうすぐそこだ。
きっとどこかで、幸せな航海が待っている。

繊維 → アパレル → 縫製業という
構造的な地獄から
縫製業だけ 違う世界に漕ぎ出すのだ。


下請けをするのを、悪いとは言わない。
だいじなことは、依存体質から抜けること。

誰かに依存してはいけない。
そいつに切られたら、終わりだ。

下請け仕事は、炭水化物だ。
それもとびきり、依存性の高いブツだ。

要するに縫製業界は、
安い炭水化物ばかり食わされ続ける、
不健康な食卓なのだ。

とりあえず腹は膨れるからって
それに依存してないで、
ちゃんとオカズを自分で選んで食べるのだ。

そのうちオカズを増やせたら、
炭水化物を減らしたい。

できれば摂らずに 済ませたい。


【nutte】という船は、
この思想に基づいて設計されている。

職人がすこしでも、
下請けに依存しなくて済むように。

アパレルの下請けから抜け出して、
自分で仕事を選んでいけるように。

職人は、船の漕ぎ手だ。
誰かのために、船を漕ぐ。

ともに目的地に、たどり着くために。

誰のために船を漕ぐのか。
なぜその目的地に、わたりたいのか。

だいじなものは、選ぶ権利だ。

選ぶ権利をなくしたとき、
海をわたる理由を見失ったとき、
船を漕ぐ筋肉から、拠り所が失われる。

目的は失われ、櫂はただの棒になり、
漕いでも漕いでも 推進力は生まれない。

誰のために縫うのか。
自分が縫ったものを誰か着てくれるのか。

笑顔になって くれているのか。

縫う目的を取り返す。
そのためにnutteはある。

nutteは誰でも縫製を依頼できる。
アパレルでも、そうでなくても。

その中から、自分に合った仕事を選べる。

もちろん、選ばれるハードルもある。
ハードルをつくるために、
技術テストは受けてもらう。

そうしないと、フェアじゃない。

職人と依頼者は
お互いに選ぶ権利があるのだ。


nutteにはいろんな仕事が掲載される。

大きい仕事も、細かい仕事も。
割りのいい仕事も、安い仕事も。

ファッションとは無縁の仕事も、
たくさん依頼されてくる。

あまりに無縁すぎて
普通じゃぜったい関わりを持てないような
独特のニッチな業界からも。

そういうやったことない仕事を
わざわざ選んで、トライして、
技術を磨くのもいいだろう。

あるいは継続性を重視して
細かくても続く仕事をいくつか選ぶのも、
もちろんいい。

自分の基準で仕事を選んで、食いつなぐ。
生き延びる道に向かっているなら
それでいい。

どんな細かい仕事でも
この夢のないアパレルの下請けから
すこしでも抜け出せるなら
それでいいのだ。


夢がないのだ。
アパレルの世界に。

百貨店はバタバタつぶれて
東コレブランドが破産する。

職人は安く使われて
工場には後継ぎがいない。

服飾専門学校を卒業したクリエイターの卵に
就職先はない。

はまったら抜けられない、
この螺旋地獄。


それでも、職人の技術だけは、
次の世代につながなければならない。

どれだけメーカーが潰れようとも、
百貨店が閉まっても。


ファッションは、夢の世界だ。
服飾専門学校は、夢の入り口だ。
少なくともわたしにとっては、そうだった。

ファッションやりたいヤツなんて、
どこまでいっても
目をキラキラさせて夢を語る
コドモみたいなヤツだったはずだ。

今もきっと、そうなんだろう。

そしていま、そんな夢に応えられる大人が
この国からいなくなる。

その責任を、
空洞化させたヤツらが取らないからといって
職人が自分の技術をつなぐのを
あきらめちゃダメなんだ!

職人たちよ。立ち上がれ!
あなたがたはこの国に残された
コドモの夢をカタチにできる大人だ。

だから、生き残れ。
細い仕事で食いつないでも。

炭水化物に依存しないで、
オカズを細かく、いっぱい食べろ。

筋肉をつけるのだ。

新しい旗を掲げる次の子たちが 大人になる時、
その筋肉で船を漕いでやってくれ。

コドモたちは、もうすぐ大人になるんだぜ。


(つづく)

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